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4話 ダンジョン生成

 その骸骨剣士(スケルトンソルジャー)は、ただのモンスターにしては豪華な鎧を纏っていた。

 その骸骨剣士(スケルトンソルジャー)は、ただのモンスターにしては豪華な剣を持っていた。


 所々が土で汚れているが、その鈍く美しい光沢は紛れもなく銀色。その縁は金。まるで王宮の騎士のよう。


 骸骨だとわかった理由は、首から上だけはむき出しだったから。

 本来なら頭まで覆ってこそのプレートアーマーであるが……


『お? なーんだ、剣の稽古してたのか?』

「どう見ても襲われてたけど!?」


 スケルトンはその大剣を肩に乗せ、カタカタと笑いながら俺を見下ろす。

 ブレードの長さは130センチほどあり、幅は10センチ以上、厚みもかなりのもので重量感がある。


 考えてみたら、なぜこのスケルトンの言葉を理解できるんだ俺……


 ああ《モンスター言語》か。


 モンスター言語について詳しく調べてなかったが、もしかしたら人型モンスターの言葉は理解できる? のかもしれない。


 死喰いの声は全くの獣だったから。


『お前……俺の言葉が理解できるのか?』

「話せるらしい。奇跡的に」


 スケルトンは柄を握っていた片方の手をダラリと脱力させ、モンスターの言葉を理解できる俺に興味を示した。


 これはついでに取った《意思疎通の心得》が作用して……るのか?


【意思疎通の心得】#passive

NPCをはじめ一部のモンスターの好感度を得やすくなる。


『さっきのネズミが墓を荒らさなければ俺様が出てくることは無かった。まあ、ネズミに感謝してくれや』


 墓を荒らす――ああ、威嚇の時だ。

 威嚇によっていくつかの墓が飛ばされてた……だから墓の主? であるこのスケルトンが成敗しに来たという事だろう。


「なあ、ここは誰の墓なんだ?」

『さあな、もう忘れちまったよ。ただなんつーか、墓を荒らされると無性に腹がたつんだよな』


 まぁここも、近いうちに消えてなくなるけどな――と呟きながら踵を返すスケルトン。

 墓を踏み倒さないように慎重に歩きながら、俺はスケルトンの後を追う。

 人を助けるモンスターの彼に、俺も興味が湧いていたからだ。


 スケルトンは石碑の裏――後ろからは分からなかったが、どうやら玉座になっているらしい――に、大剣を抱え込むようにして前のめりに腰掛けた。


 玉座もほかの墓も、風化・苔が繁殖しすぎていて文字やエンブレムを探す事すらできなくなっている。


『おい。もういいんじゃねえか? こいつ、悪い奴じゃないみたいだぞ』


 視線は動かさぬまま――スケルトンが囁くような声でそう云うと、無数にある墓の間からひょっこりと、1人? の人形が顔を覗かせた。


 あれはゾンビパペット……?

 人形と人間、割合で言えば4:6くらいのモンスターで、デバフのスペシャリストだと聞いたことがある。


 くすんだアッシュベージュ色の痛んだショートボブを揺らし、こちらの様子を伺う二つの瞳。濁った青色のそれは、警戒の色を色濃く発している。


『あいつはいつの間にかここに住み着いてやがった。害は無いからそのまま住まわせてる』

「そうなのか。こんにちは」

『無駄だよ。あいつの口元見てみな』


 スケルトンの言葉につられてゾンビパペットの顔を見てみると、ひょっこり覗かせた彼女の端正な顔――ではなく口元は、正に人形のようにツギハギで縫われていた。


 会話ができないということか。

 これだと俺の言葉が届いてるのかどうか疑問だ。


 そういえば――


「なあ、近いうちに無くなるって、どういう意味なんだ?」


 玉座に向かう前、

 スケルトンが呟いた言葉を思い出す。


 俺の言葉にしばらくスケルトンは押し黙っていたが、骸骨頭をカクンと動かし、口を開く。


『この場所は英雄様が住む町の目と鼻の先にあるんだよ。しばらくは静かに過ごしていたが……先日、偵察に来た精霊を……その、やっちまったんだよ。ズバッとな』


 スケルトンの言葉に過剰に反応したのはゾンビパペット。

 身体を震わせ、申し訳なさそうに俯いている。


『あーあー、お前のせいじゃねえよ。どの道そうなる運命だったんだからよ……てな訳で、近いうちにここに英雄直下の精霊軍団が粛清しに来るってわけだな。そしたら無事成仏だぜ』


 スケルトンは深くため息を吐くと、周りの朽ちた剣や盾を見渡した。


『逃げりゃどうってことないんだろうがな、俺様はどういうわけか、この場所を離れる気はないらしい』


 土の下に何があるわけでもないのによぉ、と。どこか寂しげに語るスケルトン。

 ここで俺は本来の目的を思い出す。


 ダンジョン生成したくて森に来たんだった――と。そして同時に閃いた。


「引っ越しって形でいいなら、俺が新しい墓場を提供できるぞ。もちろん、この空間をそのままってわけにはいかないけど」

『どういう意味だ?』


 俺の言葉にスケルトンだけでなく、ゾンビパペットも少し興味を示している様子。


 予想外の形での生成となってしまったが、グッドタイミングとはこの事だ。

 俺は墓が立てられている場所から離れ、地面に手をついた。


生成条件……クリア

入り口範囲……縦横3m


(ダンジョン生成可能で、墓に被らない程度の入り口を設定してっと)



「《ダンジョン生成》」



 手をついた部分から徐々に振動が始まり、程なくして、縦横3mの穴が形成された。

 それを遠くで見ていたスケルトンとゾンビパペットは、俺のいる方へと興味深そうにやってくる。


『なんだこれは?』

「ダンジョンだよ。情報が……っと、あったあった。今のところ部屋が3つ作られてるから、その1つを墓地に変えれば引っ越しできるはず」


 俺はそのまま入り口から降りていき、入ってすぐ左に空いた穴へと足を進める。


 そこにはかなり広めの洞穴のような空間ができていた。

 スケルトン達がいた場所ほどではないにしろ、引っ越して余りある広さだと分かる。


(思った通り、ダンジョンをこの場所で作ったから土はおんなじだ。ただ墓をそのまま移せばいいかとなるとなぁ……)


『なるほど。ここに墓を移すということか』

「うおっ、普通に入ってこれるんだな……」


 提案しに行こうと振り返った先に、スケルトンとゾンビパペットが立っていた。

 スケルトンはしばらく何もないこの空間を眺めた後、意を決したように口を開く。


『ここに移した墓場はどうなるんだ?』

「詳しくは知らないけど、ダンジョンコアが破壊されても、最初の部屋だとかは残るらしいな」


 俺が向けた視線の先に、

 菱形の美しい宝石が浮かんでいる。


 あれがダンジョンコアだ。


『簡単な話じゃねえか。よし、そうなりゃ早速ここに墓場を移すぞ』


 スケルトンは肩に乗せていた大剣を地面に突き刺すと、足早に墓場へと戻っていく。


「君も手伝ってくれる?」


 俺の言葉に、ゾンビパペットはコクリと頷いた。




*****




 およそ1時間にも及ぶ作業の果て、巨大な石の玉座をスケルトンが1人で担ぎながら、墓場の中心にそれを置いた。

 見渡せば、朽ちた剣や盾、木の棒が突き立ててあるのが分かるだろう。引っ越作業は終わった。


(こんな入り口から目と鼻の先じゃあ、攻略に来たプレイヤーや迷い込んだモンスターに踏み荒らされかねないなぁ)


 今後、ダンジョンをどう運営していくか考えを巡らせていると、スケルトンがゆっくりとした足取りで近寄ってくる。


『俺様の居場所である墓場がダンジョンにあるなら、俺様の居場所は今日からこのダンジョンだな。悪いが世話になるぜ』


 作業中、薄々そうなるだろうなとは予想していた。

 アンデッド系ダンジョンを作りたかった俺としても、スケルトンという強力な戦力は是非欲しいところ。


「まあそうなるよなぁ。となると〝契約〟という形になるけど、いいかな?」

『おう』


 ダンジョンでは特別なポイントとは別に、ダンジョン内に入り込んだモンスターと契約を結ぶことができる。

 スケルトンはそれに該当しているため、契約を承諾すれば〝ダンジョンに属するモンスター〟という扱いになるはずだ。


『お前も、一緒に契約しちまおうぜ。根っこの下に隠れてるより幾分か安全だからな』


 スケルトンの言葉に、コクリと頷くゾンビパペットの口角が、少しだけ上がったように見えた。



ガッツリとシリアス展開にするか迷いました。あくまでほのぼの系なのでボツにしましたが、要望があれば活動報告にでも公開します。

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