2話 Hello World
※4/4 ご指摘の箇所を修正しました
転送された先は、新たな冒険者が産み落とされる中央ポータル前。
そして、そのポータルをぐるっと囲うように賑わう石造りの町こそ、最初の町である〝冒険の町〟だ。
ファンタジーの舞台によく起用される中世ヨーロッパの町並みに近い、ゲーム好きの心を擽ぐる風景に思わず見惚れる。
道行く人は皆、戦士さながらの鎧だったり、魔法使いさながらのローブを纏っている。仮装パーティーのようだ。
当然といえば当然だが、見るからに超高レベルプレイヤーの姿も確認できる。
装備がもう、ゴッテゴテだからすぐわかる。
(太陽の位置は、真上か)
俺がログインしたのが夜の8時だったのに、今この世界は昼間。世界時計は現実世界と≠なようだ。
朝ログインしても夜の時間だったりと、もちろん逆のパターンもある。
天候や日照時間等も、たとえば出現するモンスターの種類に影響したり、作物の成長に影響するとされている。
(奥が深い――と、まずは調べたとおりに行動しますか)
街の風景を楽しむのもそこそこに、俺は中央のポータルに手をかざし、〝西門前〟へと転送する。
町中は勿論、開放された別の町のポータルも、登録さえしていればいつでも〝瞬間移動〟できる優れもの――というのは攻略サイトから得た情報。
サービス開始から数ヶ月は経っているゲームであるし、その人気度は世界的にも高いため、攻略サイトの数も既に星の数ほどある。
(――と、もう到着か)
暗転したと思った次の瞬間には視界が開け、重く佇む巨大な門と、門の前に設置された小さなポータルが確認できた。
(転送機能。便利だけど、なんか酔いそうだ……)
行き交うプレイヤー達の間を抜け、門の方へと足を進める。
視界上の丸型レーダーには建物を表すエンブレムと、NPCを表す緑の点、そしてポータルを表すひし形のアイコンが浮かんでいる。
宿屋に武器屋――そういえば、序盤からもうNPCの店は極力利用せずに、露天開いてるプレイヤーから買った方が安くて強いって聞いたな……まあ、しばらくは初心者装備でいいけど。
あらかじめ動画を見て調べていたとはいえ、気がつけば風景や鼻をくすぐる食べ物の匂い、そして話し声についつい足が止まる。
プレイヤーの多くは、フレンドらしきプレイヤー達と楽しそうに会話しながら歩いているのが見える。
少し羨ましい――が、孤高のダンジョンマスターを目指す俺にフレンドなど不要! さっさと町の外に出て、第一拠点を作成しなければ。
「そこのお兄さん。ちょっといいかな?」
足早にポータルへと向かっていた俺の後方から声がする。
(誰に向けられた声だ? まさか俺?)
俺じゃなく別の人だった――ってオチが一番恥かくんだよなぁ……などと、誰に向けているかもわからない言葉を呟きながら振り返ると、そこには若い男性プレイヤーが立っていた。
俺? と、指で自分の顔を指すと、茶髪の男性は満足そうに頷く。
「お兄さん、たぶん初心者だよね? 俺、初心者支援ギルドのマスターやってるからさ、つい声かけちゃって」
「は、はあ……」
戸惑う俺を見て、続く言葉をとっさに飲み込んだのが見えた。
一方的に話す形は良くないと考えたのだろうか? 押し付けがましくない点は、とても話しやすいと感じる。
「そうです、さっき始めたばかりで。名前はナナテツノ神って言います」
「……ナナさん、でいいかな? よろしくね。俺はケンヤ。始めたばかりじゃ呼び止めて悪かったね、すぐにでも色々見て回りたいはずだろうし」
ケンヤさんの顔に〝しくじった〟という感情が浮かんでいるところ、VRのリアルすぎるグラフィックに驚かされる。
ケンヤさんは何かを操作した後に踵を返し「ごめんね。時間ができた時にでも、気が向いたら連絡してね」と言って人混みの中に消えていった。
早速、ゲームプレイヤーと交流してしまったという喜びで少し脈拍が上がっている。俺は視界の右下に出てきたメールアイコンをタップし、新着メールを開く。
差出人:ケンヤ
西ナット森林のモンスターは特殊で少し強いから、初めての狩りは南ナット平原がオススメ! ピンチの時飲むべし。
添付アイテム:回復薬×5
(やばい、先輩プレイヤーの気遣いやばい。俺が女ならば落ちていたかもしれない)
先輩プレイヤーの助言を受けた俺は再びポータルへと向かい、南門へと転送した。
*****
見通しのいい広大な平原――南ナット平原に到着。
流石は人気ゲームなだけあって、サービス開始から時間が経った今でも、いわゆる初心者用フィールドには大勢の初心者プレイヤーが狩りをしているのが見える。
(ダンジョン生成の場所を優先しすぎて、モンスターのレベルを考えてなかったのは抜けてたな……ケンヤさんに感謝だ)
アイテムボックスを開き、初心者用の武器――一振りの剣を具現化させる。
小学校の帰り道、傘を剣と見立てて振り回してた時に似た高揚感を覚えながら、近くに湧いたネズミ型のモンスターと対峙する。
【ナットラット Lv.1】
湧いたばかりで俺を認識できていない様子。
俺は剣を構え、剣道でいう〝小手〟の要領で、踏み込み足と共に素早く剣を振り下ろした。
ヂュ! と、苦しげな声と共に光のポリゴンを爆散させたナットラット。
不意打ちの扱いになって想像以上のダメージが出たのだろうか……ともかく、初戦闘はアッサリだが無事に終了した。
一旦ステータスを確認してみようかな。
名前 ナナテツノ神
Lv 1
種族 人族
職業 ダンジョンマスター
筋力__20
耐久__10
敏捷__10
器用__10
魔力__10
残り10ポイント
初期ポイントが70だったので、とりあえず筋力は20、その他の項目を10にして、余ったポイントは戦闘してみて決めるために取っておいてある。
ダンジョンマスターの職業的特徴はダンジョン生成した時にでもおさらいをするつもりだが、若干、筋力に寄りすぎた気もしないでもない。
とはいえ俺はダンジョン内でも生粋の剣士をやるつもりであるから、攻撃力に直結する筋力を上げることは間違っていないはず。
(しかし、不意打ちとはいえ最弱モンスターでは一撃か……これならもっと強いモンスターとも戦えるかな?)
自分のステータスに確かな自信を持った俺は、より強い敵を探すべく、南ナット平原をさらに進んでいった。
*****
小一時間狩りをしたした結果、レベルが7にまで成長した。
俺のステータスではナットウルフ(レベル10)が適正であるが、現在技能未習得の状態だ。これから習得してみようと思う。
(武器は刀を使いたいから【刀術】。防御か回避のスキルは取るべきってあったから……回避かな、【回避術】っと)
木陰に腰掛けながら、スキル群の中から気に入ったものをポンポン選んでいく。
(【空間認識の目】と【思考加速の心得】は上位プレイヤーでも愛用してる有能スキルだったっけ、ダメ元で取ってみるか)
【空間認識の目】#active
自分を三次元的に見ることができ、自身の周囲5mを360°見通すことが出来る。
【思考加速の心得】#active
脳内情報の伝達を手助けする(加速度約2倍)
自分を三人称視点で見ることができる空間認識の目、そして脳の処理スピードを上げる思考加速の心得。
どちらも強力故にプレイヤーへの負担が大きいと聞くが……必須スキルの常連である。
「ん?」
思考加速の心得を選択した際に、隣にあった見慣れないスキルが目に止まる。
「モンスター言語ってなんだ?」
サイトに載ってたスキルは一通り見たはずなんだけどな……と思いつつ、タップして詳細を開く。
【モンスター言語】#passive
特定のモンスターと言葉を交わすことができる。
(いわゆるイロモノ系か……?)
有名なイロモノ系スキルの中には筋肉を肥大させるだけのものや、魚の気持ちになるだけのものなどが存在するが、これはそれらに比べたら有用であると容易に想像がつく。
「あそうだ、これってダンジョンのモンスターにも作用しないかな?」
習得した瞬間、フィールドにいるモンスターの断末魔が人間の言葉に変換されて聞こえるとするならば、トラウマ必須のスキルといえるが……どうなるか。
技能
【ダンジョン生成 Lv.1】【刀術 Lv.1】【回避術 Lv.1】【空間認識の目 Lv.1】【思考加速の心得 Lv.1】【モンスター言語 Lv.1】【意思疎通の心得 Lv.1】【採掘 Lv.1】【料理 Lv.1】【釣り術 Lv.1】