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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
第三章 近世

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第36話 明暦の大火 序

 


 花のお江戸は八百八町はっぴゃくやちょう。江戸城の徳川様と日本一の大和杉のお膝元である。


 小太郎はそのざわめく街並みの中、歩いていた。


 見上げれば、彼の主人である大和杉がその立派な幹を天に向かって伸ばしている。

 そろそろ隅田川を越えてあの根元まで江戸の町が拡大するという噂を聞いた。


 潰すかどうか聞いてみたが、そのままにしておいて良いということだった。


 主人あるじ曰く、江戸はまだまだ大きくなるらしい。

 歴史として決まっているそうだ。

 よくわからないが、主人がいいというのならいいのだろう。



 しかし、今日は空気がカラカラと乾燥している。火事になったら、あっという間に燃え広がるだろう。


 嫌な予感がしていた。


 キセルを持った老人が火種を落とした。


 おっと危ない。


 すぐにその火種を回収する。

 こんなわかりやすいもの、見逃すわけはない。



 森人は、長大な寿命の代わりに、燃えやすいという特性を抱えている。

 火事に対して打てる手は少ない。


 彼の不安はおさまらなかった。


 幸い、その日は何事もなく過ぎた。


 夜。いつものように、大和杉の上に集まる。


 そこで、彼は口を開いた。


「輝夜。嫌な予感がする。火に強い耐性を持つ秘道具アーティファクトを作ってくれないだろうか。」


 すでに、彼女が蓬莱の玉の枝を持っているのは、全員の知るところとなっていた。

 小太郎の言葉に、輝夜は大和杉の方を見る。



「小太郎の言う通りだ。輝夜、多少効果は少なくてもいい。7個、作ってくれないか。」


 大和杉も許可を出した。


 輝夜は秘道具生成を少しだけ使いこなせるようになっていた。

 作る道具の条件を指定することができるようになったのだ。

 その効果はかなり少なくなるが、生成にかかる時間もさほどない。


「あなたが言うなら。」


 輝夜の手元に光が集まる。


 輝夜が力を込めるのを、全員固唾を飲んで見守っていた。


 光が収まる。


 輝夜の手元にあったのは、真っ赤な布であった。


 火鼠の皮衣

 効果「火無効」


 火無効⋯⋯炎の効果を受けない


 効果はたった一つだけ。だが、今喉から手が出るほどに欲しい効果だった。


 大和杉はほっとしたようだ。部下たちを危ない目に合わせているのが不安だったらしい。

 相変わらず優しいあるじだ。小太郎は苦笑いした。戦国時代を抜けてなお、全然変わっていない。


 だからこそ、仕えがいがあると言うものだ。


 彼は忠誠心を新たにした。他の6人も同じみたいだ。


 存在自体が超越しているのに、どこか人間臭くて放っておけない。彼らは、主人が大好きであった。


 7回繰り返して、輝夜は同じものを7つ作り出した。


「今日明日、いつ火事が起きてもおかしくない。皆、気を引き締めてくれ。」


 輝夜、愛、将門、銀孤、明、白を順々に見る。


 明と白は不安だが、母親の二人が離れないように気をつけるそうだ。


 もう一度気をつけるよう念押しして、寝床に向かった。



 ●


 北西から風が強く吹いていた。


 未の刻(十四時ごろ)。


 本郷丸山の本妙寺では菊柄の振袖を焼いて供養しようとしていた。


 今まで3人の娘の命を奪ったと言う曰く付きの振袖であった。

 それが病死なのか祟りなのか。本当のことを知るものはいない。



 読経の音が境内に響いている。


 頃合いを見て、住職が振袖を護摩ごまの火の中に投げ入れた。


 だが、その振袖は強く吹いた風にさらわれてしまう。寺の屋根に乗った振袖を元火に大屋根は全焼した。


 このころの屋根はそのほとんどが板葺きで、燃えやすい。

 風に乗って、たちまちのうちに燃え広がっていった。


 乾燥した空気は雨の気配を感じさせず、ただ、煤けた匂いが広がっていく。


 町人たちは徐々に異変に気付いた。大慌てで逃げ始める。

 家財一式を車長持ちに詰めて通りを埋め尽くす町人たち。


 至る所で渋滞が発生していた。


 7人は大急ぎで大和杉の元を目指す。他がどうなろうとも、大和杉だけは守ると決めていた。


 小太郎は技能「雲乗り」を発動。愛と明も技能「忍術」で屋根の上を走り抜ける。

 銀孤と将門も、その人外じみた運動神経で走る。白は銀孤に抱えられていた。


 輝夜の技能「忍術」はまだ中級だったので、一人だけ遅れてしまう。


 明にも負けていることにショックを受ける輝夜。


 その後ろから猛烈な勢いで炎が迫っていた。


 振り返った輝夜は焦る。


 このままでは追いつかれてしまう。


「リーフインジェクション!」


 封印していたはずの必殺技が解禁された。


 輝夜のすぐ後ろの家が葉っぱの射出により壊される。


 炎の勢いが弱まった。そこで停滞している。


「全くもってあの人は!」


 呆れたような言葉だが、輝夜の口元には笑みが浮かんでいた。

 大和杉の手助けが嬉しかった。


 でも、もう助けを借りる必要はない。自分が信頼するに足りる力を持っていると証明したい。

 彼女のスピードが上がる。輝夜の思いに答えたのだろう。技能「忍術」が上級となったようだ。


 これでもう安心である。先行するみんなに追いついた。


 隅田川を越えて、大和杉の元へ。7人はたどり着いた。



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