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補遺 第二十一話 巨神クロノス



 空気が震えた。時間が動き出した。だが、それは、時間神の権能の敗北であって、神クロノスの敗北ではない。


「俺の絶対領域をやぶるなんてな。」


 それでもへらへらと彼は笑った。


「せっかく捕まえたあいつの権能も無駄になっちまった。だが、それでも、ここでおまえ等を殺せれば問題ないんだ。」


 彼の口は減ることを知らないようだった。


「どうした?こいよ。俺が憎いんだろう?」


 そのまま挑発する。見え透いた手だ。乗るわけがない。


「この……!!」


 おおっと。イワスヒメを大慌てで止めにいく。絶対なにかあるんだから、ひっかかっちゃだめだって。



「なんでえ。張り合いがないの。」


 クロノスは残念そうだ。思惑通りにはさせないんだよ。


「まあ、いいだろ。変身。」


 気を取り直した風に彼はそうつぶやいた。


 こいつ、変身するタイプの神様か?!


 やっかいだ。

 フリー○様を例に挙げるまでもない。変身後が弱かった試しがないんだ。


 彼の体が真っ白な煙に包まれた。


 あれが晴れたとき、そこには大幅にレベルアップしたクロノスが現れる。そのはずだ。


 俺たちは固唾を飲んでそれを見守っていた。変身シーンは攻撃しないのがお約束だから。じゃなくて、どんな反撃をされるかわかったもんじゃないからだ。リスクは避けた方がいい。


 霧が晴れてくる。当然、そこには敵の姿が……、ない。


 なんだと、どこに消えたんだ?



「こっちだ。」


 なんだ。めちゃくちゃ声質が低いぞ。そして、声の聞こえた方角は上だ。



 まさか……。俺はおそるおそる空を見上げる。



 そのまさかだった。


 天をつく大男となったクロノスが俺たちを見下ろして勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「これが本来の俺だ。」


 巨人族の力。俗に言う、ティターン神族の総まとめとしての彼の姿。

 頭にあったが、まさかと思っていた。


 そう、彼の変身後の姿は巨人だった。


 幸い服も一緒に巨大化したらしい。野郎の裸など、誰も見たくないからな。

 いやいや、そういうことを考えている場合じゃない。



「さくっと踏みつぶしてやるぜ。」


 相変わらず重低音が降ってくる。とはいえ、その内容は恐ろしいのひとことだ。

 俺はこいつにどう立ち向かえばいいんだよ。俺の80倍はありそうだぞ。


 いや、でも俺本体と比べれば別にでかくないな。ぜんぜんふつうだな。これは余裕。間違いない。


 謎の理論で冷静さを取り戻した。


 さあて、いっちょ巨人殺しと参りましょう。


 いまだ固まっている輝夜とイワスヒメをこづいて再起動させる。



 将門と銀狐は、なにも言わずにもう行動している。将門は軍勢を召喚し、銀狐は呪術を用いて打撃を加える。二人とも武闘派だからな。ルナと戦ったときの経験もあるんだろう。時を止められている間はお荷物だったから、ここでこそ頑張ってほしいところだ。


「羽虫のごとき抵抗だな。」


 クロノスはあざわらった。ちくしょう。あの二人の攻撃でもだめなのか。うそだろ。見るからに派手で威力もあるぞ。信じられん。


 だが、事実のようだった。クロノスは痛がるそぶりもみせずに俺たちに向かって足を踏みおろす。大きすぎてゆっくり見えるそれは、その実、とんでもないスピードで俺たちの命を奪おうと迫った。




 俺たちは間一髪で、クロノスの踏みつけを逃がれた。

 頭の上に覆い被さる大質量の絶望感は尋常じゃない。


 いまはもうもうと煙が上がって見えていないはずだが、手をうたないとじり貧だ。


 こういう巨大生物に対抗するには、中に入ってそこから攻撃するのが常套手段だと思う。でも、消化液とかあるでしょ?別に白血球程度ならどうとでもなるけど、液体はちょっと……。


 血管に進入できるほど小さくもない。働く細胞作戦は使えない。


「大和とイワスヒメさま!」


 輝夜が俺たちをひっつかんだ。


 そのまま、クロノスの後ろに回る。

 技能「雲乗り」も交えた空中軌道だ。



 確かにあの場所にいたままだったら、クロノスにまた踏みつぶされるのがオチだ。ナイス判断である。これが場数と言う奴だろうな。



 落ち着くと、将門と銀狐もこちらに逃れているのを確認した。二人とも無事だったようだ。よかった。


「どうする?!」


 将門がこっちに向かって言う。そんな大声だしたら気づかれるぞ。


 いや、でも、あの高さならこちらの話が聞こえていない可能性もあるな。


 さっきの会話もこちらの様子だけ見て決めつけていた感じだった。これはアドバンテージだ。


 まだ時間はある。俺は少しだけ目をつぶる。


 巨人、高さ、大きさ、質量、俺、カヤノヒメ、領域、違和感、ひかれあうもの……。


 もしかして、ここには、あれがあるんじゃないか。そして、うまく行けば呼び出せる。


 将門と銀狐で無理なんだ。もう一つ別の要素がないと勝てない。そして、その可能性があるのはこれだけだ。

 確かに感じる。確信が持てる。なら、決して分が悪い賭じゃない。これでいこう。


 目を開く。


「お?死体がねえな。土の中にうまったか?」


 声が降ってくる。


 時間がない。



「輝夜、将門、銀狐。しばらく時間をかせいでくれ。任せる。」


「わかったわ。」


「おまえがそう言うのなら信じるさ。」


「わっちも当然。」


 三人はなんの疑問も持たずうなずきかえしてくれた。ほんと、いい眷属を持ったな。


「頼んだぞ。」


 クロノスはようやくこちらに気づいたようだ。ゆっくり巨体が回転した。

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