第42話 忠臣蔵と花火
久しぶりに江戸城をのぞいていたら、物騒な事件が起こっていた。
偉そうな老人に、若殿のような男が切りかかる。
老人はなんとか避けた。
すぐに近くにいた人が若殿を押さえつける。
大きな騒ぎになった。
若殿の方は切腹することになったようだ。
まあ、江戸城内で刀を抜いたのなら当然だろう。
それっきりだったら俺も気づかなかった。
江戸の町で、ある噂が流れている。
愛からの報告で知った。
あの若殿の家臣たちが、敵討ちをするらしいと言う噂だった。
聞き覚えがあった。これ、忠臣蔵だ。なるほど、この時期に起こるのか。
まあ、どうせ俺には関係ないだろう。
そう思って、動かなかった。
元から自分では動けないことには目をつぶろう。
そうしていたら、俺の近所にあの老人が引っ越してきた。
なんでだ。
吉良邸討ち入りって、火使ってないよな。大丈夫だよな。焼き討ちではないのなら大丈夫なはず。
とはいえ不安なので、銀孤にきてもらった。彼女がいればほとんど安心だろう。
将門が嫉妬してたけど、銀孤に諭されて引いていた。
女優位だ。逆らわないようにしよう。
銀孤について白が来て、それについて明が来て、いつものように輝夜が来る。
店の方は大丈夫なんだろうか。
心配になった。
白と明がじゃれているのにほっこりしながら、俺たちは吉良邸を見守る。
噂は正しかったみたいだ。
「天下に名高き大和杉様。我らが忠義をどうかご照覧あれ!」
朝方、派手な衣装に身を包んだ47人が俺に祈っていた。
まず俺に祈るのか。
感心というべきか迷惑というべきか。
とりあえず、見守っておこう。火事に対しては銀孤がいるし。
彼らは吉良邸を取り囲んだ。
「火事だー!」
大音量がここまで届いた。
一瞬焦ったが、注意を引きつけることが目的のようだ。
火をつけることなく門を壊して中に入っていった。
そして、しばらくたって、歓声が響いてきた。
無事に仇討ちを成し遂げたようだ。
よかったな。
火も使っていない。俺の中の評価はうなぎ上りだ。
江戸の人々も褒め称えていた。これは大人気ストーリーになるだけはある。
結局幕府に切腹させられる運命は変わらなかったようだ。
それでも、いいものを見せてもらった。
●
隅田川で花火大会が開かれるらしい。
吉原中で噂になっていた。
小太郎は、その日を1日休業にして、誰でも見に行けるようにした。
場所取りも完璧で、風魔屋の人々は河原でおもいおもいにくつろぎながら花火を待った。
屋台がたくさん出ている。祭囃子が聞こえてくる。
河川敷は、楽しげな雰囲気に包まれていた。
明は我慢できなくなった。
「白、少し抜け出そうよ!」
ぼうっとしていた白の腕を掴んでいく。
おめかしした明はいつも以上に人目を引いた。
白は腕を引かれながら見とれていた。やっぱり明お姉ちゃんは可愛い。
構ってくれることが嬉しくて、彼は彼女が大好きだった。
二人で手を繋いで歩いていく。
見上げれば、おじいちゃんである大和杉が黒々とした枝を広げている。
何千年も前からこの場所を見守っているのだと思うと、震えた。
おじいちゃんはすごい。明と白。二人の共通した認識だった。
木なのに優しくてよく撫でてくれる。優しい樹皮が気持ちいい。
考えていたら、行きたくなった。
「お姉ちゃん。おじいちゃんのところに行こう。きっと花火も良く見えるよ。」
気づけばそう誘っていた。
今までは明に連れていかれることしかなかった。
自分から誘ってしまった。初めてだ。お姉ちゃんは気を悪くしないだろうか。
「いいね。白が誘ってくれて、私嬉しい。」
お姉ちゃんはそう言って、にっこりと笑った。
胸が跳ねる。なんなんだろう。この気持ちは。
お姉ちゃんがいつもと違う着物だからというだけじゃない。
きっと、自分の中の大事な思いだ。
人の流れに逆行して、二人は大和杉のもとに急いだ。
「逸れるといけないから、手を繋ぐね。」
そう言ったのは明の方で、白はなんだか負けた気がした。
大和杉は二人の訪問に少しだけ焦ったようだったが、すぐに上に上げてくれた。
花火が打ち上がる。
思っていた通り、ここからの眺めは最高だった。
花火が下で咲いている。
明の顔を光の明滅が照らしていた。
二人は手を重ねて、並んで座っていた。
とても幸せだった。
●
いい雰囲気だな。俺は明と白を見ながら満足していた。
「ねえ。もう大丈夫よね。」
「大丈夫のはずだ。下で花火を見ている。」
「ふう。焦ったわ。」
そう。俺は輝夜と花火を待っていたのだ。
二人が来て焦ったが、なんとか鉢合わせしないで済んだ。
流石にデートがかぶるのはまずいだろう。
俺と輝夜のも一応デートだ。二人で同じものを見ているんだから。
間違いない。
種族が違っててもいいはずだ。
何はともあれ、輝夜も花火も綺麗だった。
毎年やってくれると一年がわかりやすいから嬉しいのだが。




