第32話 風魔VS信玄
氏康は、一目で戦場の状況を把握する。
逸る氏照、氏邦へ伝令を出し、落ち着かせた。
電光石火の速さで山の上部を陣取った武田軍と北条軍は睨み合う。
「ふむ。今回は信玄が上手だったようだな。戦上手と噂されるだけはある。」
氏康は素直に作戦負けを認めた。
山国である甲斐で鍛えられた武田軍は、山岳戦が得意だ。
それを相手に、下方という不利な状況で戦うのはまずい。
氏康はそう判断を下した。
ゆるゆると兵を下がらせる。
それを確認した信玄も、甲斐へ撤退していった。
焦って追撃してしまったならば、数千という兵が死んでしまっただろう。
引き際を見極めた氏康は見事である。
だが、それだけでは怒りが収まらないものもいた。
小太郎と愛である。
小田原に火をつけた信玄を許すつもりはない。
彼らは、氏康軍を離れて、闇に紛れて武田軍に接近した。
武田の忍者部隊は、優秀だ。
先の戦も、忍者たちが北条軍布陣の情報を持ってきていた。
この情報を有効活用することで、信玄の軍略は冴え渡るのだ。
そして、武田軍の周りには、この忍者部隊が散開し索敵を行っている。
その警戒網に風魔の四人がぶつかった。
すぐに鳴らされる、侵入者を知らせる笛。
武田忍者がどんどん集まってくる。
「小太郎、愛。ここは俺たちに任せて先にいけ。」
「食い止めるのは任せなんし。」
将門と銀孤はそう言って親指を立てる。
なんかキャラを見失ってないだろうか。
一回は言ってみたかったのだろう。
責めることはできない。
「技能「軍勢召喚」!」
「呪術「氷雪」!」
将門の背後から兵団が現れる。
銀孤は氷の針を射出していく。
静かに、だが、激しく。
二人と忍者の戦いは勢いを増していった。
愛の技能「忍術」と小太郎の技能「全体麻痺付与」がフル稼働する。
死角をついて、二人は武田陣中深くに侵入していく。
信玄は眠っていなかった。
床几に座り、軍配を持って気を張っている。
夜襲を警戒しているのだろう。
その背後に二人は音もなく立った。
愛が小刀を首元に突きつける。
さしもの信玄も、気配もなく行われたそれには反応できなかった。
「風魔か⋯⋯。お主らが動かなくなったと聞いたから計画したのだがな。」
「火をつけさえしなければ、出張ることはなかっただろう。あれは我らの禁忌の一つだ。到底許せるものではない。」
「なるほど。最後の最後に失敗したというわけか。」
「遺言はそれで良いのか?」
「よくはない。だが、逃げることもできないだろう?」
「許すつもりはない。だが、主人は歴史を乱すことを好まない。よって、約束しろ。2度と、火攻めはするな。」
「破ったら?」
「その時どこにいようと、我らが殺す。」
「良いだろう。これよりわしは一切炎を使わぬ。」
その言葉を聞いた愛は小刀を引いた。
小太郎は愛を掴むと空へ駆け上がる。
「ゆめゆめ忘れるな。」
最後に一言、そんな言葉が落ちてきた。二人の影は東へ消えていく。
信玄はホッと胸をなでおろした。命拾いした。
これで、天下を狙える。
朝。
信玄は、配下の忍びがほとんどやられたことを知る。
普通なら信じられないが、風魔が動いたのならさもあらん。
絶対に火を使わないという決意を新たにして、甲斐に帰るのであった。
●
明が可愛い。
「おじいさまー。」
「どうしたー? よしよし。」
細胞操作というエネルギーを使う機能を使っても良い。
なでなでするのが俺の役目だ!
明はくすぐったそうだ。可愛い。
いいこ、いいこ。
武田信玄が小田原に火をつけたらしい。
愛がめちゃくちゃ怒っていたが、武田信玄は殺さないように言っておいた。
歴史が変わって、戦国時代が終わらなかったらシャレにならない。
何が原因となるかわからないのだ。
そのまま飛び出していったが、流石に言いつけは守ってくれるだろう。
信じてる。
俺が孫馬鹿になっている間、輝夜も一緒になって可愛がっていた。
なかなか会えないからな。
だが、明が「おじいさまー。」というたびに複雑な表情をしている。
気になって聞いてみた。
「私たちは、あなたから生み出された。だから、親と子と考えてもいいと思うの。」
確かにそうだね。
「これ、私とあなたが結ばれたら近親相姦ってことにならない?」
「⋯⋯ならない。」
「なんか、ためらったわね。」
「俺が人間になったら関係ないはずだから。大丈夫。いける。問題ない。」
「めちゃくちゃ焦ってるでしょ。」
「おじいちゃんもかぐやお姉ちゃんも喧嘩しちゃ、やー。」
聞きつけた明がむくれている。いい子だ。優しい。将来が楽しみだ。
「喧嘩じゃない。大丈夫だから。なあ、輝夜。」
「もちろん。私たちは仲良しよ。」
「えへへ。よかったー。」
明が可愛い。
全てが済んだと、明を引き取りにきた四人に俺と輝夜は全力で抵抗した。
この子はうちのなの。小田原になんか行かせない。
火事があったらしいし、そんな危ないとこにいさせられるか。
ダメだった。
あっちに友達がいるから離れたくないって明に言われたら行かせるしかない。
さみしくなる。見送った輝夜の目に涙が光っていた。
俺も多分泣いている。
また連れてくると言っていたから、楽しみにしておこう。




