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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
第四章 近代

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第52話 東京大空襲 終

 

 さすがの輝夜たちも少しは取り逃がしてしまったようだ。


 俺の視界には100機ばかりの爆撃機がこちらへ向かって飛んでくるのがはっきり見えた。

 夜だろうと関係ない。そう、植物ならね! 俺だけだろうな。それはそう。


 バラバラバラとプロペラ音が鳴っている。


 下町は混乱していた。


 夜中の空襲警報だ。無理もない。


 だいぶ減ったとは言え、まだ100機。東京を灰燼に帰することは十分にできる。焼夷弾という爆弾の恐ろしさをなめてはいけない。



「白、行けるか?」


 声をかけた。緊張していたら解きほぐしてやらないとな。白は俺の最終防衛線だ。


「た、多分。」


「今回は思う存分ぶっ放していいぞ。責任は俺が取る。後始末は仲間に任せていい。」


 白の目が輝いた。


「わかった。ありがとう。おじいちゃん!」


 生き生きしている。全く、生粋の砲手だな。


 彼は俺の最上部で蓬莱の玉の枝を構えた。


 枝に実る7色の実が月明かりを反射する。


 どちらかと言えば神事が始まるといったほうが雰囲気をよく表しているかもしれない。でも、これから始まるのは迎撃であり、戦争だ。



 下町が強烈な光で照らされた。


 先頭を行く爆撃機が、一足先に爆弾を投げたらしい。それは爆発とともに、膨大な光を撒き散らす。目印にする気だろう。


 俺のいるところからは少し離れているが、火事と言うものはあっという間に燃え広がる。油断はできない。


 後続の飛行機も焼夷弾を投下していく。あっという間に、火の海が出来上がった。


 先頭を行く飛行機は手練れだ。低い高度を、超人的な飛行技術でやすやすと抜けてくる。


 方角は、こちら。


 操縦士が俺の姿を認めて、ニヤリと笑った気がした。俺も目標の一つか。

 だが、俺は黙ってやられるだけの杉じゃないぜ。


「白、撃てー!」


 指示を出す。


「はい!」


 弾幕。蓬莱の玉の枝の意味のわからないギミックが作動する。


 散弾のように、白い弾が飛んでいく。しめて100発。


 それを技能「射撃」を持つ白は1発も無駄にすることなく当てた。


 知ってはいたけど、すごいチートだ。


 予測外の攻撃を食らったからだろう。戦闘機は何もできずに落ちていった。


 後ろの連隊が混乱している。チャンスだ。


「少し遠いよ。」


「無理なのか?」


「任せて。」


 負けん気に火がついたようだ。


 こっそり見守っていた銀孤が優しげに笑った。

 うん。俺としても白の感情は共感できるし、誇らしい。

 まっすぐに成長してくれているからな。自慢の孫だ。


 孫なんだろうか。まあ、どっちでもいい。


 白の弾幕が再び、B-29の群れを襲う。


 炎の町の上、照らされた機体から黒煙が上がる。


 一機、また一機と落ちていく。


 空襲部隊はたまらず離れていった。


 俺の周りを襲うことを諦めたようだ。


 南へ飛んでいく機体や、俺を大きく迂回する機体が目に付く。


 これは大勝利なのでは。


 いや、離れたところで焼夷弾が投下されているけど。⋯⋯知らない。

 流石にそこまで白の弾幕は届かない。射程距離があるみたいだし。


 本来の歴史なら、このあたりは爆撃で焼け野原になっていたはず。

 ここが無事なのを喜んでくれ。流石に東京全体の面倒は見れない。


 かたはついた。東京は炎に包まれて燃えている。


 ただ、俺の下だけが静かだ。


 アメリカ軍は、マリアナへ帰投していった。


 相変わらず俺のそばには寄らないようだ。変な噂でも流れたのかもしれない。

 飛行機同士で連絡を取り合っているとかあるんだろう。


 輝夜たちが疲れ切った様子で帰ってきた。


 お疲れ様。労いの言葉をかける。生身で戦闘機に立ち向かうのは心配だったけど、無事だったようだからよかった。


 今は無事を喜び合おう。


 火は徐々に拡大しているようだ。アメリカ軍が風が強い日を選んだのはこのためか。考えている。


 銀孤が呪術「氷雪」を用いてこっそり鎮火に回った。


 燃え広がる前に消し止めればいいだろう。幸い夜だから目に付きにくいし。


 銀孤は空襲の時には何もできなかったからな。

 ここぞとばかりに張り切っている。



 本来なら一日中燃え続けるはずだった火災は、銀孤の力もあって昼前には消し止められた。


 ⋯⋯ちょっと歴史改変が過ぎたかもしれない。今更言っても、もう遅いのだが。


 10万近い死傷者を出したと言う話だったが、1万程度で済んでいる気がする。正確な数字はわからないけど。



 ●


「なぜ、これほど数が減っている!」


 攻撃隊司令官のカーチス・ルメイ少将は驚きと興奮のあまり、顔を赤くしていた。


 325機いたはずのB-29部隊は四分の1以下の75機まで減っていた。


「日本は航空戦力を失ったはずではなかったのか!」


 近くにいた下士官に怒鳴り散らす。


「恐れながら閣下。想定外の攻撃を受けたとの報告が入っております。」


「ほう。それは、わが国で秘密裏に開発されている原子爆弾よりも規格外というのかね。」


「いえ、流石にそれはないでしょう。全てを破壊し尽くす悪魔の兵器と比べられては困ります。」


「ふむ。具体的にどのような攻撃だったのか。述べたまえ。」


 ルメイ少将は詳細を聞いた。


 房総沖で赤の弾に打たれ、爆発した機体が100機ほど。なぜか機体をうごかせなくなり、落ちていった機体が100機ほど。


 東京にたどり着くころには味方は100機に減っていた。

 大和杉と呼称される規格外の大きさをもつ杉の方から、白い弾丸が放たれた。それは弾幕のようで逃れることは難しく、多くの味方が撃墜された。


「あの、大和杉か。学者連中は攻撃目標から外すように主張しているが。」


「日本軍はあの杉に軍事基地を設けているのでしょう。あの高さは脅威です。」


「なるほど。ふむ。日本の象徴とも言われているんだったな。」


 ルメイ少将は悪辣な笑みを浮かべた。


「何をするおつもりで?」


 部下は恐る恐る問いかける。


「決まっている。原爆で、跡形もなく壊してやるのさ。」



 こうして、大和杉最大の危機が訪れようとしていた。



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