第71話 恐怖の大王 序
なんか、みんながやばい宗教団体とどんぱちやったらしい。
あんまり危険なことはしないでほしい。心配だから。
俺も参加できないしな。なんで主人が参加できないんだよ。
木だからだね。この流れ何回かやった気がする。
今は1996年か。
動けないの辛いから早く16年経ってくれ。
ちょっと待て。今の樹高いくらだっけ。
開け!機能ウィンドウ!
何を強化しますか
→耐火性
樹高
幹周り
強度
しなやかさ
葉の数
葉の鋭さ
葉の射出
根
森人生成
樹液生成
細胞操作
*光合成効率を変える際はここを押すこと。今の属性は陽です。
どこを強化しますか
→1〜100m
101〜200m
201〜300m
301〜400m
400〜500m
500m〜600m
600m〜
樹高630m
確かこの前確認したのが50年前だったな。
ルナに服を作った時にも見た気もするけど、よく覚えていない。
あれは何年だったっけ。1975年あたりだったような、それよりあとだったような。
50年前は622mだったはずだ。21年前は627m
50年で8m、20年で3mか。
⋯⋯あれ? これやばくない?
あと16年で4m以上伸びろと?
1.5倍じゃないか。
いや確かにルナを相手にした時とかちょっと木の力を使った気もするけど。
それにしたって伸びが悪い。あれか。近代社会が悪いのか。
なんか、光化学スモッグとか排気ガスとか体に悪いらしいし。
そういえば、この頃息が苦しい気がする。
みんなに言って、環境保護運動を進めてもらおう。そうしよう。
あとは問題になることはないよな。
2000年問題とかあったらしいけど、ちゃんと乗り切れたって聞くし。
あとは、あれか。ノストラダムスの大予言。
空から恐怖の大王が降ってくる。
外れたから良かったようなものの、当時は信じる人も多かったらしい。
⋯⋯ひょっとして、俺の存在がありえるのなら、恐怖の大王もありえるんじゃないか。
そんな、まさか。あははははは。
心配になって来た。
気をつけるように言っておこう。
●
「恐怖の大王に気をつけろって言われても。」
愛は首をひねっていた。
恐怖の大王とは、ノストラダムスの予言書で、1999年に空から降ってくると言われている存在である。
オカルトマニアの間で噂になってる程度だ。
今まであたったと言われる内容も、こじつけがいいところだった。
「心配いらないと思うんですよね。」
こればっかりは、気にしすぎだろうと愛は思った。
第一恐怖の大王とはなんなのか不明だ。王様一人空から降ってきたところで笑い話になるのがオチだろう。
愛は、あまり真剣に調べはしなかった。
一方やる気になっていたのが、ミトである。恐怖の大王とは子供心をくすぐるワードだった。
学校に行くくらいしかやることはないため、彼女は片手間に情報を集め始めた。
彼女もまた技能「諜報」を受け継ぐものである。
情報収集の速度は、常人とは比べ物にもならない。
この頃広まったインターネットを駆使して、世界各地の情報を集める。
もはや伝説のハッカーとして名を馳せていた。
ルナはよくわからないようで、ぼうっと、その様子をみている。
ミトが楽しそうだから、彼女も楽しかった。
そうして、色々探っているうちに、NA○Aの秘匿情報にアクセスした。
1999年、七月。巨大な彗星が地球に衝突する可能性が高い。
各国首脳には周知するが、無用な混乱を避けるため、市民には伝えないこと。
そんな情報が書かれていた。
大和杉の言っていたことが現実になったことにミトは驚いてしまう。
なおも見ていくと、アメリカが主導して、ミサイルを打ち込み、軌道をずらすという対策が取られるようだ。
99%まではうまくいくという試算結果も載っていた。
残りの1%はいいのだろうか。
そして、空に明るく輝く彗星を隠し通すことはできないはずなのだが。
すれすれを通ると強弁するらしい。
危ういものを感じてしまう。
もし何かあってもいいように、ひいおじいちゃんの上で待ち構えたほうがいいかもしれない。
ミトはそう思った。
みんなは忙しそうなので、秘密だ。
ルナと一緒に大和杉の上まで行った。
もはや、上に上がっては見つかるからいけないは有名無実感がある。
輝夜はほとんど無視しているし、他のみんなも何かあったら集まっている。
愛と明は誤魔化すのに四苦八苦しているようだが、やめてとは言わない。
彼らの心の拠り所は大和杉なのだ。
大和杉自身も自分では気づいていないが、寂しがりやだ。
誰か一人でもやってくると大げさなほどに喜ぶ。
自然と、暇なときは足が向くようになってしまう。
と、いうわけで、ミトとルナが二人でやってきても、大和杉は不審がることもなく歓迎した。
いつものようにそばにいた輝夜はルナを抱いてご満悦だ。
大和杉も撫でたそうにしている。
我慢すべきだとはわかっている。
634mに届くかは予断を許さない状況だ。
それでも、可愛い子どもを可愛がりたいという欲求はとてつもなく強いものだった。
なんとか自重する。
大和杉も大人になったのだ。
「それで、何しに来たんだ? いや、別に用がなくてもどんどん来てほしいけど。」
「えっとね。前に言われてた、恐怖の大王についてわかったから知らせに来たんだよ!」
ミトは嬉しそうに言った。
彼女にとっても、大和杉の存在は大きい。直接声をかけられると嬉しくてたまらなくなる。




