80 迷宮の死神
遅くなりましたが続きです!どうぞ!!
迷宮のように入り組んだ街の中。 20層もの壁に隔てられているその街は外側に行けばいくほど治安が悪いと言われている。
だが、その街にはまことしやかに剣士達に囁かれ、その街の住人達に知らない者はいないと言われている璧層がある。
魔のセブンティーン。
ある者達から言わせれば、1番治安が悪いのは20層ではない。 奴がいる璧層だと口を揃える。
今年は17か、いや、16か? 年を越し終えた住人、そして貴族達の話題はこれで持ちきりだ。
そして、今年は17。
通称死神リリー。奴が発見され、根城を作った場所はそう呼ばれ、その璧層の人口は10分の1にまで下がる。それを知らない者は、この街でいえばモグリとしか言いようがない。
そのような噂の立つ、この街の17層に1人の悪人が入り込んだ。
「……くっ。 しつけえぞこの野郎……!」
彼は、ただの殺人犯。 18層で食い逃げし、邪魔だてした者を殺して逃げていた。 他にも、殺しなどはもちろん財宝や金銀を盗み出しており、余罪だけでも死刑は免れないほどだった。
この街にも警察はいるが15層を超えるとどんどんと質が落ち、人を殺した程度では動かない。 彼のような犯罪者はゴロゴロと存在している。
だが、彼は今追われている。 それは何故か。 そう、彼は一つ大きな失態を犯した。 それは、
すぐ近くに上の璧層を護衛する男と鉢合わせてしまったことだった。
白く高貴な制服に身を包み、眼鏡を掛け知的そうに見える剣士が男を追いかける。
「……逃げても無駄だ。 あなたは死ぬのですよ。」
「チッ……。」
殺人犯である彼は、路地裏に逃げ込む。
クソが! よりによってあの制服は神軍! 俺も一端の野郎には負けねえが、コイツらは格が違え!!
どう逃げるかを考えながらも路地を進む。
すると、────────
路地裏に立つ大きな男の背中にぶつかり、進行を邪魔された。
何だぁこのくせえ野郎は?
「どこ突っ立ってんだぁ殺すぞボケが!!!」
だが、その男は物怖じもせず不機嫌そうにゆっくりと振り返った。
「……痛えなぁ?」
「どけテメー、この野郎!!!」
そこへ、剣士の男が到着する────────
が、
「おやおや、これは面白い展開だ……。」
それだけを口にし、大きな男に目をやる。
身長は2m近くあるだろうか。 湿っているかのようにヨレた長い髪 髪で後ろで縛られている。口ひげは伸びっぱなしにされその上、汚れた服を纏っている。 汚れたブカブカの服の下からは、骨と皮だけのような体が出ているおり、いかにも乞食のような印象だ。
だが、貧相な見た目とは裏腹に、どこか高貴なオーラがあった。剣士はその男に話しかける。
「……その人殺しを私にお渡し下さい。 あなたも私達と構えたくはないでしょう? 」
「ああ……?」
「テメーいいからどけよコラ!!!」
だが、男はまるで殺人犯の男には目もくれず、剣士の男に目をやる。
「……糞の群れが俺に指図するな。 ここは俺のシマだ、消え失せろ。」
男はゆっくりと歩を進める。
「糞ではありません。 神軍九隊、6番隊隊長ジャンヌ・クロスです。 以後お見知りおきを……。 」
隊長?!
殺人犯の男は汗が吹き出る。 神軍とは神の如き力を持つ九隊編成の護衛隊。 その中でも、選ばれし9人の中の隊長クラスが何故ここにいる?!
俺は今までこんな男に追いかけられていたのか?!
だが、男はそれを聞いても何も動じない。
「……もう一度だけ忠告しておいてやる。 消えろ。 コイツは俺の客だァ。」
「……私はあなたのシマを認めた覚えはない。 それだけならば、あなたを……? ……失礼。」
6番隊隊長ジャンヌの通信機がバイブレーションを起こす。
「……はい。 ……はい。 …………左様でございますか……。 では……、至急そちらへ……。 」
通信機を切ると、抜きかけていた腰刺しからゆっくり手を下ろすジャンヌ。
「大事な予定が入りました……命拾いしましたね。」
「命拾いだぁ?」
男の顔が歪む。
「だが、あなたのような悪党をいつまでも放っておくほど、私達神軍九隊は甘くない。 」
「……ほうかい。 それじゃあ、それが最後の言葉だ。」
「……残念ながらあなたと遊んでいる暇はない!!!」
男が地面を蹴るより先に、ジャンヌは煙幕を巻き上げる。
「……次は必ず貴方を殺します。失礼します。」
そう言うと音もなく、ジャンヌは跡形もなく消える。
「……なんだあの野郎は? 好き勝手言ってくれやがるなぁ?」
男はそう呟くと、カタカタと震える殺人犯に気づく。
「……ああ……まだ居たか……」
「……………………お、お前は……一体……何者なんだよ……」
腰が抜け、後ずさりする男に男はゆっくりと近づく。 蛇のように長い舌を出しながらヘラヘラと笑う。
「……俺かァ? 」
「……ヒッッッ!!! グェァッッッ!!!」
男の右腕が首に入る。 そして、殺人犯の男は首を掴まれ、宙に吊るされた。 服の隙間から見える細い体からは想像出来ないほどの力で首を締め上げる。
「……俺の名前を聞いた所で、お前は死ぬんだから意味ねえだろう?」
「……そ……んな……ッ!」
更に首を絞める力が上がる。
「安心しろよぉ。 お前の命は有意義に使ってるやるからなぁ?」
「な、……なに……を……」
男の右腕が鈍く光る。
そして、────────
「お前の命を貰うぜえ?」
「……ガぁ……あ……ぁ……」
右腕から何かを吸い取られる感覚。 魔力ではない……。
まるで、例えるならば……
生命のエネルギー……。
風が吹き男の左腕が、ひらりとめくれる。
殺人犯の男は死に際にやっと、その男の正体がわかることになる。
めくれた左腕。 そこに描かれていたのは……
目の無い女のタトゥー
そうか……
コイツが……あの……
みるみるエネルギーが奪われ、それと対象に体からは生気が抜け、色気が死んでいく。
神に嫌われし者達
迷宮の死神……
リリー・レイル……!!!
そうわかった時にはもう、彼の命は果て、リリーと呼ばれた男の中に飲み込まれていった。
「クハハ……。」
リリーは抜け殻となったそれを、無造作に捨て去り、髪の隙間からつり上がった目を見せた。
「……強奪完了だァ。」
彼はそれだけを言うと、黒い路地の奥へと消えていった。
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