77話 人喰い
前回の続きです!どうぞ!
【「お前の罪を清算してやる……。」】
「……そうかえ、そうかえ。 貴様らは裏で繋がっておったのかえ。」
オボロがそう言って剣を抜くのを、さほど驚きもせずそう答える父親。
「おっとう……?」
「離れてるでな……。 お父さんがすぐに倒してあげるでな。」
「オボロ……ッッッ!!!」
「マリンッッッ!!!」
子は親へ。 マリンはオボロへと向かい、それぞれ抱き合う。
白く大きな獣は、ただただそれを見ていた。 だが、そのどちらにも愛情があるのを感じていた。 白き獣はそれを察すると、それ以上は何もせず離れことの顛末をただ見据えるようにその場を離れる。
「離れてるでな。 危険だで。」
「離れていろ、俺がケリをつける。」
マリンと子はそれぞれ離れる。 そして、2匹の男は正面を向き合った。 父親からはもう親父の表情は無く、オボロの顔からも優しさはなくなっていた。
「もう逃がさない。 ダダス、お前をここで始末する……。」
「その名は捨てたえ。 今はただの親父でえ。 死ぬのはお前じゃバケモノ。」
───────────────!
オボロがダダスと呼ばれた父親に一瞬で差を詰める。 その手には闇の中でも煌めく正義の剣。
「……一瞬で楽にしてやる!!」
「……二ギィ!」
だが、ダダスは綺麗にそれを避け距離をとると宝箱を投げつけた。
それを、切り伏せるオボロ。
だが、────────
「……まだ死ねんで。」
「ッッッ!!!」
空の宝箱を囮に、ぼろぼろに廃れた斧を取り出しオボロに振りかぶるダダス。
それを、間一髪で避け間合いをとる。
「……強い……。」
マリンはそこで確信した。
まさかとは思っていたその名前に。
そして、────────
ダダスと呼ばれた父親が彼女自身も知っている人物だということに……
リサードやオボロ達と出会う前。 まだマリンが獅子王の心臓にいた時の話しだ。 迷宮都市ディスタシアの近くを通り遠征に向かった際、ギルドメンバーが話していたことを聞いた。
なんでも、迷宮都市ディスタシアは中に何重もの壁が存在し、バームクーヘン状で中に行けばいくほど豊かになっているというもの。中心が富豪の街1層。 そこから、2層目、3層目と下がり20層もの壁があるとされている。
ここまでは有名な話だが、ディスタシアの周りには、村が幾つも出来ているらしく、そこは貧困者の中でも更に貧困を極め、大きな犯罪を犯した者達が住まうというのだ。
よくよく考えてみれば、中に行けば豊かと言うことは、それに比例し外側は貧相になるのは予想がついただろう。しかし、その時の自分は愚かだったというしかない。 豊かという面に囚われていたのもあり、すごく驚いた記憶がある。
そして、……
マリンは斬り合いを続けるオボロとダダスを見ながら、思い出す。
その村でも凶悪だとされた者は、追放をくらうはずだった。 そう……そのはずだったのだ。
しかし、追放は行われなかった。
マリンは息を呑む。
村人の全滅。
話を聞いた時の記憶と共に、まるでそこに居たかのような戦慄まで蘇るマリン。
1人の男が村人を殺しきり、追放は行われなかったというのだ。 その後、男は様々な村や憲兵隊に追われているとは聞いていた。 だが、この話の最大の肝はここでは無い。 その村人達の死体の様子だった。 殆どが骨までしゃぶり尽くされ、肉がなかったという……。 脳はミソまでほじくられ、余すことなく骸骨になっているという悲惨なものだったという。
そこから、付いた異名こそが……
オボロが口にした名前。
人喰いダダス。
外に広がっていた人骨を思い出す。 あれは、魔獣なんかの仕業ではない!!!
マリンは思わず口を抑える。
空っぽの胃の中から、液体がこみ上げてくる。 それを、必死に抑え、焼けるような喉を何とか堪える。
あのお酒も、あの態度も私を襲うなんてそんなものじゃなかった。
私のことを初めから……
マリンの脳裏にある言葉が、蘇る。
えさ……ねえ……。
餌……。
そうか。 私は最初から食べるつもりで……、あの子ですらも。 人間が人間を……!!!
マリンはここで気づき、視界が歪む。
ビシャビシャっと地面にこぼしてしまう。 息が辛い。
「マリンッッッ!!!」
「……隙だえなぁ?!」
「ぐぅッッッ!!!」
オボロは間一髪で斧を避けるが、腕に赤い線が浮き出る。 血が流れだし、腕を抑えながらも切り返す。
「よそ見だけはいけねえだな。どんなに強くても、必ず隙になっちまう。」
斧をさすりながらそういうダダスに、冷静を取り戻し構え直すオボロ。
「……何、ただのハンデだ。」
闇系魔法────────
「……白幕ッ!」
剣をふり、白く液体状の闇が周りを包みあげる。
更に、────────
闇系技唱────────
「……白形ッッッ!!!」
白い闇が凝縮し、オボロに似た擬人を作り出す。 剣を構え白幕の中で、敵を待っている。
マリンの容態は……
すると、────────
「……二ギィ!!!」
斧の風圧で白幕を掻っ切り、侵入するダダス。
そして、────────
キンッと高い音を立て、シロガタの斬撃を防ぐ。 キリキリと擦り合い、ダダスを足止めする。
「……マリン! 立てるか?!」
「……オボロ! ……」
「どうした?!」
マリンはオボロに顔を寄せ、何かを伝える。マリンはそれを伝えると、少し休ませて、と壁に寄りかかる。
「……そういう事か。」
すると、────────
「……バケモノよ。 用事は済んだかえ?!」
シロガタを制し、斧を振り上げ飛びかかるダダス。 それを、ユースティティアでしっかりと受け止めるオボロ。 足に重みがのしかかるが、きっちり抑え込む。
「バケモノはどっちだ?」
「……俺らからしたら、お前ら人間の方が醜いバケモノやげの。」
「……フン、言い得て妙だな。」
隙を見計らい、刀身をズラして切り上げ、思い切り腹に蹴りをぶち込むオボロ。 しかし、ダダスは斧を上げても片腕でガードし、後ろに飛びきる。
「……お前らみたいに、欲にまみれ、食料を横領し、平然と人を殺す。 カーストを作り上げ、人間が人間を見下す。 俺たちだって生まれた時は人間だったださ。 だけれども、最初から家畜のようだった。 それでも、生きるのに必死だっただ。 」
ダダスの斧にヒシヒシと力が入る。
「……お天道様に顔向けできるよう、悪いこたぁせず生きていたつもりだた。 けんどもよぉ……勝手に悪者に仕立て上げられ、命を狙われる……。 わたしらが何をした? お前さんがたに……。 わたしはアンタらが怖い、バケモノはそっちやで。」
「……聞いてもいないことを喋るな。 その話には同情するが、罪を犯していい理由にはならない。」
「……だったら、死ねって言ってるだか?!」
激昂したダダスが走り込む。 避けようとした刹那、マリンが後ろにいることが脳裏をよぎった。
「……グうぅぅッッッ。」
受けきるッッッ!!!
横振りの斧がオボロの脇腹を捉える。 ユースティティアで受け流そうと試みるも、威力が威力なだけに反動がでかく、吹き飛ばされてしまう。
「……お前さんがたは甘えすぎでねえか? あっしらが罪を犯したなんて言う前に、貴族……奴らはどうなるんだ? ええ??」
壁に打ち付けられながらも、パラパラと、石クズを振り払い構え直すオボロ。
「……それが、魔人になっていい理由か? もっとマシなやり方が……」
「はぁぁぁぁ??!! マシなやり方だぁぁぁぁ??!! 手段なんか選んでる暇はなかた! わかっているような口を聞くでねえ!!!」
「……やっぱり話し合いは不要か。」
オボロはユースティティアを構え走り出す。
「……王の才の力を証明してみろ!!!」
走り込むと斜め上から剣を振り下ろすオボロ。 ダダスはそれに対し真正面から受けきり、顔を近づける。
「グウウウウウガアアアアアアアッッッ!!!」
ダダスの体が紫色のオーラに包まれる。 筋肉が肥大化し、ユースティティアがカタカタと悲鳴をあげる。
「そこまで言うなら魔獣の力を見せてやるダダァ!!! これがわたしのせめてもの抗いやぁ!!!」
「……ッッッグオッッッ!」
恐ろしき爆力で戦況を無理やり塗り替えていく。 思わず後ろに退るオボロ。 そのまま、ギリギリで斧を受け流すが……
「……ブモオオオオオ!!!」
「……ゴブッッッ!!!」
弾かれた剣の隙間を埋めるよう、無理やりな突撃がオボロを捉える。猛牛に思い切り突っ込まれたような衝撃が内蔵を突き上げ、意識を一転させる。
だが、剣士としての維持がユースティティアを離すことなく、吹き飛びざまに、ダダスの体に切り込みを入れる。
だが、────────
「……苦しまぎれが哀しいだなぁ?!」
紫色のオーラがダダスの体の傷を包み込み、切り傷を瞬時に癒す。
「ほれだ!!!」
更にダメ出しを打つように、伸びた足はオボロのみぞおちを突き抜け、オボロが遂に片膝をつく。
「……罪をぉぉ……償うなんて考えらぁれる……かぁぉ…!!!」
ダダスは吹き飛びかける理性の中、そう言い切ると最後の斧を振り下ろした。
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おやすみなさい!




