SSIF 桃太郎
少しだけ常識が違う世界線です
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りにおばあさんは川へ洗濯に行きます。
するとなんということでしょう。
大きな桃が上流からどんぶらこどんぶらこと流れてくるではありませんか。
これにはおばあさんもあっけにとられます。
とはいえ珍しいのは間違いありません。
おばあさんはお婆さんらしからぬ俊敏な動きで桃を川べりに引き上げるのでした。
大きな桃からは甘い香りがします。
おばあさんは家に持って帰り、おじいさんと一緒に食べることにしました。
一方こちらはおじいさん。
柴刈りをしていたのですがどうにも鼻がムズムズします。
それもそうでしょう。なにせ今は春。杉の花粉の季節です。
頭にきたおじいさんはそこらじゅうの杉を切り倒してしまうのでした。
さて、家に帰ったおじいさんとおばあさんは、桃を包丁で切ろうとします。
ところがどっこい。包丁が通る前に桃がパカりと割れました。
その中にいたのは元気な男の子。
これにはおじいさんとおばあさんも困惑してしまいます。
普通なら妖怪変化として処理してしまうところでしょう。
ところが、おじいさんとおばあさんには子供がいませんでした。
この子を神の授かりものだと信じてしまうのです。
桃太郎と名付けられた彼はすくすくと育ちました。
彼はある日、ある噂を耳にします。
鬼が暴れているという噂でした。
なんでも杉を切り倒した男を追っているとか。
意味がわかりません。杉を切り倒す男なんているわけがないのです。
杉は加護を授けてくれる存在として有名でした。
おじいさんは冷や汗をだらだら流していましたが、桃太郎は気づきませんでした。
「おじいさん、おばあさん。僕は鬼を倒しに行きます。」
桃太郎は二人からきびだんごをもらうと出発しました。
おじいさんが引きつった顔で手を振って別れを告げましたが、やはり桃太郎は鈍いのでした。
さてさて、桃太郎は順調に仲間を増やしていきます。
鬼の住むという大杉への道のりを順調に歩んでいました。
一方こちらはおじいさん。
花粉症を言い訳にこの辺りの杉を全て切り倒してしまった筋骨隆々のおじいさんです。
そこに鬼がやってきました。
「ここに杉を切った男がいるという話だが?」
紅毛碧眼の体格の良い鬼でした。
恐ろしいです。
ですが、おじいさんは開き直りました。
「わしは悪くない。悪いのは花粉じゃ!」
古くから杉は切ってはいけないと決められています。
おじいさんの逆ギレでした。
「捕縛する。技能「単体麻痺付与」」
「なんの!」
鬼の術をおじいさんは気合いで打ち破ります。
そして、風格を帯びた斧で鬼に立ち向かいます。
「うおりゃあー!」
凄まじい勢いです。
世が世ならホームランバッターになったことでしょう。
鬼とおじいさんの頂上決戦が始まりました。
地は裂け、空は唸り、動物たちは逃げ出します。
天変地異を引き起こしている二人の戦いは互角でした。
おじいさんの戦闘能力がおかしいです。
このまま終わらないのではないかと思われたその時、二つの影が二人の背中を蹴り倒しました。
おばあさんと、もう一人は黒髪の美しい女です。
二人はおじいさんと鬼を踏みつけたまましばらく談笑しました。
意気投合したようです。
おじいさんと鬼は呻くことしかできません。かわいそうです。
話はまとまりました。おじいさんは捕縛されることになりました。
「じゃあ、おじいさん、頭を冷やしてもらいなさい。」
「桃太郎さんが来たら返してあげますよ。」
そういうことらしいです。
しょぼくれたおじいさんと鬼。
どちらも互いの家庭での立場を察しました。
もう二人は仲間でした。
鬼が雲を呼び起こします。おじいさんは連れて行かれてしまいました。
杉の上で、おじいさんは桃太郎を待つのでした。
居心地はそこまで悪くないです。鬼の小太郎は優しい鬼でした。
もう一人、非常に美しい女がいましたが、あまり関わり合いになろうとしませんでした。
竹取翁の思い出が蘇るからでしょう。
おじいさんは残念でした。
さて、おじいさんが樹液ばかりの食事のせいで減量に成功した時、ようやく桃太郎が到着しました。
「じゃあ、私が戦ってくる。しばらくしたら姿を見せてやれ。」
「わかったわい。」
小太郎とおじいさんは頷きあうのでした。
桃太郎は小太郎を見ると、鬼退治だとやる気を出します。
仲間とのコンビネーションと桃太郎自身の実力で、さしもの小太郎も苦戦を強いられました。
麻痺も弾かれてしまいます。これが主人公補正というやつでしょうか。
チートです。
小太郎が危うい。
「リーフインジェクション」
杉の方から変な声が聞こえてきました。
斬りかかる桃太郎の刀を杉から飛んできた葉っぱが跳ね飛ばします。
あまりの出来事に桃太郎は呆然とするのでした。
その時、幹の影からおじいさんが姿を表します。
驚く桃太郎におじいさんは自分の罪を告白しました。
正義は鬼の方にある。桃太郎はそう悟りました。
悲しげに家路につきます。
それを非常に美しい女が呼び止めました。
彼女は懐から黄金を取り出しました。
そこにはそんなに入るようには見えないのに、大変な量の黄金でした。
餞別だと、その女は言います。
桃太郎と仲間たちは喜びました。
何もなしに帰るわけには行かなかったのです。
物語はめでたしめでたしで終わらなくてはなりません。
彼女の方としても、別に自分の資産をあげるわけではないので問題になりませんでした。
たくさんの黄金を手に入れた桃太郎たちは、楽しく暮らしたのでした。
めでたしめでたし。
おじいさんと小太郎は時々一緒に研鑽を積むようになったとか。




