補遺 第十四話 船上パーティ2
先の方に銀狐と将門が見えた。パーティドレスを着た銀狐にビシッと決めたスーツの将門。
悔しいが似合っている。お前ら割とニートしてるだろ。なんでそんなに似合うんだよ。
銀狐が、将門にご飯をあげている。俗に言うアーンというやつだ。
二人は、はたから見てもわかるほどラブラブだ。
流石にあのレベルを行う勇気はない。
公序良俗に反していると思います。
「大和も、してほしいの?」
輝夜が察しよすぎる。
俺の視線から、二人がやっていることを見て取ったのだろう。
「それは⋯⋯。」
正直に言おう。して欲しくないわけがない。
ただ衆人環視のもとでやるのは恥ずかしいというだけだ。
こんな立派なパーティでそんなことができる強心臓なのは、あの二人くらいなものだろう。
いやでも、それさえ我慢すれば、今日のおめかしした輝夜からアーンしてもらえるのか。
だいぶ魅力的だ。
俺は、だいぶ迷って、その提案を入れることにした。
「ほんと!大和、大好き!」
それだけで、その言葉がもらえるなら安いものだ。
というわけで輝夜の手ずから食べさせてもらえることになった。
必然的に顔が近づくので、その造形美に圧倒されつつもきちんと食べる。
こぼしたらもったいない。
⋯⋯恥ずかしかった。顔から火が出そう。でも、よく見たら輝夜も同じみたいだ。顔を真っ赤にしている。
うん。やっぱり少し早かった気がする。あと100年くらい経ったら恥ずかしがらずに行けるようになるはずだ。それまでは初々しく行こう。多分、この時間は今だけの宝物だから。
あと、見てないのは、明と白か。
どこにいるんだろう。
俺はキョロキョロ探してみた。
見つけた。ドレスを着た令嬢たちに囲まれて、白がタジタジになっている。
めちゃくちゃモテてるじゃん。白やるなあ。でも、今の表の顔はあいつなんだから、敷島と繋がりを作ろうとしたら白を落とすのが近道なのか。
打算にまみれている。これはひどい。
「白様、私とお話ししましょう。」
「ああ。ずるい。抜け駆けはダメです。」
「そうですよ。」
随分と姦しい。白も見た目はまだまだ若々しいからな。20台と言っても通用するだろう。ワンちゃんを狙う令嬢もいるということだ。
公式的には40くらいのはず。多分。
荒○先生みたいな歳の取り方してる感じだ。
あの人は若すぎるけど。本当に実在しているんだろうか。疑問である。
「あははは。」
白は苦笑いを浮かべながらも振りほどけていない。まあ、白の性格なら仕方ないだろう。
明の助けが必要だ。
明はどこにいるんだろう。
⋯⋯。探してみる。
見つけた。談笑している。相手は、俺でもニュースで見たことがあるぞ。日○の会長じゃないか。
驚くのはまだ早かった。今度はトヨ○の社長がやってきた。
明は、様々な大企業と人脈があるようで、引ききらず話をしている。
一人が終わっても、すぐに次の人物が来る。
もはや握手会の様相を呈している。
並んでいる人物の地位は相当なものだけどな。
さすがは敷島の屋台骨だ。
明がすごいのか、彼女の真価を見抜いている企業の方がすごいのか。
何はともあれ、白はしばらく孤軍奮闘しなくてはならないようだった。
彼の冥福を祈ろう。頑張ってほしい。
少し、夜風に当たりたくなった。
甲板に出る。
東京湾から見る東京の街の明かりは俺の上からのものとは違って見えて新鮮だ。
ライトアップされたスカ○ツリーと俺が仲良く並んでいる。
完成当時は負けていた高さだが、年月が経つうちにいつしか追い越した。
この調子で世界で一番高い建造物にも勝ちたい。
いやでも、人類無限に高くしていこうとするからな。
競争はやめた方がいいと思うよ。
この前までドバイの高層ビルが一位だったはずだけど、アメリカや中国で1000mの建物が計画されているらしい。
俺が言えることじゃないけど、倒れたらシャレにならないからな。くれぐれも気をつけてくれ。
俺も倒れないようにというのを第一にしているから。
輝夜が静かに隣に並んだ。
海風に髪が揺れる。
どきりとしてしまう。
隣に並ばれるだけでこれだ。
もう少し、慣れていきたい。
「いい景色ね、大和。」
「そうだな。」
⋯⋯素っ気無すぎた。
輝夜は不満そうな気配だ。
くっ。君の方が綺麗だよというべきところだったか?
失敗した。
杉に歯の浮くようなセリフを求めるな。
いや、でも、言わないよりは言った方がいいに違いない。
「輝夜、君の方が⋯⋯?」
だが、言いかけた俺の言葉は途中で止まった。
輝夜の体が開く。人の姿が滲み出てくる。それは、一人の女の姿を取る。
銀糸の髪に完璧な美貌の土の神様。イワスヒメの登場だった。
いや、ちょっと待て。今、輝夜の体ぶった切れてなかったか?大丈夫なのか?
「大丈夫よ。あなたからカヤノヒメが出てくるのと同じ原理だから。」
「いったいなにが起こったの?!」
輝夜は動揺を隠せないようだった。
俺もそうだ。
イワスヒメだけ涼しげだ。
「加護をあげたら、そこは私のチャンネルの一つになるのよ。言ってなかったっけ?」
「言ってないわよ!」
「言ってないです。」
でも、カヤノヒメが俺の体から出てくるときの原理はこれなのか。ようやくわかった気がする。
「で、油を売ってるわね。」
「いや、それはその。」
イワスヒメに報告するのを遅らせたのがバレた。輝夜がチャンネルの一つというなら、これまでの俺の動きは全て筒抜けだったということだろう。
神様がタダで加護をくれるわけなかった。後悔先たたずだ。
今はこの、微笑しつつも追い詰めるような気配を放っているイワスヒメをなんとか言いくるめなくては。
正式な発売日が来ました。めちゃくちゃドキドキしています。