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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
第三章 近世

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第39話 水戸黄門 序

 

 徳川綱吉が犬猫を保護している。市中は混乱していた。


 生類憐れみの令だ。動物である犬、猫、鳥、魚類、貝類、昆虫類への保護政策。

 蚊を殺した小姓が追放されていた。かわいそうだ。


 生類の中に植物が入っていない。俺はそれが気に入らなかった。


 俺たちだって生きてるんだぞ。生類の中に入れろよ。もっと木に気を使え。


 俺の要望が聞き入れられることはなかった。力不足だ。


 あっ、輝夜。冗談だからね。そんな実力行使しようとしなくてもいいからね。


 江戸城に行こうとする輝夜をなんとか押しとどめた。



 ●


 先の副将軍。

 徳川光圀とくがわみつくに(水戸黄門)は、諸国漫遊の旅の途中で久しぶりに江戸に寄ることにした。

 肩書きは越後のちりめん問屋のご隠居である。

 佐々木助三郎と渥美あつみ格之進と言う二人の腕の立つ家臣がお供として同行していた。


 彼らは、貧しげな農村で一夜の宿を取る。


 一行が江戸へ向かうと言う話を聞いたその宿の主人は目を輝かせた。


「失礼を承知でお頼みします、どうか、私の娘を連れ帰ってくれないでしょうか。盗賊にさらわれて遊郭に売られてしまったのです。」


 どうして盗賊にさらわれたのに、遊郭に売られたことを知っているのか。


 怪しいところはあったが、一宿一飯の恩義がある。黄門はその願いを聞き入れることにした。


 密偵を放って情報収集を行う。


 江戸へ向かう道中、その帰りを待ちながら彼らは話を交わす。


「ご隠居も、昔やんちゃしていたそうですね。」


 助さんは口を開く。


「そうじゃの。あの大火の前の吉原には行きつけの店も多かったわい。」


「今じゃ信じられませんけど。」


「どう言う意味じゃ、格さん?」


「いえいえ。ただご隠居は貫禄あるなと。」


「ふん。まあいいじゃろ。」


「ところで、なかなか報告がきませんね。」


「ふむ。あやつは腕が立つ。心配はなかろうよ。」



 だが、その言葉とは裏腹に、密偵はなかなか戻ってこなかった。



 彼は江戸を目前にして、ようやく戻ってきた。


「失敗しました。」


「ほう。お前ほどの腕のものが。信じられぬ。」


「どこに売られたかまで辿るのは簡単だったのですが、あの遊郭、警備の練度が尋常ではありません。常に命のやり取りをしているとしか思えぬほどです。」


「きな臭いのう。」


「戦国忍びの生き残りでもいるんでしょうかね。」


「まさか。もう100年も経ってるんだぜ。」


「とにかく、あそこに関わるのはおすすめできませんね。」


 密偵はしばらく休暇をもらうと言って帰っていった。


 黄門の元に残されたのは、その店の情報だけである。


「あれじゃの。ここでためらっていても始まらぬ。」


「そうですね。最後には印籠を見せれば大丈夫でしょうし。」


「それは最後の手段じゃと言うのはゆめゆめ忘れぬようにの。」


「わかってますって。」


 助さんと格さんは笑うのだった。


 3人は、吉原一の遊郭と名高き風魔屋に入っていった。


「いらっしゃいませー!」


 明るい挨拶をされる。


 一見した感じ、いやいや働かせられてはいないようだった。


 とはいえ、盗賊から女を買い取ったと言う話もある。油断はできない。


 座敷に通された3人は、遊女の歓待を受けた。


 酒を飲み、お座敷遊びに興じる。


「ご隠居。お金は大丈夫ですか。」


 格さんはこっそり聞いたが、黄門は心配いらないと身振りで示した。


 何十年ぶりの遊郭は、黄門にとっても楽しいものだったのだ。


 遊女に暮らしぶりを聞いてみる。


 別に口止めされてはいないようだった。


 この店は真っ当な経営をしているらしい。十分な給料に、休みも多い。

 どの女も買われたのがここで良かったと言っていた。

 他の店ではこうは行かないと言う話だ。


 さらわれてきた娘はいないのかと尋ねてみた。

 お金が必要で口減らしをしたい家庭からしか買っていないと言う。


 嘘を言っているようには見えなかった。


「では、この頃何か、変わったことはないか。」


「そうでありんすね。大旦那が隠居したことくらいでございますえ。」


「ほお。となると、今ここを取り仕切っているのは別人なのか。」


「ええ。あの人は少し厳しい人で。いやではありんすけど、仕方ありんせん。」


 少しだけ、不穏な予感がした。


 黄門一行は、大変楽しい時間を過ごした。


 外に出る。


 吉原の町は夜なお明るかった。


 その活気に目を細めながら歩いていく。



「問題なかったみたいですね。」


「あの親父、自分で売ったのを棚に上げてご隠居に頼もうなんてふてえやろうだぜ。」


「そのくらいにしておきなさい。しかし、代替わりとはのう。」


 その時黄門の脳裏に去来していたのは、自分の後を継いだ水戸藩主の顔だった。


 あいつも、立派にやってくれている。

 現場が環境の変化を不安に思うのは仕方ないが、それは仕方ない。

 問題はないだろう。


 別の密偵に少しだけ気をかけるように言って、黄門は江戸の屋敷に入った。


 ●


 風魔屋の中に入るのは諦めた密偵は、裏道あたりを警戒していた。


 すると、羽振りの良さそうな男がこっそりと出ていくのを見つけてしまう。


 これは何かある。そう思った密偵はその後をつけるのだった。



 後ろからもう一つ足音がついてきているような気がしたが、振り返っても見当たらないので気のせいだろう。



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