第35話 追憶の氏真
今川氏真は老境に差し掛かっている。
だが、生きていた。
子供と孫は徳川幕府に仕えていたのだ。
彼らを頼って、氏真は江戸の町で過ごしている。
時々ふらりと外に出て、町の様子を眺めるのが趣味だ。
自分にもこんな天下を動かす可能性があったのだなと考えている。
それが追憶なのか後悔なのか、氏真自身にもわからなかった。
ぼうっとしている氏真の視界に一人の女が入ってくる。
美しい巨乳の女だ。町人らしき格好だ。
氏真は目をこすった。自分が見ているものが信じられなかった。
彼女は、どう見ても自分が16歳の時、恋をした北条配下の女性だ。
あれから60年余り。どう考えても生きているはずはない。
だが、見れば見るほどにそっくりだった。
思わず、氏真は彼女を呼び止めた。
「その方。60年前、今川館で会わんじゃったか?」
その女性は首をひねって思い出しているようだった。
「ああ。氏真様。生きていらしたのですか。」
ようやく思い出したようで、彼女ははたと手を打った。
「母上。そのおじいさまは?」
後ろから少女が顔を出した。可愛らしい顔立ちだ。
「昔ナンパされたの。」
「随分軽いんですね。おじいちゃんなのに。」
少し引いたみたいだ。
「あの頃は、この人も若かったから。」
「子ができたのじゃろうか?」
真に尋ねるべきなのは他にあると思いながら、彼はそう質問していた。
「そうですね。小太郎様との子、明です。」
「よろしくお願いします。」
ちゃんと頭を下げている。
「良い子じゃのう。」
「自慢の娘ですよ。」
「えへへー。」
明ははにかむように笑った。
すっかり枯れたと思っていた氏真でさえ、可愛いと思ってしまった。
それほど彼女は魅力的だった。
「それでは、また縁がありましたら。」
「ばいばーい!」
手を振る明に手を振り返して見送る。
そういえば、なんで姿が変わっていないのか聞くのを忘れていた。
「まあ、そんなこともあるのじゃろう。」
氏真は一人で頷く。気にはなったが、わざわざ調べなくてもいいだろう。
彼は、江戸を眺める日常に戻っていった。
●
大和杉の樹上に住めなくなった6人は日本橋人形町に仮拠点を作っていた。
江戸の外れで、大和杉にも近かったのが理由である。
ヨシが茂る平野であった。
輝夜が技能「黄金生成」を使ったため、お金の心配はしなくていい。
金が値崩れしたり、売り払った小太郎を野盗が襲ったりという事件はあった。
問題なく対処できたので、割愛しよう。
だが、この平野に新たに街ができた。
愛が集めた情報によると、遊女街らしい。
明の教育に悪いと小太郎は思っていたが、愛がノリノリで明も面白そうに見ていたので引っ越し話は無くなった。
銀孤も遊郭歓迎派だった。
反対していたのは将門だけだ。
将門と小太郎は諦めた。女には勝てなかった。
こっそり大和杉の元まで確かめに行ったが、割といいなと言われて返された。
なんでも、素性のよくわからないものが住むには最適だそうだ。
主人にそう言われては、小太郎と将門も引き下がるしかない。
●
銀孤が無事に子供を産んだ。男の子だった。
種族はどうなるのか気になるところだ。
その前に名付けだ。
わかってる。どうしよう。
その子は銀孤の血を引いているからか、白髪だった。
⋯⋯V○uber縛りで大丈夫だよな。性別違ってもいいよな。
「白で。」
「平白ってどうなんだ⋯⋯。」
将門は微妙そうな顔をしていた。慌てて銀孤が頭をはたく。
「平性をつけなくてもええやろ! 大和杉様、おおきにな。」
将門は何も言い返せていない。力関係がよくわかる。
とりあえず、受けいれてもらえたようだ。
ありがとう電脳少女○ロ。男の子になったけど、それでもいいよな。
名前 白
種族 妖狐
技能
「射撃」
「呪術」
しょぼ⋯⋯くは無いな。呪術とかいうの万能らしいし。
育っていけばすごいことになるだろう。
射撃ってのはなんで持ってるのかわからないけど。
しかし、将門の技能は受け継がれなかったのか。種族も妖狐だし。
将門はつくづく不憫なやつだ。気付くまでは優しくしとこう。
成長した白は5歳にして射的屋で百発百中だったらしい。
二人は連れてきて自慢していた。親ばかである。
「そっかー。白はすごいなあ。」
そう言って頭を撫でる俺も孫ばかだ。
これが技能「射撃」の力なのか。すごい。
射的屋を出禁になって悲しそうにしている白をみんなで慰めた。
特に明がお姉さんぶって慰めていたのにはほっこりした。
白はなんでもないように繕っていたが、尻尾はブンブン揺れていた。
誰も指摘はしなかった。みんな暖かい目で見守っていた。
これはひ孫ができる日も近いかもしれない。俺は早くも家族が増える算段をしていた。
射撃
射出する系の武器の扱いに大幅補正。弓、鉄砲、大砲、ミサイルなどに作用。
蓬莱の玉の枝と相性抜群すぎるが、まだ大和杉は気づいていない。




