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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
第三章 近世

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第44話 葛飾北斎

 

 この頃どこぞの爺さんが俺を眺めている姿をよく見かけるようになった。


 北にいたかと思えば、南に。


 真下に来たかと思えば、遠く東の野原に。


 ただ、俺の方をじっと見つめては手元の紙に何やら書きつけている。


 どうにも俺の絵を書いているらしい。照れる。


 気になったので名前を調べさせた。


「葛飾北斎というらしいです。浮世絵の第一人者だとか。」


 愛は簡単に調べ上げた。


「俺でも知ってる。のちに世界的に有名となる画家だ。」


「どうにも今ご主人様の絵を書いているようで。大和杉百景と題しているようです。」


 富嶽三十六景的なものか。しかし、多くないか?

 そんなに俺が見える場所あるかな。


「ご主人様は江戸ならどこからでも見えますからね。」


「流石に言い過ぎでは。」


「江戸の人々の心の拠り所になってますよ。」


「だったら火事を起こさないで欲しいんだが⋯⋯。」


「それは無理でしょう。習性みたいなものです。」


「火事を出す習性のある町ってどうなんだ。」


「そういうものです。それで、北斎に関してはどうしますか。」


「うーん。放置。いや、北斎の描いた俺の絵は見たいな。」


「なるほど。では、悟られぬように支援をすればいいのですね。」


「店の仕事をほっぽり出してやるようなことでもないからな。」


「わかってますよ。明と白、ついでに輝夜にやらせます。」


 なんか、輝夜の扱いが雑になっている気がするけど、気のせいだよね。

 昔はもっと敬ってた気がするんだが。まあ、いいか。


「そうだな。その3人なら問題ないだろう。輝夜もいることだしな。」


「ところで、輝夜とご主人様はどこまで進んだんですか?」


「何のことかな。」


「声が裏返ってますよ。」


「そんなまさか!」


「みんな知ってますって。」


「やっぱりか。」


 俺はため息をついた。まあ、隠しているわけでもなかったし。


「あんまり輝夜を待たせないでくださいね。」


「2012年まで耐えればいけるはず。」


「西暦というやつですか。よくわかりません。ともかく、頼みますね。私たちも頑張りますから。」


「ああ。頼りにしている。」


 特に愛は、一番働いてもらっているからな。


「⋯⋯樹液飲む?」


 いたわり方がわからなかったので、とりあえず樹液を勧めてみた。


「ありがとうございます!」


 すごく喜んでくれた。俺の樹液ってそんなに美味しいのかな。

 自分では飲めないのが玉に瑕だ。



 ●


 大和杉の指示で、3人は北斎の家を見張っていた。


 汚いところで、まさに下町とでもいうべき様子だった。


 時折見える部屋の中も汚くて、人間が生活できるところとは思えない。


 隣の人の部屋は綺麗だったので、ここいら一帯が酷いわけではないらしい。


 性格的なものだろう。


 一心不乱に描いている様子がよく見えた。なるほどこれは天才だ。


 描き上がるものは精緻で生き生きとした色彩を放っている。


 それが無造作に、床に放り捨てられているのだ。


 後世の美術愛好家なら垂涎の光景だろう。


 放っておいても勝手に絵を描いてくれる。


 自然と、3人の仕事は絡んでくるならず者を事前に排除するだけになった。


 食い詰め浪人に、高圧的な武士。北斎の腕を知るものは多く、トラブルも絶えなかった。


 輝夜と明だけで余裕である。


 白の呪術も上達してはいるが、機密性において忍術にはかなわない。


 悔しそうだ。やはり彼も男の子なのだろう。



 つきまとっていたら、噂になっていた。


 超絶美人の輝夜に、美少女の明。

 さらに白髪の白が3人でこそこそしているのだ。話題にならないはずはない。


 とはいえ、肝心の北斎は気づいていなかった。


 3人も気を使っていたし、彼が噂に気を使う性格ではなかったことも幸いした。


 北斎が突然引っ越しをして慌てて探すこともあった。

 



 北斎は大和杉百景を次々と描き上げていた。


 日本橋。浅草寺。本所。荒川。江戸城。


 江戸のシンボルと言える大和杉と各地の名所が生き生きと活写された絵。




 庶民たちからの評判は上々だった。


 もともと大和杉の人気は高い。


 それが美麗に描かれているのだ。


 飛ぶように売れた。


 北斎はいつものように適当な金勘定をして貧乏になっていたが、これは気にしなくてもいいだろう。


 大和杉も自分の絵姿を見て悦に浸っていた。言うなれば自分が人物画のモデルに選ばれたのだ。喜ぶべきことに違いない。


 部下たちも自分のことのように喜んでいた。保存用と観賞用と実用用の三枚を買うものも多かった。


 輝夜は忍び込んで版画のもと板を手に入れようと画策していたが、流石に止められた。

 犯罪はダメだ。


 今度は黄金を生成してお金にものを言わせようとしていた。


 それもダメだ。


 みんな全力で止めた。


「輝夜はいつでも俺を見れるんだからいいじゃないか。」


 この大和杉の一言が決定打となったという。



 この大和杉百景は後年の北斎の代表作として世界中で人気となった。


 かの有名なゴッホさえも真似をしたというから相当だ。


 愛の技能「諜報」でも、流石にこの情報は集めきれなかった。


 鎖国しているから仕方ない。



 だが、ついに、その禁が破られる時が来る。


 アメリカの東インド艦隊司令長官、ペリーの率いる黒船艦隊が江戸湾に向かっていた。


年末更新乱れるかもです。

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