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青春ぶち壊し異能戦争!!  作者: 黒須 英雄
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第9話 魔術師は気まぐれに

 前の助手席の青年の通信機に連絡が入った。


「ああ、すぐに向かう。避難を最優先に進めてくれ」


 険しい顔で小さなマイクに向かって答えた。


「お嬢様、どうやら状況は芳しくないようだ」

「何があったの?」

「奴が現れたそうだ。街中のビルの屋上で雷を受け止めたらしい」

「? 何それ、街を守ったの?」

「分からない。ここからはそう遠くない。すぐに出動します」

「私は、ダメね。お父様の許可が下りる訳がないわ。五枚羽なのに戦力にならなくてごめんなさいね」

「いーや、それを補うために俺を雇ってんだろ? 気にすることじゃない」

「ありがと、こちらも出来るだけサポートします」


 一人の青年は戦場へと向かった。五枚羽として兵器としての力を存分にふるえる場所に。


「あーあ、この力をなんで私が授かったのかしら」

「お嬢様、ネガティブ思考は良くないですぞ? お嬢様がするべきなのは彼の補助では?」

「ええその通りね。じい、もう一回出して頂戴。目的地は彼の行ったところよ」

「了解でございます」


 彼は、鳴海牙王は時限爆弾と言ってもいい程危険だ。思考的には他の五枚羽よりも随分とまともなのだが、その異能は危険極まりない。

 その場合の対処として睡眠薬などの手段を用いて彼の意識を奪うしかない。暴走状態の彼は十分間だけだが、それこそ無敵になってしまう。自我さえ保てれば六枚羽になっていてもおかしくはないだろう。


「私の異能にも奥があればいいのに」


 オリジンは判定不可能であるだけに、いくつかの能力を兼ね備えている可能性を秘めていると言われている。大きな力を使うほど、そのリスクも増加する。

 ハイリスクハイリターンとノーリスクローリターン。どちらがいいと言われると迷うところだが、実際に見てしまったらハイリターンを求めてしまう。


「お嬢様、車はここまでのようですね。避難区域にまで入りました。随分と強いようです。振動と防音、そして迷彩が完璧には出来ていないようですな」

「仕方が無いわよ。未知の訪問者、実力は計り知れないわ」

「住民の方々もこの街には慣れていらっしゃるので大騒ぎにはならないでしょうが、このまま地上での戦闘は無理そうです」


 確かに目の前のビルは倒壊寸前もいいところ。大事な支柱は運良く折られていないようだが、簡単に倒壊を引き起こすような敵と街中での戦闘は被害が大きくなりすぎる。


「港街に避難勧告を、避難を急がせてください」

「了解でございます」


 戦場を移そうとしてくれるはず、その場合港街か航空街だが、航空街までは少し距離がありすぎる。ならば港街が最適だろう。


「戦場があのビルから移ればすぐに補修作業に入ります。なのでここからは徒歩で」

「了解でございます。では、私はここで待たせていただきます」


 一度車を降りたじいに扉を開けてもらい私が降りる。当然のようにしてもらっていることに慣れてしまった自分を少し悲しく思いつつも、ありがとうと告げて歩き出す。


『00が異能を解放するようです。一時間後、よろしくお願いします』

「分かったわ。避難先を変更しなさい。彼の決めた戦場から出来るだけ離れなさい。包囲も止めてね」

『了解しました』


 彼の時限爆弾のカウントダウンが始まった。そうとなれば、ひとまず安心だろう。敵には同情せざるを得ないかもしれない。


『それともう一つあります。民間人が00に加勢しているようです』

「民間人!? なんで止めなかったの!」

『どうもオリジンだそうで、00との協力関係にあったようなので必要ないかと』


 オリジンで、鳴海牙王の知り合い。どっち関係だ?


「容姿は?」

『背丈は00とあまり変わりません。髪や目も黒、一般的な日本人の特徴だったと思います』


 黒髪、なら大丈夫かしら。条件に合致してしまいそうな子を一人知っているけど……まさかね。


「分かりました。こちらで処理します」

『了解しました』


 処理とは書類上のことだ。テクノソーラー社の私兵の為、議会に提出する書類を書かなければならない。


 報告を受けながらも足を止めていなかったおかげで問題のビルに辿り着いた。わざわざ人通りの少ない裏道を使ったのも功を奏したようだ、建物は倒壊していない。


複製(コピー)と量産でいけそうね」


 私は建物の側に落ちてあったビルの外壁の欠片を拾う。そして、『万象工場(オール・ファクトリー)』の能力で全く同じものを複製すると共にその材質を確かめる。そしてその材質を量産し、外壁と内壁と階段、床を直した。


「おやおや、素晴らしい能力をお持ちのようだ」

「誰かしら? 改修工事で忙しいのだけれど、まるで現場を確認しに来た犯人みたいよ?」

「おや? 荒事に慣れていない方ではないとは思っていましたが、こうも饒舌な方だとは思いませんでしたね」

「こっちの事情上、そういうのが鍛えられやすいのよ」


 軽口を叩いているが、現状は良くない。能力を見られている上、既に背後を取られた。相当な手練に違いない。


 背格好に目立たないところを探す方が難しいのではないか、と思うほど奇妙な男だった。


「ワタクシはパラケルスス=キテラという者です。まぁそうですね、伝わらないとは思いますが、『銀の星』の一員とでも名乗っておきましょうか」

「ご丁寧にどうも、で? 何か用があるのかしら?」

「ええもちろん。と言っても本命ではないので逃げたければどうぞどうぞ! 魔術師相手に戦ってもいいことはありませんからね」


 (やはり、魔術師。噂には聞いていたけど、一体どれほどの力を有しているの?)


 それに加え『銀の星』と来た。厄介な相手であることは間違いないはずだ。


「おや? 魔術師をご存知で?」

「神の力を詐称する者もいるのだから、いてもおかしくないでしょう?」


 と、言ってはいるが、知っていただけだ。先月、イギリスで起きた『教会事件』。その犯人が自分のことを魔女と名乗ったらしい。このことは伏せられているのだが、実際の映像を入手していた私には関係なかった。

 そこで魔術師というものを調べてみたのだが、大した情報は出てこなかった。それもあり、微かな情報は鮮明に覚えている。

『銀の星』、アレイスター=クロウリー、パラケルスス。様々な魔術師の中でも多くの文献が残っているものは少ない。


「詐称ですか、いい表現ですね。で、逃げるのであれば颯爽と、こちらにも刻限というものはありますので」

「何もしないならこのまま立ち去るのを許してあげるわよ? 逃げるのはそっちでしょう?」

「ふふふ、いい気概をお持ちなことだ。……いいでしょう、殺してしまうのは惜しまれますが仕方ありません」


 生半端な敵ではない。それを肌で感じとりながら思考をフル回転させた。

 その言葉の終わりを合図に未知の魔術師との戦いが始まった。


segmtoa(歪んだ生命)-koaglrd(土壌の星)-plamlve(誕生せよ)!」

「奇怪な能力ね!」


 目の前にはゴーレムという言葉が最も合うであろう姿の化け物が三体現れていた。どれもが三メートルを超えており、攻撃を食らえばただでは済まないだろう。

 赤い球体に引き寄せられるように周囲のコンクリートの破片達が集まり、ゴーレムを作り上げていた。


「錬金術ですよ。錬金術師でもないワタクシにはあまり強力なものは作れませんがね」

「錬金術師までこの世界にはいるのね。まぁ、何でもいいけど!」


 相手の戦い方が分からない以上無闇に距離を詰めるのは危険だ。


「まぁ範囲内だから何でもいいんだけどねッ!」


 パラケルスス=キテラを名乗る男の頭上に大量の粉末を生産する。


 ドォン!!、それはゴーレムの頭の部分が吹き飛ばされた音だった。


「あら残念ね。それなりに傷を負わせられるつもりだったのだけど」

「むっ、ゴーレムを易々と破壊しておいて何を言いますか。十分な傷ですよ」


 今生産したのは三ヨウ化窒素という化学物質だ。敏感物質であり、紫色の蒸気を発しながら爆発する危険物。それなりの量を生産したのだが、あまり効果は得られなかったようだ。

 核を破壊するまでには至らなかったようで、既に吹き飛ばされたゴーレムの頭は復活している。しかし、三体中一体の核は破壊できたようだ。


「じゃあこれは?」


 手持ちのライターを投擲した。

 もちろん、……仕込みを終えた後にだ。


 ゴーレムが飛んできたライターを吹き飛ばそうと腕を動かしたその時、ゴーレムが炎に包まれた。いや、その辺り一帯が炎に包まれたのだ。

 三フッ化塩素はコンクリートさえも燃やすと言われている程可燃性に優れている。それは比喩ではなく、言葉の通りだった。


「よりにもよって火ですか……厄介な」

「あら!どうかしたのかしら魔術師さん? 服の端が焦げてらっしゃるわよ?」


 ゴーレムは未だに燃えているが、生産者はすでに離脱していた。かなり広範囲を焼いたはずなのだが、本体には何もダメージを与えられていない。


 これ以上燃える範囲が広まってしまえば私にまで被害が及んでしまう。

 生産した三フッ化塩素を消し、二酸化炭素を上から生産した。鎮火するのにも二度手間がかかるのは辛いところだ。


「全く、コンクリートを焼く炎とは中々の物です。ですが……タイムリミットです、残念ですが」

「あら? 逃げてしまわれるの?」

「ええ、この後は生憎予定がありまして……その代わりと言ってはなんですが、これを置いていきますね」


 何をするのかと身構える。金属の壁位はすぐに生産できるように準備をした上で。


 グチャリ、そんな音が聞こえた。

 男がとった行動は最も予想外だったと言っても過言ではないだろう。

 右腕で自分の胸を貫いたのだ、そこから赤い液体は垂れ流しになり、顔色がみるみる悪くなっていく。


「あ、安心してください、ワタクシも、ゴーレムですよ。これは、置き土産です!」


 ゴゴゴ、という地響きと共に目の前の男の姿が崩れ落ちた。男だったものは土片となっている。

 しかし、それに注目しているほど余裕はなかった。

 それもそのはず、ゴーレムに使われていた核が全て地中へと吸い込まれたのだ。


「っ、やってくれるわね」


 その悔しげな声に答えるものはいなかったが、代わりに、隣のアパートが倒壊した。

 先程のゴーレムの何倍もあるであろう怪物が地面と同化して現れる。下半身は地面に埋まったようになっていて、上半身しか見えていない。


(さて、どう攻撃したものか……そもそも、無機物って私の担当外よ)


 人類最強兵器『万象工場(オール・ファクトリー)』はあらゆる物質の構成が可能だ。しかし、その生産した物質に推進力を持たせられるわけではない、操るなんて以ての外だ。

 人類最強兵器と言われる所以は強いからではない。人類に対して最も効果を得られる異能という意味で付けられたのだ。純粋な力では五枚羽のオリジンには到底及ばない。


(毒物がコンクリートに効くわけがないしね、悪足掻きでもしますか)


 そんなことを考える彼女の元に、とある青年はまだ来ない。

読んでくださったってありがとうございました!!

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