第64話 ミトとルナ
怪獣娘の名前はルナにした。適当だ。
いや、輝夜と同じネタかこれ?
⋯⋯気のせいだと思っておこう。
なんか輝夜が讃岐造とか言い始めたから危なかった。
この子にネーミング任せちゃダメだ。
とりあえず二字縛りでひねり出した。俺のネーミングセンスがわずかばかりの向上を見せてる気がする。
この4000年は無駄じゃなかったんだな。
いや、なんで向上したのかはわからないけど。
そこらに文字が溢れてるから、再学習できたのだろうか。
時間もたっぷりあったし、勉強は結構簡単だった。
今だったら大学に受かるかもしれない。
人に戻ったら楽しみにしよう。学習指導要領の改定だけは勘弁な。
なんで毎回覚える範囲が変わるんだ。早くゆとり教育してくれ。
さて、白と明の子供であるところのミトのスペックだが、こうなっている。
ミト
種族 森狐
技能
「軍勢召喚」
「雲乗り」
「全体麻痺付与」
「諜報」
「忍術」
「房中術」
「射撃」
「呪術」
「薬物生成」
森人族ってかなりのチート種族だな。
子供は全技能持てるのか。
いや、でも今回の子は二人とも女の子だし、もうそんなことにはならないだろう。
人と一緒に生きることは難しいからな。長命種族の宿命だ。
まあ、植物が一番の長命なんだけどな。永遠の生命が欲しかったら杉に転生したらいいと思います。
⋯⋯ところでルナが男の娘ってオチはないよね。もしくはふたなり。
輝夜にルナの様子を観察させたが、恐らく大丈夫とのことだった。
ただ、いつも黒スーツで身を覆ってるから、本当にそうかまではわからなかったらしい。
あれを脱がせたらこちらが被曝するから仕方ない。
下は見た所つるりとしていたが、上の膨らみは薄いんだよなあ。
まあ、まだ子供だ。焦る時期じゃない。
育ったら考えることにしよう。
ミトとルナは、仲良くなっていた。よしよし。百合の純粋培養だ。
俺は一人で邪なことを考えていた。
いや、同一世代が仲良くなっているのはいいこと。
そこに他意はない。きっと。多分。
そういえば、ミトの技能に薬物生成というのがあったけど、まあ、必要になることはないだろう。
フラグじゃない。
そういえば、何か忘れていることがある気がする。
戦後、コンクリートが街を覆い始めたら気をつけなくちゃいけないことがあったような。
なんだったっけ。
●
国会議事堂。そこでは、一つの法案が提出されようとしていた。
国民の間で増加するスギ花粉症の原因を大和杉にあると断言し、切ることで経済を活性化させようという法案だ。どう考えても突飛で、現実味のないものである。
だが、それをおかしいと思うものは存在しなかった。
まるで、高次の存在に思考を操作されているかのように。
提出したのは与党。野党は、それだけのために法案を作ろうなどというのはおかしいと抗議していた。
憲法草案には杉を、民主主義の象徴とするとまで書かれていたのだ。
その条文は人知れず削られたとはいえ、真っ向から反する法案だ。
まあ、これは知る人もいないことだからいいだろう。
まず法レベルの話ではない気がする。もっとこう予算案あたりでやるべきだろう。
とはいえ大和杉はすでに世界的に有名な木だ。
法案という確かな強制力を持った形でないと切り倒すことはできないという判断だった。
国策として行った杉植林政策の失敗。それをカバーするためにどうしても、怒りの矛先を別の方向に曲げることが必要だった。
そのための生贄にされたのが大和杉である。
多少の不自然さはあった。
だが、何者かに思考誘導された一部の議員の押しは強い。
常任委員会から本会議に回されたそれは、衆議院を通過した。
あとは、参議院を残すばかりである。
●
「そんな。私が見逃すなんて。」
愛は呟く。
その時ようやくその情報を掴んだのだ。
情報が氾濫し始め、取捨選択を行う必要がでてきた。
これまでのように、全てを見張るということはできなくなっている。
もし、大和杉が注意でもしていれば別だったのだろうが、彼は花粉症のことなど忘れていた。
大怪獣戦も切り抜けて気が緩んでいたのだろう。
もう、自身を脅かすものなどないとたかをくくっていた。
だからこそ、このような隙を見過ごしてしまったのだ。
法案が成立すれば、日本という国を相手にしなくてはいけなくなる。
戦えなくはないだろう。
だが、それはとても難易度が高い。
何としても、この法案の成立を阻止しなくてはならなかった。
すぐさま愛は情報共有に入る。
大和杉の下に集まって、作戦会議だ。
●
愛の言うことを聞きながら、俺は冷や汗を流していた。
まるっきり忘れていた。
花粉症に対処するって1000年前誓ったじゃないか。
⋯⋯流石に長すぎるので忘れるのも仕方がない気がする。
とはいえ、そんな事態になっているなら仕方ない。
ここから挽回策を探っていこう。
「どんな手段を取ればいい?」
俺はみんなに聞いてみた。
俺の樹上に9人が車座になっている。流石に手狭だ。
そして、少し成長してきたとはいえまだ小学生くらいのミトとルナはいらなかったんじゃないだろうか。
まあ、子供の発想力に期待しておこう。
「まずは、参議院で否決させないと話になりません。」
明が口を開いた。みんな黙って聞く。一番優秀なのは明というのはすでに暗黙の了解だ。
「幸い、今の参議院は野党が多数派です。よっぽどのことがなければ否決されると思います。」
やった。ねじれ国会万歳!
「とはいえ油断はできません。企業として確認はとっておいたほうがいいでしょう。」
いちいちもっともだ。もう明一人いればいい気がしてきた。
「参議院で否決されたら、衆議院に戻るんだよね。」
白も割と博識だ。すごい。
「そうね。そして3分の2以上の賛成で本当に可決されてしまう。」
「衆議院の優越っていうやつだよね!」
「ミト、すごい。」
年少組も参加してる。ミトは元気っ子で、ルナはゆるふわだ。
そして、そんなの小学校で習うのか。忘れてたぞ。
⋯⋯俺の頭がよろしくない問題はおいておこう。
「そして、与党は3分の2以上の議席をすでに獲得してるんですよね。」
愛はため息をついた。
バレンタイン特別編を書いて今日更新する予定だったのですが、そういやルナの名前だしてないじゃんということに気づきました。危ない危ない。
たぶん明日か明後日に上げます。




