第55話 戦後なう
マッカーサーが威張っている。
連合国司令長官として日本の占領戦略を主導する彼は、やる気に満ち溢れていた。自分がこの時代遅れの国を変えてやるという自負がある。
俺を切り倒そうと言わないか心配だ。
いや、言ったらしい。愛が笑顔で報告してきた。やっぱり怖いよこのこ。
今回は何もやらなかったようだ。アメリカ軍の実力者に止められたらしい。空襲を主導した人物だそうだ。ふむ。俺の好敵手と言ったところか。認めてやろう。
なんか、俺の下にやってきて感心していた。愛の報告でその男だと知る。
なかなか違いがわかる男だ。アメリカ人も悪い奴ばかりではない。いや、空襲してきたのは許さないけど。
さて、もう後は復興だけだ。復興需要で切り倒されないかとか、いろいろ心配事はあるけど、一応は大丈夫だろう。切り倒すのも一苦労だろうし。
原爆の放射線の影響は多分心配ない。遠かったからな。キノコ雲は見えたけど。
見えた時点で放射線が来るのならそれは諦める。仕方ない。あそこで撃墜できただけでも儲け物だ。
国内が落ち着いてきたら、輝夜たちに何か事業やらせてみよう。
俺が人間に戻った時に生活する基盤みたいなのが欲しい。
もう、俺の上が絶対安全圏ともいえなくなるしな。絶対覗く奴が出てくる。
まあ、後は流しでいけるだろう。そういえば、今の樹高はどれくらいだっけ。
開け。機能ウィンドウ!
何を強化しますか
→耐火性
樹高
幹周り
強度
しなやかさ
葉の数
葉の鋭さ
葉の射出
根
森人生成
樹液生成
細胞操作
*光合成効率を変える際はここを押すこと。今の属性は陽です。
どこを強化しますか
→1〜100m
101〜200m
201〜300m
301〜400m
400〜500m
500m〜600m
600m〜
樹高622m
⋯⋯あれ?これ634m厳しくないか?
耐火性に投資しすぎた気がする。いろいろあったからな。仕方がない。
後12mか。いや、頑張ればいけないこともないんだけど。
とはいえ、下手に越えるとスカ○ツリーがさらに高く建設される可能性がある。抑えめで行こう。633m止めを目指すぞ。
輝夜たちは、拠点と事業づくりに奔走している。権力は力だ。
隠れ蓑となるし、悪いことはない。今なら財閥の力も衰退している。のし上がるチャンスだ。
是非大企業を作って欲しい。資本金ならいつもの要領で輝夜が用意できるから。
明が意外な才覚を発揮しているらしい。頼れる孫だ。俺は下を見下ろしながら誇らしく思った。
そんなある夜。俺の内側から扉が開いた。
これを見たのは遠い昔。もう3000年は前だ。
でも、そんな不思議な現象を忘れるはずがなかった。
長い藍色の髪に豪華な花飾り、着物は着流しでゆらゆらと揺れ、帯の結びは複雑怪奇な美しさ。総じて優美という言葉が似合う美人だ。ただ、目つきだけが致命的に悪い。
「カヤノヒメ⋯⋯。」
俺は思わず声を出してしまった。
この近代の神秘の薄まった時代に彼女が現れるなんて全くの予想外だ。
でも、この前も彼女は俺に気づかなかった。
多分神には俺の声は聞こえないのだろう。
流石に近頃盛りだくさんで神様のことを忘れてきた。
悪口もこの頃は言っていない。俺が心配する必要なんてないはずだった。
だが、扉を開いた彼女はすぐに体の向きを反転させた。
俺をまっすぐに見つめている。
どう考えても何かに気づいている。
いや、お前が転生させたんだろ? 忘れてるわけないだろ?
彼女は俺に手を伸ばそうとした。
いや、それを取りやめた。拳を握る。
えっ。まさか。
スッパーン
乾いた音が響く。
しっかりと腰だめした殴打が俺に入った。
五重塔構造があってなお、凄まじい威力だ。耐えきれない。
だが、彼女の拳からエネルギーが運ばれてくる。
さすがは植物の神。体全体が、俺にとってはエネルギーの塊だ。
それを使ってなんとか体を立て直す。危なかった。
「お前は誰だ。」
「何言ってるんだ神様。」
「俺を知ってるのか。ああん?」
「ふざけるな。俺をこの姿にしたのはお前だろう。」
「覚えがないぜ。」
「俺の記憶でもなんでも読み取れよ。」
「俺の子といえどその態度は許しがたいな。」
「ほんと最初から最後まで性格は同じなのな。神様は。」
「一体お前は何を知ってるんだ?!」
神様の力が俺をかけ巡ったのを感じた。俺を探ったのだろう。
「なんだと?! いや。なるほど。それなら納得できる。未来の俺と昔の俺がそんなことをしたのか。」
「どういうことだ?」
「いい加減、その態度やめろ。俺を敬え。」
くっ。逆らえねえ。植物の神さまは伊達じゃない。
「なんで神様は俺のことを覚えていなかったんですか。」
丁寧口調を使うしかなかった。くそう。やっぱりこの神様は嫌なやつだ。
「お前に歴史知識を授けたからだな。全く、お前を作り出したことさえ忘れっちまうとは思わなかったぜ。」
「つまり⋯⋯?」
「昔の俺が、お前のために自分の記憶を渡したんだよ。」
なるほど。
俺はそんなに歴史に詳しくなかったはずだ。
最低限の知識は神様の記憶から手に入れていたんだろう。
外国のことがよくわからなかったのは、神様が日本の神様だったから。
外のことは管轄外だったんだ。
その代わりに神様は俺に対する記憶を失い、今まで干渉することなく引っ込んでいたと。
おかしいとは思ったんだよなあ。この神様が俺の悪口を聞いておいて制裁にこないはずがない。
ただ、普通に聞いていなかったんだ。それならわかる。
命拾いした。昔の神様グッジョブ。
「じゃあ、どうして俺の存在に気づいたんですか?」
気づく要素無かったと思うんだけど。
「原爆だな。」
「なるほど。」
さすが原爆。
「あの兵器は神様の間でも話題になっててな。気をつけろと言われてたんだが、それを撃ち落としてただろ。」
「俺がやったわけじゃないですが。」
「お前の一部だろ。なら俺の管轄だ。」
「そうですか。」
輝夜たちにもこの神様の影響が及ぶのか。嫌だな。
「あん?何が嫌って?」
「いえいえ。何も言ってませんよ。」
俺は愛想笑いを浮かべた。おだてるに限るぜ。植物の表情も神様なら読み取ってくれるはず。
「まあ、神でさえ苦戦するような兵器を落としたのは流石に異常だわな。」
「それまでは普通だと思ってたんですか。」
「だって俺の子だろう。そのくらいできるに決まってるぜ。」
こいつ、俺とは別の方向で親バカだ。
俺が子枠に入っているのは解せないけど。
「で、ようやく気づいて、何をする気なんですか?」
「当然、最大限の支援をするに決まってるだろ。イワスヒメのやろうに一泡吹かせられるんだからな。」
ん? 神様ってイワスヒメと親友じゃなかったっけ?
なんでこんな攻撃的なんだ?




