1話 ゲーム開始
『アナタの名前と性別を教えて下さい』
「ナナシマ、男です!」
特に考えていなかったので、適当に自分の苗字を答えてみた。
『――認証エラー。他の名前をどうぞ』
「まぁ分かってたけどね……」
名前かぶりはNGだなんてめんどくさいルールやめてほしい。考えるプレイヤーの身にもなってくれ。
ガイドAIとの数十回にも及ぶ攻防の末、俺のプレイヤーネームが【ナナテツノ神】に決定した。ヤケクソだよ。
発売から3ヶ月、未だ勢い衰えず売上・プレイヤー数を伸ばし続けている怪物こと〝Frontier World〟の噂は、たとえゲームに興味のない人間でも一度は耳にしたことがあるだろう。
VR技術の確立。
味覚や嗅覚の再現。
この世界の中では、全盲の人や全身麻痺の人でも、野山を自由に駆け回ることが可能となる。よく出来すぎたゲームだ。
『種族を教えてください』
「人族、決定と」
お得意の〝即決〟である。
レストランでの注文も基本これ。
種族には、俺が選んだ超オーソドックスな《人族》をはじめ、獣のような特徴を引き継ぐ《獣人族》、ヒレや水かきのある《魚人族》、ツノや爬虫類を彷彿とさせる尻尾を持つ《竜人族》、小さな体を持つ《小人族》、3メートル以上ある体を持つ《巨人族》、機械の体を持つ《機人族《
アンドロイド》などなど、数多く存在する。
これらはステータスや技能に大きく反映される。加えて、まさに今俺が《人族》を選択したことで始まった〝キャラメイク〟にも種族的特徴が反映される。
なんの変哲もない普通の男。
人族はそのまま人間の特徴だけの種族であるため、いじらなければ現実の俺の顔や身長がそのまま適用されてしまう。
髪型はそのままセンターパート。髪色は黒のまま、身長は見栄を張る必要もないから170のまま――
何も難しく考えずに、ぽんぽんとキャラメイクを進めていく。
「センスだなぁ……」
とりあえず顔の造形は、自分のコンプレックスを全て無くして全体的に整えてみると〝美容整形で大金を積んだらこうなるだろう〟という俺の顔が完成した。わりかし美形である。
「目の色だけ青にしておこう」
第一印象が冷たそうと言われ続けた経験を生かし〝冷たい=氷〟という発想から青に至る。水色や銀色も考えたが、元の顔を少し弄った程度の俺の顔にはちょっとだけ浮くのでやめた。ファンタジーファンタジーした顔で遊ぶ人ならアリかもね。
とりあえず、これで準備完了。
『職業を教えてください』
これはもう、買う前から決めてある。
目の前に出現したパネルに並んだ職業の中から、目当てのものを探し出す。
《ダンジョンマスター》
特定の場所にダンジョンを生成できる。
そう。ぼっち御用達の職業と名高いダンジョンマスター。
風の噂で、普通の技能として条件を満たせば入手できると言われているが、その辺はガチ勢じゃないので気にせずに行こうと思う。
地上でモンスターをバッサバッサとなぎ倒す冒険者達は〝陽〟の職業だとすれば、ダンジョンマスターはいわば〝陰〟の職業。
一介の冒険者として外でモンスターを狩る方法も取れるが、ダンジョンマスターの本分は〝ダンジョン内に侵入した者を倒し、経験値を得る〟である。陰陽というより、もはや悪役といえる。
陰キャ筆頭の俺からしてみたら、人の不幸で腹を膨らませるこの職は正に天職だと考えている(全国の心優しい陰キャさんごめんなさい)
巷では、ダンジョンはパーティで来られたらすぐ踏破されてしまう不遇職だと噂されているが……まあなるようになれだな。
『転送を開始します。貴方に世界神の祝福があらんことを。welcome to Frontier World……』
Frontier World―召喚士として活動中―を読んでる方もそうでない方も楽しめる作品を目指します。ながワサビ64