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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
第三章 近世

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第40話 水戸黄門 破



密偵の尾行に気づかない男は、街の奉行所の中に入っていった。


しばらくためらうが、密偵も塀を越えて潜入する。


もう一つ、飛び越える気配がしたが、音もないので気のせいだろう。



先ほどの男は歩いている。


ある部屋の前で膝をついた。


「入れ。」


「失礼します。」


まずは社交辞令だろう。今のうちに屋根裏に潜入しなくては。



屋根裏に来た。

やっぱり誰かの気配はするのだが、見つからない。幽霊でもいるのだろうか。


「それで、お奉行様。私の計画になんとか加わっていただけないでしょうか。もちろん心づくしは用意してございます。」


「ほう。」


「こちらに。菓子を少しばかり。」


男はちらりと木箱を開ける。


金色が光った。


「風魔屋の後継ぎよ。お主もなかなか悪じゃのう。」


「いえいえ。お奉行様ほどでは。」


「先代は、わしになびこうとしなかった。お主が賢い男で嬉しいぞ。」


「こうして繋がりがあった方が何かと便利ですから。」


「その通りじゃな。はっはっは。」


「それでは、三日後、頼みましたよ。」


「ああ。出火は先代の責任としてやろう。何、町人風情はわしには逆らえぬ。」


「そうでしょうとも。」


媚びへつらう男。


密偵は正義感に燃えた。これほど典型的な悪党を見たのは久しぶりだ。


黄門様に報告せねば。


彼の頭の中からは、隣に感じる奇妙な気配のことはすっぽり抜け落ちてしまっていた。


そのまま水戸屋敷まで走っていく。



「何か企んでいるのはわかっていましたが、この程度の稚拙な策だとは。」


彼がいなくなってしばらくして愛は呟く。

技能「忍術」による潜伏はそんじょそこらの密偵の索敵能力では破られない。


「しかし、あの密偵はどこの手の者なのでしょう。敵というわけでもなさそうですが。」


調べてみることにした。


先行は許しているが、あの程度の相手なら、今からでも追いつくことは十分可能だ。


愛は、密偵を尾行し始めた。


江戸の町家の屋根を駆け抜ける。


南西方面へ向かうと武家屋敷が増えてきた。思っていたよりも大物のようだ。


密偵は水戸徳川の屋敷に入っていった。


徳川御三家の一つということに愛は驚く。


先ほどの奉行所よりもさらに警備は厳重だったが、技能「忍術」の前に敵はいない。


侵入に成功した。


先ほどの密偵を見つける。


彼は急ぎ足で一室に消えていった。


愛は頷いて天井裏に向かう。


御庭番らしき人物が見張っていたが、当然見つかるわけもない。


無事に話を聞ける場所に潜入した。





密偵が情報を持ってきた。


なんでも風魔屋の後継ぎが悪巧みをしているらしい。


「遊女の言葉もあながち間違いではなかったのですね。」


「市井のものは時に鋭い。尊敬をもって接さねばならんぞ。」


「さすがはご老公様。」


「ホッホッホ。まあ、この屋敷の中じゃし、その呼び方でもよい。」


「それでは三日後、風魔屋に顔を出すということで?」


「そうじゃのう。せっかくの権力じゃ。活用せぬわけにもいかんじゃろう。」


「はっ。」


佐々木助三郎と渥美あつみ格之進は、頭を下げた。


彼らがその天井裏に潜む影に気づくことはなかった。



「なるほど。水戸のご老公。先の副将軍様ですか。なら、私が動く必要もなさそうですね。」


呟く愛の声は当然誰にも聞かれなかった。




そして、三日後。


風魔屋でボヤ騒ぎがあった。


大旦那の前で火事が起きたように見せたかったようだが、超速で銀孤が消し止めていた。


そこに、後継ぎの男が到着する。


「大旦那。まさか火をつけたのですか?!」


少しも燃えていなかったが、今更後には引けなかった。


「今、何か言ったか?」


小太郎は動じない。


「くっ。とりあえず表に来てください。」


かえって後継ぎの男の方が動揺していた。


「いいだろう。」


悠然と出る小太郎を見て、彼は間違えてしまったのではないかと今更焦る。

もう遅い。



「なんだこの騒ぎは。」


打ち合わせ通り、偶然お奉行様が通りかかった。


「大旦那が自分の店に火をつけたのです。ご乱心です!」


後継の男は扇動する様に言う。


だが、同調するのは、小物ばかり。

狙っていた様な大きなうねりは起こらない。


「その様な真似をするとは不届き千万。神妙にお縄につくが良い。」


言われていた流れと違う。

首をひねりながらも町奉行は権力を用いて強行することにした。


町人風情が逆らうとは思わない。江戸は絶対的な身分社会だ。


小太郎を捕まえるべく与力と同心が彼を包囲する。


だが、近づけない。彼は紅毛碧眼の恐ろしげな顔つきをした男だ。与力たちは気圧されていた。


「何をしておる。ひっとらえろ!」


町奉行は顔を真っ赤にして怒る。



「そこまでです!」


「何者だ!」


そこに現れたのは、二人の供を連れた頭巾をかぶった老人だった。


「あっ、あの人はこの前来た⋯⋯。」


取り囲む群衆に混じった遊女が呟いた。


「町奉行は、その男と通じている。」


「何を根拠に?!」


「三日前の夜、会っておったじゃろ?」


「うっ。」


「わしの手のものが、その会話を全て聞いている。観念するなら今のうちじゃ。」


町奉行は怒りで顔を真っ赤にした。図星を指されたのを隠すためでもある。


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