補遺 第二十三話 めでたしめでたし?
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クロノスの世界が崩れていく。
天と地を分かつ一線が緩やかにあやふやになる。
元の混沌の世界へと変わっていく。見覚えがある気がする。
3000年前が最後だったか。もはや懐かしい空間だ。
時の流れもあやふやで、地面もしっかりとしていない。自分の領域をきちんと保つ努力をしてないんだろうな。様々な神様の領域に立ち入った結論はそれだった。カヤノヒメずぼらそうだし……。
で、彼女はどこだ。
そろそろ俺も木の形が保てないんだけど。地面がないというのが致命的だ。草木の神様なら地面くらいつくっておいてほしい。
「人に戻るぞ。」
俺は知らせてから、形をくずした。人型の方がまだましだ。根っこがないのは不安すぎる。
みんな落ちる衝撃に備えたけど、大丈夫だった。高さという概念が消失している。
領域は完璧に元に戻った。だけど、彼女は姿を見せない。
「カヤノヒメ? どこにいるの?」
イワスヒメはおそるおそる、空間に問いかける。
答える声はなくて。
そして、光が集結し始めた。
……なぜか俺の腕の上に。
なんでだ。あんたは、そんな囚われの姫みたいなキャラじゃないだろ。
むしろ浚いにきた悪人を逆に殴って反撃してそう。
いや、でも今回の出来事は、そういう側面があったのかもしれない。
とらわれの姫、カヤノヒメか。笑わないようにしないと。
体が実体化していく。
俺の腕の中に確かな重量が加わっていく。
意外と軽くて驚いた。神様も女なんだなと言うか、そんな感じだ。
力は込めておこう。取り落としたらなにをされるかわかったもんじゃない。イワスヒメがすごい形相で見てくるし。
そして、彼女は目を開いた。
「おおう。寝てたか。ん?なんだこりゃ。なんでおまえ等がここにいるんだ?」
相変わらず口が悪い。でも、これでこそ俺の知っているカヤノヒメだ。こうじゃないと落ち着かない。
「覚えてないんですか?」
「ちょっと、待てよ。思い出す。ええと、確かクロノスのくそやろうが借金の取り立てにきたんだったか。」
「そこよ。どうしたの。あなたが封じられるなんて信じられないわ。」
イワスヒメが会話に入ってきた。
なお、まだカヤノヒメは俺の腕の中である。まあ、軽いから良いけど。
「俺はわからないんだが、契約不履行の代償が大きかったことを考えると、あいつの言ったことは正しいんだろうぜ。しかし、俺が二回も時間遡航契約なんて結ぶかね。」
カヤノヒメは首を傾げようとして失敗し、俺におろすよう要求してきた。
まったくもってかわいげのない人だ。輝夜が怖かったからちょうどよかったのは内緒である。
「心当たりはないの?」
「いや、まったく?」
神様二人は二人して頭をひねっていた。
……神様が言ってた時間遡航、俺の話な気がするけど、やぶ蛇になりそうだから黙っておこう。そうしよう。
「で、なんだお前等は。俺の領域に許可なく踏み込んできやがって。」
わー。この人ぜんぜん現状把握できてないぞ。
仕方ないので懇切丁寧に現在の状況を説明した。
「なるほどなるほど。俺の体が、あいつに使われていて、あいつはなにやら悪巧みをしてたと。確かに体の調子がいつもよりいい気がするな。寝起きで調子がいいからだと思っていたが、そういうことか。」
「そうそう。大変だったんだから。感謝してよね?」
「ああ。ありがとうな。イワスヒメ。」
「あなたのためだもの。これくらいなんともないわ。」
「神様。俺たちにはないんですか?」
「お前は俺の子で、ほかの奴らは俺の孫だろ? 主を助けるのはとうぜんじゃないか?」
カヤノヒメは当然だろうという表情だ。……こういう人だったな。お礼が欲しくて始めたわけじゃないが、こう言われると悲しくなってしまう。
「まあ、なんだ。ありがとな。感謝してる。」
そのあとに、カヤノヒメがそんな言葉を小さくつぶやいていた。
顔がにやつくのを抑えてからかいにいく。
「神様。もっとはっきりいってくださいよ。それじゃわからないですよ。」
「ああもう。うるさい。言ったからいいだろ。」
そう言って顔を背ける神様の耳は真っ赤だった。
恥ずかしがっているようだ。レアだ。
苦労が報われた気になった。
「ああ、そういえば、現世の植物たちのエネルギー問題どうにかしてくださいよ。」
「いやいや、いかに俺が変になってたからって、あんなに潤沢だったエネルギーが消えるなんてあり得ないだろ。」
カヤノヒメは目をつぶった。探っているようだ。
「なん、だと。俺があれだけ蓄えた成長エネルギーがすっかりからじゃねえか。あいつ、なにに使いやがったんだ。」
彼女は驚愕を隠せないようだった。
クロノスがエネルギーを何かに使ったらしい。どうせろくでもないことだろうけど。
今クロノスは消えている。
彼に尋問することはできない。
「ま、いいか。」
カヤノヒメは深く考えないことにしたようだった。うん。あなたはそんな神様だ。
とりあえず、カヤノヒメに関する異変は解決した。何か不安材料が残ってる気がするけど気のせいだろう。
そうに違いない。




