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青春ぶち壊し異能戦争!!  作者: 黒須 英雄
7/10

第7話 迷子の幼女は要注意!?

 俺こと紅焔魔、まぁ本名なのかどうか不明なのは保留にしておいて。現在、……迷子に近い状況です。


「金が……ない!!」


 これは財布をスられたとかいう次元の話ではない。もっと下の、単純に所持金額がはじめてのおつかいレベルなのだ。


 常泉寺と別れた後、家に帰ろうと歩いていると一人の迷子に出会った。ほんの数十分前のことだ。


『うぁぁぁん!! ママー!』


 こんな叫び声が聞こえていた。しかし、その子供に近づこうとする人は誰もいなかった。


「どうしたんだ? 迷子か?」


 ここで疑ってしかるべきだったのだ。ここは異能特区、こんな幼児がいる事自体がかなり怪しいのだ。

 しかし、ここに来たばかり? の俺はそこまで頭が回らなかった。


「とりあえず、ガーディアンに預けるか」


 街の困り事はガーディアン、学園での困り事は生徒会、そう言われるほどには凡庸性の高い組織なのだ。迷子の幼児の保護などお手の物だろう。


「一緒にガーディアンのところに行こうか」

『そ、そこにママがいるの?』

「ママがいるかは分からないけど、ママを探すプロがいるんだよ」

『じゃあ行く!』


 希望を見つけた子供の目元には既に水滴などついていなかった。


『あそこのアイスクリーム、おいしそう』

『あそこのクレープ、おいしそう』

『あそこのホットドッグ、おいしそう』


 かなーり食いしん坊な女の子だった。羨ましげに指をくわえて屋台を見ている彼女をほっとけなかった。正直なところ、このまま屋台をスルーしたら泣きそうだったのも理由の一つだ。


「分かりました。こちらでお預かりします」

『バイバイおにぃちゃーん!』


 手続きも特に時間のかかるようなものではなかったのであっさりと別れを果たせた。別れ際の彼女の顔はまるで遊びに満足したような無邪気な笑顔だった。

 随分と予定外のお金を散財することになってしまったが、まぁいいだろ。怪しかったのはその大胆さ故だ。あの無邪気な笑顔に裏はないと信じたい。


 もう食いしん坊の迷子に出会うのは懲り懲りだと思っていた矢先、俺は見知らぬ土地にいることに気づいた。


 ここのガーディアンの交番に来るまでは携帯のアプリのナビに従っていたのだ。

 しかし、俺の手にある携帯は無情にも黒い画面から動いてくれない。充電切れだ。


 時刻は三時半を過ぎたところだ。救いなのは家までそんなに遠くはない事だ。しかし、それも大体の感覚での話でしかない。

 そこで俺は恥を承知で、先程の交番に戻って道を聞こうと思ったのだが……たどり着けない。


「てか、これはなんなんだ?」


 目の前の人々に違和感はなかった。いや、無さすぎたのだ。いつ見ても同じ人通り、これを異常と言わずしてなんと言おう。


「それに……この空は?」


 空を見上げると、まるで世紀末の空を連想するような空模様だった。雷雲が渦を巻き、その中心には一本の槍が顔を出していた。


 その槍の矛先が向けられているのは第二区だ。ここ第三区ではない。


「何があるか分からないからな」


 右手に異能を纏わせる。何かおかしいのは誰が見ても分かる、なら万全の注意を払うのは当たり前のことだ。命が無くなれば全て終わり、手間をかけることすらもできなくなってしまうのだから。


 しかし、半分予想通り、半分予想外の事が起きた。

 右手に纏った漆黒の流体が理を崩す力に終わりを告げた。

 空模様は何も変わらない、しかし……それ以外がガラリと変わった。


「俺は、何をしてたんだ?」


 歩行者の顔は勿論知らない人ばかり、先程までの全く同じ人通りとはかけ離れていた。それだけではなく、交番に戻ろうとした場所から一歩も動いていなかったのだ。


「この程度のオリジンじゃーすぐ死んじゃうよ? おにぃーちゃん」

「っ!!」


 すぐ背後から聞こえた声に反応して後ろを振り向いた。しかし、その声の主は既にどこにもおらず、至って普通のカップルがクレープを美味しそうに食べ歩きしているだけだった。


「今の声は……?」


 形容し難い悪寒に背筋が襲われる。俺の異能をオリジンと知っていて、その実力を試しに来た。そしてあっさりと無効化の能力を見せてしまった。

 今はこれが何に繋がるのかは分からない。それでも、相手に持たせてはいけない手札を渡してしまったような気分になった。


「って、そんな場合じゃなかった!」


 街の時計を見て慌てて走り出した。四時頃にエアコンの設置を頼んであるのだ。遅れては大きな迷惑をかけることになるだろう。

 なんでこんなギリギリになったんだ、と溜息をつきつつも、現状を打破するにはその足を止めずに走るしかなかった。


 その青年の頭の中から、あの怪しい空模様のことは綺麗さっぱり忘却の彼方へと消えていた。


 ◇


「エアコンの設置場所はここで合ってますか?」

「はい、そこにお願いします」


 両足をフルスロットルで回しまくった結果、どうにか業者の方々と同時に玄関につくことが出来た。


「ほんじゃ終わりですので、お暇させてもらいますー」

「ありがとうございました!」


 これで快適な一人暮らしへの第三歩目くらいを踏み出せた。

 業者の方々が大型トラックに乗り込み、アパートから去っていくのを見届けた後、念願の冷房機能を起動させようとしていた。


「スイッチオン!!」


 リモコンをエアコン本体へと向けて一つのボタンを押した。

 押したのは間違いなく冷房ボタン、決して……停電ボタンではなかった。


「なんでなんだよー!? このタイミングで落ちちゃダメでしょーが!」


 期待を裏切られたことで口調がおかしくなった気がしないでもないが、それも仕方がない。

 風に直接当たるために上裸になっている途中だったのだから。


「ブレイカーめ、この恨み許すまじッ!」


 トイレに設置されたブレイカーが落ちたものだと思い、確認した。しかし通常運転のブレイカーがそこにはあった。


「あれっ? ブレイカーさんが落ちたんじゃないの?」


 怒りの矛先をどこに向けるべきか考えていた時、ある光景を思い出した。

 渦巻く雷雲に一本の槍。あの不気味な空模様だ。


「外はどうなっ、……ッ!」


 停電した街、しかしまだ太陽が沈んでいないだけあって街並みは明るかった。……それだけでない。

 一筋の光、異様なほど輝く光が一直線に風景を切り裂いていた。


「なんだよ、お前は何者なんだ!?」


 放たれた? 光をビルの上で受け止める影があった。一瞬しか見えなかった。光の筋はすぐに消え去り、元通りの街並みに戻っていく。

 その一瞬は、一人の少女を視認するには十分過ぎる時間だった。


 ◇


 気づいた時にはリモコンを投げ捨て、玄関を飛び出ていた。街中は面白半分で現場へと向かう者と危険を感じ現場から離れていく者に分かれていた。


 現場までは全力疾走すれば二分もかからない場所だ。ガーディアンによって警備網が引かれるまでそう時間は残されていない。

 あの少女は何のためにあの光を受け止めたのか、彼女が受け止めなければ今頃どうなっていたのか……考えるだけで恐ろしくなる。


「屋上じゃないのか!」


 その場に着いたものの少女の影はどこにもない。写真を撮ろうとして集まってきた者もビルの中に入るほど勇気は無かったようだ。

 ビルは四階建て、それ程高くはない。それにこれはマンションビルだ。屋上に登るのはそう難しくない。

 それは逆に制圧にも時間がかからないことを示している。


「くそっ、何がしたいんだよ俺は!」


 何がしたいのか? 口に出してみても答えは見つからない。それでも、譲れないものがあったのかもしれない、足を止めることは無かった。


「エレベーターは停電、階段だけか!」


 幸い停電状況は継続中だ。脱出するにしても制圧するにしても階段以外の移動手段は残されていなかった。


 太腿の筋肉が悲鳴をあげている。これでも退院からそう経ってはいない病み上がりというやつだ。今日みたいなダッシュの連続には辛いものを感じるのは仕方がない。


「明日は筋肉痛だなッ!」


 週明けは身体能力テストとかいう定期的な検査があるらしいが、筋肉痛では良い結果は望めそうにないな。


「ライッ! 大丈夫か?」


 三階から四階へと続く階段で倒れている彼女を見つける。壁に体重を預け、ゆっくりと降りてきていた。顔色から酷く衰弱しているのは見て取れる。

 それ以上に目を引くものがあった。服に付いている大きな赤いシミだ。


「にげ、て。こ、ろしてしまう!」

「何言ってんだ? すごい顔色だぞ、それに怪我してるじゃないか! はいそうですかっていく訳ないだろ!」

「違う、力に、のまれたら終わり。あなたを認識でき、なくなる」


 真っ青な顔色で告げる彼女の目は焦点が合っていなかった。右目は前と同じ金色だが、左目は蒼白くなっていた。

 その色は光の筋の色と酷似していた。


「もうダメ! うぅ、うぁぁぁぁッッ!」


 次の瞬間ーーーー浮いた。


「ぐっ、止まらねぇ!?」


 一瞬の圧迫の後、宙に放り出された。壁を突き破って吹き飛ばされたのだ。異能を発動しても無効化できなかった。どうにか方向を逸らし地平線の彼方まで飛ばされるのは回避したが、当の俺の体は空中で浮遊感を味わっていた。


「掴まれ!」


 俺の後を追うように飛び降りてきたのは、クラスメイトの鳴海牙王だった。

 彼から伸ばされた手を必死に掴み取った。しかし、これでは落下するのが一人から二人に増えただけだ。


「どうすんだよこれっ!」

「ちょっと歯ァ食いしばってろ! 舌噛むなよ!!」


 俺を持ち方は米俵スタイルだ。お姫様抱っこではなかったと安心するものの、到底安心できる状況ではなかった。

 俺は所詮凡人、この状況を打破できる力はなかった。しかし鳴海牙王は違った。


「うりゃぁぁぁぁ!!」


 空中跳躍と言うのをご存知だろうか。ゲームなどでは二段階ジャンプとも言う。それが現実で起きた。

 鳴海牙王は体を反転させ、足を地面の方向に向けた。そしてまるでそこに床があったかのように片足で踏み込み、斜め上へとジャンプしたのだ。

 そして、体でマンションビルの壁をぶち破り不時着した。


「すげぇな、五枚羽」

「感心してる場合じゃねぇんだよ! なんで自分から危険に飛び込んでってんだ!」

「そうだ、こんな事してる場合じゃない! ライが!」

「ライ? あの女の名前か?」

「そうだ! 彼女は暴走してるか、操られてる!」

「それは関係ねぇな。どちらにしろ敵だ」

「ッ!……」


 硬直した。


「その顔、まるで知ってたみたいじゃねぇか」

「ああ、予想できてたよ。彼女は昨日あったんだ。状況的にも昨日の騒動と当てはまる可能性はどうしても高くなっちまう」

「その通りだ。今すぐここから立ち去れ、ここからは俺の仕事だ」

「殺すのか?」

「できれば……殺したくないな」

「じゃあ、俺も行くぞ」

「はっ? 何言ってんだ!? お前は一枚羽だろうが!」

「関係ないぞ、履き違えてんじゃねぇよ。力があるから立ち向かうんじゃねぇ、立ち向かうために力があるんだ。俺に攻撃する力はない、だが知り合いが殺し合うのを止めるくらいの力はある!!」


 俺の異能は攻撃手段がなかった。自分で拒絶した。

 異能を受け入れればその力も手に入るだろう。だが、今の俺には必要ない。


「その自信がどこから来てるかは知らねぇ。けど、感情論で友達を死地に連れていくほど俺は甘くねぇぞ!」


 いつまでも平行線。お互いがお互いの意見を納得しているその上でお互い譲らない。

 しかし、それは二人の話。もう一人は結論を待ってくれはしなかった。


 刹那、視界を埋め尽くすような攻撃が真上から降ってきた。

読んでくださったってありがとうございました!!

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