補遺 第十三話 船上パーティ
イワスヒメにバレそうで怖いので、豪華客船に乗って輝夜の労を労うことになった。
土の上じゃなければバレないだろう。多分。
久しぶりにみんな休みが取れたらしい。
どこかのパーティにお呼ばれしたと言う体を装うようだ。
必要ない気がするんだけど、愛が張り切ってたし、まあいいか。
「限○じゃんけんでも開催しましょうか。」
張り切りすぎだ。そんな利根川みたいなことはしなくていいです。
できるのかな。できちゃうのか。大企業すごい。
俺は兵藤会長のように愉悦を感じる性格ではないので、別に見たいとは言わない。
いやでも、リアルカイ○は見てみたいな。どっかのTVがそんな感じの企画をしてたらしいけど、アレはどうなったのだろうか。
音沙汰がない。普通に俺が調べていないだけかもしれないが。
そこらへんは、俺の手落ちだ。
そんないい番組でもなかったんだろう。
アレは漫画という表現媒体だからこそ成功したのだ。
いやでも映画の出来は割と良かったよな。
あと一歩詰めることができれば、こういうのも面白くなるのかもしれない。
どこかのパーティはどこかのじゃなくてもっとちゃんとしたものだった。
多分これ上流階級が集うやつだ。
俺の場違い感がすごい。
スーツは着慣れていないし、いい感じの会話もできない。
杉に求められる技能じゃないと思うんだ。
幸い俺には注目は集まらなかった。
代わりに輝夜が注目の的だ。
青のパーティドレスは洗練されていて彼女の魅力を引き立てる。
アイドルをしていた頃のファンもいるのかもしれない。
でも、輝夜の方に人が集まりすぎるほどではない。
さすが上流階級で、お上品だ。
俺はとりあえず輝夜の隣に立って、言い寄ってくる男たちを睨んでいた。
我が心は不動。動きも無用である。
杉だからな。色々苦手だ。
向こうでは職人らしき人が寿司を握っている。
美味しそうだ。
食べたい。
でも、輝夜のそばから離れるのは不安だ。
「輝夜、あっちに行って寿司でも食べよう。」
「いいわね!」
輝夜の手を引いてエスコートする。
「っ。ありがとう。」
輝夜は少し頬を染めて嬉しそうだった。
可愛い。この素晴らしき日々をそのまま送れればいいのにな。
寿司は美味しかった。味覚は人間に準拠しているようで、ちゃんと味が感じられる。人としての暮らしも取り戻していこう。
「あっ、ひいおじいちゃんだ!」
「ひいおじいちゃんとお母さん。久しぶりに見た⋯⋯。」
ミトとルナが話しかけてきた。こちら側にいたようだ。ウンウン、こういうのでいいんだよ、こういうので。
「二人とも、元気にしてたか?」
そう言って頭を撫でていく。
二人とも気持ちよさそうに目を細めた。
可愛い子たちだ。
そう言えば、二人は運命の赤い糸で結ばれているんだったか。
様子を見る限りじゃまだまだ子供みたいだ。それで全然いいけどね。
俺たちが守ってやるから。
「二人とも、アイドルの方は順調?」
輝夜はそのことが気になるようだった。もともとやってたからな。無理もない。
「うん!」
「うーん。多分?」
「ルナはそうでもないの?何かあった?」
「なんか、歳をとってるように見えないって言われた⋯⋯。」
「情報操作が追いつかなかったみたい。ごめんね、ルナ。」
「いいよー。」
「ありがと。」
「でも、本当にそれでいいの?」
「おばあちゃんも、そろそろ引退した方がいいって言ってたし、多分潮時だよ。」
「少し残念⋯⋯。」
「でも、僕とルナの関係は少しも変わったりしないから。」
「ミト⋯⋯!」
ルナがミトを見る目は輝いていた。
そんなことを積み重ねていくと、結ばれるんだろうな。いいことだ。
俺は感心した。この二人はこの二人で支えあって生きていくだろう。
もともと大怪獣だったルナが安定しているのはミトのおかげだ。
比翼の鳥のように、生きていってほしい。
頼れる身近な相手は貴重だからな。
⋯⋯ボクっ娘っていうのは初出な気がする。
アイドルをやっている間に身につけたのだろうか。
属性は大事だ。やむなしと言ったところだろう。
知らんけど。
二人に別れを告げる。
ミトがお姉さんぶっててなんだかおかしかった。
最適化前のことを考えたらルナの方が年上だぞ、多分。
オレたちと別れたからだろう。
同じくらいの年頃の若い男たちが二人に群がり始めた。
可愛いからな。わかる。
ルナの紫の髪も、問題になっていないようだ。アイドルをしているうちにみんな見慣れたのだろう。芸能人が奇抜な髪色をしているのはよくあるしな。
それにルナの紫髪はよく似合っていて、安っぽさがない。
そのまま受け入れられるのも宜なるかなだ。
まあ、あの二人はあの二人同士で運命の恋人なんだから大丈夫だろう。
心配ないさ。
しばらく、テーブルを回って色々な料理に舌鼓を打つ。美味しいな。これだけでもここにきた甲斐があると言うものだ。
そんなことをしていると小太郎がやってきた。
この頃の小太郎は若々しい姿だ。白に社長の座を譲ったからな。
必要だからと言われて余分にエネルギーを渡したら若返った。
森人族の生態には謎が多い。
オレの余分なエネルギーをもらって生活している時代もあったけど、普通に食事をとっていても生きていけるそうだ。
寿命もよく考えてなかったけど、無限にありそう。
少なくとも俺と同じくらいはありそうだ。それは実質無限だから。
木の生態システムなめんなよ。何億年でも生きていけるさ。
ストロマトライトパイセンとかいう前例もいるしな。
あれは石だって?
細かい事はいいんだよ。
「最近どうだ?」
「順調ですよ。主人様の方も、目処がついたようで。良かったです。」
「ああ。お前のおかげだ。いつもありがとう。」
「いえいえ。私だけの力ではありませんよ。」
少し目をそらして小太郎は照れた。
人間体で労う事はあんまりなかったからな。
新鮮なんだろう。
小太郎とも長い付き合いだ。輝夜よりも長いと言ってもいい。
今度男衆で飲みに行こうか。
そんなことを言ったら目を輝かせて賛成してくれた。
うん。楽しみだ。
早く神様の件を決着させないとな。
「ご主人様、楽しんでいますか?」
小太郎と一緒にいるところを見つけたのだろう。愛もやってきた。
「楽しんでるけど、ここまで大規模なものだとは思ってなかった。」
「楽しんでいるなら良いじゃないですか。」
「知らせてくれ。」
「いろいろ都合が良かったんですよ。ご主人様が私たちのトップなんですから、それ相応の心構えはできるようになっておかないと。」
「スパルタだな。」
「この程度、ご主人様が私に命じたことに比べればなんでもないでしょうに。」
くっ。事実だけに言い返せない。愛には一番苦労させた自覚がある。
「なんとかなるよう努力してみるよ。」
「期待していますよ。」
愛の目元が柔らかくなった。
頑張ります。はい。
「ところで、小太郎様、先ほど何か楽しげなことを計画されているようでしたが?」
「いや、それはその。」
「心配なので私たちも参加していいでしょうか?」
小太郎、負けるな。⋯⋯いや、負けそうだな。愛は怖い。
仕方がないので助け舟を出すことにした。
「たまには男同士で絆を深めるのもいいかと思ったんだ。愛たちは、女同士でやるといいんじゃないか。」
「なるほど。一理ありますね。」
愛は納得してくれたようで、引き下がった。
良かった。
俺と小太郎は同時に息を吐くのだった。
小太郎と愛は、お互いにいい距離を保ったまま離れていった。
ふむ。熟練の関係という感じだ。必要以上に触れ合おうとしないが、特別な絆を感じる。
輝夜ともああいう関係になっていければいいな。