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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
第三章 近世

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第45話 幕末

あけましておめでとうございます。

 

 黒船来航の噂が江戸中を駆け巡っていた。


 ついにきたか。俺は気を引き締める。


 これからどんどん近代的な武器が登場してくる。


 気が抜けない時代だ。


 流石にここから浦賀までは見えない。


 だが、確かに時代が変わった空気を感じた。


 多分これは俺だけではない。民衆も武家も、日本のすべての人が感じていたのだろう。


 この江戸の町にも、黒船の空砲の音が響いていた。独立記念の祝砲らしい。


 インデペンデンスデイというやつだ。仕方ない。アメリカはそういうのにこだわるんだろう。


 とはいえ驚くからやめてほしい。大砲を打ち込まれたら流石に耐えれない気がする。

 もっと樹皮の強度を上げておこう。



 日米和親条約が結ばれたようだ。

 ペリーは帰っていった。弱腰幕府ありがとう。

 下手に攘夷に走って、江戸に砲撃があったら困る。


 また下田にハリスが来たらしいけど、戦争だけはしないようにね。


 今のうちに第二次世界大戦を起こさないようにする方策でも考えようか。

 焼夷弾やら原爆やら、勝てる気がしない。


 満州事変は変えられないけど、5.15事件とか、2.26事件くらいなら妨害できるかもしれない。もしくは対空兵器だけ強化するとか。流石に後者はどうすればいいのかわからないな。輝夜の秘道具アーティファクトは完全にオーパーツだし。


 もともと技術者ってわけでもないから諦めるしかないか。


 まあ、後のことだし、今は放っておこう。


 そういえばそろそろ安政の大獄が起こるな。いや、その前に安政の大地震か?


 あれ、結構被害大きかった気がするんだよなあ。


 小太郎に伝えておこう。


 輝夜の方が早いか。


 いつものように夜にやってきた輝夜に伝える。


「次の地震は甚大な被害が予想されるから、備えておいてくれ。」


「いつも思ってたけど、何でわかるの?」


「もともと未来の人間だって言ってただろう。」


「それにしても詳しくない?私、昔のことほとんど忘れたんだけど。」


「それは俺もおかしいと思ってるんだよ。必要な記憶が、底の方からやってくるようなおかしな感覚がする。」


「それ、大丈夫なの?」


「今の所実害はないと思う。」


「ならいいけど。」


 輝夜はほっとしたようだった。


 ●


 地震の情報は小太郎に伝えられた。


 火災に対する備えがなされる。


 吉原は正門一つで検問を行い、遊女の足抜けを防止していた。


 周囲は全て堀で囲まれている。火事になった場合、逃げ場はない。




 別の場所にも一応跳ね橋はあったが、基本的に使われていなかった。


いざという時に使えないと困る。



 小太郎の指示で、跳ね橋が下された。


 だが、うまく下りない。どうにも破損しているらしい。


 いざという時の備えだったため、整備していなかったようだ。


 地震が起こってから気づいた場合、ひどいことになっていただろう。


 主人の先見の明に感謝するのだった。



 将門ら自警団の見回りも厳しくなった。夜には、不要な火を消すことを徹底させたのだ。


 いつもの不夜城とでもいうべき吉原の風景は少しばかりさみしくなった。

 その理由を知るのは吉原の人間を除けば大和杉だけだった。




 10月2日。


 の刻(午後十時ごろ)。


 地面が大きく揺れた。


 大和杉の予言していた安政の大地震が起こったのだ。


 江戸直下型地震というべきそれは、隅田川東岸と吉原に震度6以上の揺れをもたらした。


 埋め立てられてから日が浅かったことも理由だろう。


 大和杉も大きく揺れたが、いつものように揺れを逃してことなきを得た。


 この時、不思議と大和杉の下の地面の揺れは少なかったという。


 不思議な力を持つ木だという噂はさらに強固になった。


 この場合、力を発揮したのはイワスヒメの祝福した土なのだが、そんな細かいことはどうでもいいのだ。



 吉原もひどい揺れに見舞われた。


 だが、被害は驚くほど低かったという。


 まるで地震が起こることを予期していたような避難誘導がなされた。

 大きな混乱もなく避難が完了する。


 建物は流石に壊れたものが多かったが、人的被害は軽微だった。


 小太郎と将門の評判はさらに高まる。

 もう歳をとっているように見えないことは軽微な問題でしかなかった。


 さらなる信頼を受けるようになる。


 ところが、彼らは遊郭の復興に尽力した後、店じまいの支度を始めたのだ。




 小太郎は遊女たちの引き受け先を斡旋した。


 地震で半壊していたため、家の処分は簡単だった。


 人々は悲しんだが、小太郎たちの意思は固かった。


 こうして、吉原一の遊郭、風魔屋は江戸の終わりを見届けることなく姿を消した。


 その在りし日の姿を知るものは、一様にその栄華を懐かしく思い出したという。


 小太郎たちはやはり大和杉の樹上に戻っていた。


 これから幕末の混乱期に入り、危険であることを危惧した大和杉の判断であった。


 人数は増えているが、大和杉の大きさは規格外だ。

 しばらくは楽々暮らすことができる。


 彼らは、動乱を上から眺めて過ごすことになるのだった。



今年もよろしくお願いします

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