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補遺 第六話 建御名方と猿田彦

 

 なぜか、建御名方神に気に入られた。


「俺の親父は大国主だからな。何か不自由があったらなんでも言ってくれ。俺の従者にしてもいいぞ。」


 さっぱりした性格の人のようだ。


 さすがにイワスヒメから離れるような真似はしないけど、神様の知り合いができてよかった。


「で、さっきのお前の技はなんなんだよ。そんな鍛えているようにも見えないが。」


 建御名方神は興味津々だ。


「秘密なので、あんまり突っ込まれると困ります。」


「そうか⋯⋯。残念だ。いつか教えろよ。」


 いい人そうだ。


 ほんとなんで絡んできたんだろうか。


「時々、悪意を持った輩がやってくるからな。それに対するパフォーマンスさ。新顔には注意する必要があるし、こちらの力を誇示しておけば抑止力になるだろ。」


 ちゃんと考えがあってのことだった。


「なら、なんで俺は認められたんですか?」


「この領域で強い力を発揮できるのは、日本神話に関係の深いものだけだ。力があるということはそれだけで身分の証明になるのさ。」


「規格外の人が紛れ込んでいたら⋯⋯?」


「まあ、其の時は其の時だ。俺が負けても武御雷神のやろうがいるしな。」


「⋯⋯どうでもいいから、早く帰ってくれないかしら。」


 イワスヒメの機嫌が悪い。


 これは俺にくっついて彼女の領域に長居している建御名方神が悪いだろう。


「これはすまんな。ところで最近、カヤノヒメの姿を見ないんだが、親友のお前が知ってたりしないか?」


「⋯⋯⋯⋯」


 イワスヒメは答えられなかった。


 僕らの間の雰囲気を察したのだろう。


「あいつがいないと寂しいからな。早く顔を出すよう言っておいてくれ。」


 確かにカヤノヒメもこの人となら気が合いそうだ。心配なのだろう。


 それを言い残して、建御名方神は今度こそ去っていった。


 俺たちの間に重い沈黙が落ちる。


 ここまできてなお、カヤノヒメの足取りは掴めない。


 それを改めて突きつけられた形だ。


「神在祭は明日始まるわ。それまでは休みましょう。」


 ふうと息を吐いて、イワスヒメは手を叩いた。


 これ以上何かできるとも思えない。それがいいだろう。


「そういえば、そういうことなら部屋は二つでよかったかしら。」


 俺と輝夜を見てコロコロ笑う。


 俺と輝夜は同部屋とかいう話だろう。蒸し返された。神様からは逃げられない。(二回め)



 ⋯⋯さすがに体がもつ気がしないので、大丈夫です。


 イワスヒメの部屋と、俺の部屋と輝夜の部屋。

 三つともに当然和室で、襖で仕切られている。


 荷物をおいて、部屋に落ち着く。


 建御名方神には絡まれたけど、あまりトラブルなく神様の世界に来れたと言っていいだろう。

 ⋯⋯よく考えたらあれって、冒険者ギルドの柄の悪い冒険者が絡んでくるパターンその二。実は有能冒険者だな。


 いや、でもさすがに関係ないだろう。


 それとも人はどの世界でも同じことをするんだろうか。


 この世は不思議だ。



 ちょっとだけ出歩いてみた。迷った。


 この屋敷が複雑すぎるんだよ。


 多分空間を歪めて余分なスペースを捻出しているんだろう。


 そのせいで方向感覚が狂う。


 木に方向感覚がないからという説が否定できないのが悲しいところだ。


 猿面の猿田彦さんに出会って案内してもらえた。


 瓊瓊杵尊ににぎのみことを案内した頃が懐かしいですなどと言っていた。

 猿田彦さんって、天孫降臨に出てきたっけ。⋯⋯よく覚えてない。


 もう少し古事記を読んどくべきだったか⋯⋯。


 帰ったら読もう。そして1行しかないカヤノヒメの記述を見て笑おう。


 謎のモチベを胸に俺は元の部屋の前に戻った。


「ありがとうございます。この恩は忘れません。」


「いえいえ。これからも困ったことがあれば相談してください。目的地にたどり着けなくなったらこの番号に。」


 猿田彦はそう言って、神様番号を教えてくれた。⋯⋯謎の神脈が増えている。


「何かあったら力になります。」


「それは心強い。いやあ、現世に伝手が欲しかったんですよ。」


 彼はそう言ってくつくつと笑った。


 俺が、もともと現世にいる存在だと見抜いているとは。侮れない人だ。


 猿面で猿田彦の表情は見ることができない。


 まあ、それほどひどいことは要求してこないと思う。


 多分。きっと。


 たちの悪い神様だったら人生が終了する類の言葉だけど。


 例えばカヤノヒメとか。



 杉にされたし。


 繰り言めいてきたな。



 出迎えてくれたのはイワスヒメだけだった。


 輝夜が俺を探しに行って帰ってきていないらしい。


 俺は焦った。


「探しに行かないと!」


「落ち着いて。」


 イワスヒメは強い口調で言った。

 普段の彼女なら絶対に使わない調子の言葉だ。


 浮き足立っていた俺も、必然的に冷静になった。


「あなたもまた迷うわ。」


 言われてみればその通りだ。

 迷って帰ってきたばかりだし。


「猿田彦、お願いしていい?」


「もちろんです。道案内は私の本分ですからな。」


 猿田彦は力強く、輝夜を連れてくると保証した。


「お願いします。」


 彼を見送った。信じて待とう。


「あなたって、思ってたより問題児なのね。」


 イワスヒメの言葉に全く反論できなかった。悲しい。



 間も無く猿田彦が戻ってきた。


 輝夜を連れている。


 よかった。


 俺は輝夜を抱き寄せた。


 彼女は目を白黒させていたけど、ちゃんと腕を回し返してくれた。



「仲が良くてよろしいですな。」


 猿田彦は面白がっているようだった。



 ハッとして居住まいを正す。


 暴走してしまった。


 いかんいかん。


 いかに心細かったとはいえ、もう少し時と場合を考えるべきだったな。


「それでは私はこの辺で。また何かありましたらよしなに。」


 猿田彦は帰っていった。引き際を心得ている。



 運ばれてきた料理は珍味だった。これが神界の料理か。レベルが段違いとは言わないが、人間界では食べられない味が目白押しだった。


 非常に食品数も多かった。昨日の料亭よりも多いとは相当だ。


 大国主の力がわかるというものだろう。すごい。


 そろそろ遅くなってきた。


 日が沈むのは、普通と変わらないらしい。


 明日が本番だ。体をゆっくり休めて、この環境に適応しよう。





 輝夜が夜這いしてきたので全く休めなかった。



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