補遺 第一五話 嘘ついたら針千本
嘘つきは泥棒の始まりである。清姫に焼き殺された安珍の例を引くまでもない。
女性に嘘をつくのはいけない。
今回の事例においては、少し報告を遅らせただけで、嘘をついたとは言えないからセーフのはずだ。
冷や汗をダラダラ流しながら俺は自分に言い聞かせる。だって、イワスヒメ怖いし⋯⋯。
「休日は大切です。ですよね?」
とりあえず軽く様子を伺ってみる。
「それはその通りね。でも、話いかんによっては大切じゃないと言っても良いのよ。」
くっ。潰されてしまった。この路線からお目こぼしをもらうのはきつそうだ。
整理してみよう。俺が行ったことは、5つの宝物が創造できた時点で、彼女に連絡を入れなかったこと。
さらに、パーティに出席し、楽しんだこと。この二つだ。
明確に悪いと言えるのは、できたらすぐに連絡を入れると言っていたのに、黙っていたことだろう。
少しリフレッシュをしたかっただけなのだが、イワスヒメの視点で見ると許せない。わかる。
休みが必要という道理を説く道が潰されてしまったのなら、もうあとは真摯に謝る道しか残されていない。
「すみませんでした。連絡をするのを遅らせていました。」
「⋯⋯。それを言えたのなら、良しとしましょうか。」
イワスヒメは少し驚いた様子で俺の言葉を受け入れた。
彼女は彼女でやきもきしながら日々を過ごしていたはずだ。
自分では何もできないもどかしさを抱えて、俺たちが5つの宝物を作り出すのを待っていた。
早くカヤノヒメを救わなくてはいけないという焦燥感はかなりのものだったはずだ。
⋯⋯それは俺も同じだったんだけど、ガチャが思ってた以上に心を破壊してきたからリフレッシュしなきゃやってられなかったんだ。
とは言えこれは俺の勝手な言い分だ。
彼女が俺を怒る権利はある。
お疲れ様会をしようとしたのは俺なので輝夜は責めないでやってほしい。
まあ、そこらへんはイワスヒメの方もわかっているだろうが。
「もう水に流すわ。じゃあ、明日、朝一で乗り込むから、準備をお願いね。」
「副産物として神殺しの槍とか作ってあるんですが、用意したほうがいいですか?」
「それ、神話体系が違うから効果はほとんどないわよ。せいぜい能力封印くらいかしら。」
「そんなバカな。」
だってあれ効果にちゃんと「神殺し」ってあったぞ。そんなご当地補正みたいなものがあるのか。
いや、そう言えば英○にもあるな。なら不思議はないのかもしれない。不思議だけど。
「なら、日本神話に関連したものを持っていけばいいのね。」
「そういうこと。さすが輝夜。冴えてるわね。」
「えへん。」
輝夜は胸を張る。可愛い。
ではなく。
「了解です。明日、誰か連れて来ますか?」
「あんまりたくさんの神に広めても、カヤノヒメに怒られそうなのよね。」
「確かに。」
「もし失敗したら猿田彦に報告してもらうことにしましょう。考えたくはないけどね。」
俺も同じだ。もし負けたらなんて考えたくない。
俺は本体があるから無事かもしれないが、輝夜が失われるのは嫌だ。
できれば残っていてほしい。
そんな思いで輝夜を見ると、やる気に満ちた表情で頷いていた。
⋯⋯さすがにこんな輝夜にお留守番とは言えないな。
頑張って守るぞ。
それを見たイワスヒメがニコニコしていた。
見透かされているようで恥ずかしい。
俺は別の方向を見ることにした。
あれ。こちらに駆けて来るのは将門と銀狐だ。
何かあったんだろうか。
俺は疑問の表情で二人を迎えた。
「大和!その気配はなんだ!」
「わっちらに何もつかませずに侵入するなんて、なかなか腕が立ちそうやねえ。」
あー。これイワスヒメのことだ。そういえば二人との面識はなかったんだった。
あっ、でもちゃんと護衛してくれていたんだな。それを知れただけで嬉しい。
いちゃついてるだけだと思ってたぞ。
「とりあえず、二人とも、落ち着いてくれ。心配はいらない。」
「⋯⋯大和がそういうのなら。」
将門は力を抜く。
「わっちにも力をつかませへんのやで。警戒はするべきやと思うけどなあ。」
対して銀狐は緊張を解いていなかった。
ここら辺は性格の違いだろう。
護衛としては銀狐の態度の方が自然なんだろうけど、素直な将門が悪いかというとそんなことはない。
「念押ししたのだし、私はこれで帰るわ。明日の朝一で殴り込みましょう。」
とはいえそんな二人の相手をするのは面倒臭かったのだろう。イワスヒメはそう言って輝夜の中に帰っていった。⋯⋯その移動方法には複雑な思いを隠せないんだが。輝夜は俺のものだ。あんたのものじゃない。
嫉妬のような感情が芽生えてしまう。
「で、大和。あいつは誰なんだ?」
「気になるわあ。」
二人は興味津々である。
イワスヒメはこれを予想して逃げたのかもしれない。
説明が面倒だ。
いや、ホウレンソウは大事なんだし、やるしかないか。
杉説明中⋯⋯。
「つまり、そのクロノスとかいうやつをぶったおせばいいんだな。」
「荒事ならまかしとき。」
二人がやる気満々になっていた。あれれおかしいぞ。
心配しないでというニュアンスで話してたはずなんだが。
二人がついてくることになった。