75話 手伝ってもらうんだからね!
前回の続きです! どうぞ!
「本当に私何もしなくていいんでしょうか……。」
「なぁにも心配はいりませんだ。 ここでゆーっくりしていってくだせえ。」
父親はそう言うと、軋むドアを開けて出ていく。
カビの生殖する湿った部屋。 ホコリ臭さも混じり呼吸が重く感じる。 所々にはコケやキノコまで生えており、最低限度の文化的な生活とは何なのかを疑いたくなるほどマリンはその部屋が汚染されているように見えた。
もうあれから3日ぐらいここにいるだろうか。 何か出来ることは無いかと聞いたものの、「ここにいるだけでいい!」と言われ、部屋で何もしていない。 だが、何もしないのはしないので苦痛だ。
怪しい父親は1日の大半はどこかへ出かけているし、あの子供もどこかへフラフラと出ていく。 この部屋に篭っていると精神が狂いそうになるので、どこかへ出かけたいのは山々なのだが、如何せん外は危険。 霧も立ち込めて一本道しかないのに、帰り道がわからなくなる。上を見ても朝か夜かも、どの方向に向かっているのかもわからなくなる。 何か幻覚を見せられているような感覚だ。
「────────ッ。」
マリンは服越しに思い切り息を吸いこみ、なるべく外気の菌を吸い込まないようにする。
人骨もゴロゴロ転がっているし、迷って1人にでもなったりしたら自害する自信がある。
あー、頭が狂う。
すると、軋む音を立てドアが開かれる。
「へへっ、酒です。 秘蔵の酒をここに置いていきますえ。 あと、この芋虫はツマミでさぁ。」
「……酒……い、芋虫……。」
何もしていなくても生きてれば腹は減る。 この人たちも何も食えていないはずなのに、私に酒とその日とった虫を渡してくる。 正直お腹はペコペコだ。
でも、考えて欲しい。
キノコやらコケがはえた部屋の中。 衛生上に問題しかなさそうな場所で取れた芋虫に酒……。 正直食えたものではない。 て言うか……
芋虫まだ生きてるじゃん……。 せめて動かないようにしといてよ……。
そんなマリンの思いが目に出ていたのか、目が合うと父親はニコリと笑い芋虫をマリンの近くへと置き、弁解を加える。
「へへっ。 こいつァ生きたままが上手いんでさぁ。 さぁ、ガブッと言ってくだせえな?」
「……じ、実はしょ……食欲が無くて……、 お酒だけもらいます。」
「はぁ、そうですかい! まあ、この酒はうちの秘蔵の酒なんでねえ! ツマミいらずで酒の味を楽しみたいってことですかい。」
「そ、そうですね……。 あ、あのー。」
マリンは申し訳なさそうに目線を送る。
「い、いつまでいるんでしょうか……。」
そう言うと、男は少し驚くがまたニコリと笑顔を戻す。
「いやいや、飲むのを確認したら出ていきますよ。 ……そいつはうちの秘蔵の酒。 味わった感想やらも聞きたいですしねえ。 それに……」
父親の目がギョロッと動く。
「……飲まずに捨てられても困るのでねぇ。」
「え……?」
「おっとう。 のんだだか?」
「まだださ。 ほれ、飲みなさい。」
いつの間にか、ドアから子供まで入ってきており酒をマリンの顔に突き出すように飲ませようとする父親。
飲みたくない、絶対美味しないよ……。 私酒嫌いなのに……。 てか、仮に好きだったとしても父親の指がガッツリ入ったハエのたかる酒は飲みたかない。
「うっっ……。」
「ほら、早く飲んでくだせ。 グイッと……ほれグイッと……。」
飲むしかないのか……。
「……あ、ありがとうございます……。」
マリンもそのコップを受け取る際、ガッツリ酒に指を入れて受け取る。 そして、そのまま飲み干した。
「お、美味しいです!」
「……しっかり飲んだね。 これで大丈夫だ、私は失礼すますえ。 ほれ、ボンクレ行くぞ。」
「うん。 えさねえまたね。」
「うん……。」
2人はマリンが酒を飲み干したのを見ると、満足そうに戻っていく。 実はこの酒はもう3回目だった。 毎日夜にこの酒は必ず出され、マリンが飲み干すまで2人は居座るのだ。
だが、だからと言ってさすがの私も、ただただ飲み干すのでは危機感がなさすぎると思う訳でして……。
マリンは酒をもらう際必ず指を入れ魔力を流し込んでいた。
水系魔法────────
(ウォーター・キュア)
液体を浄化し、きれいな水に変えるという魔法。 中身に入っていた液体を水に変え、あたかも酒を飲んでいるかのようそれを繰り返しただけなのだ。
マリンはほぼ何か確信めいたものがあった。
このお酒は何か普通ではない。 賭けは好きではないが、なにか怪しいものが入っているに、100万エンドをかけてもいい。
そして、それと同時に……。
マリンは、インベントリを確認し武器やアイテムなどを見直す。
明らかに何かを狙っている……はず。
だが、それが何かまではわからない。 あるとすれば……
私の身体!!!
マリンは顔を赤らめながらも、クッと耐える。
いくら私が可愛いからって……。 他に人がいないからって……。 見境なく私を襲おうなんて……。 そりゃまあ、男だけのところにこんな見目麗しい女の人が来たら、気持ちはわからなくもないけどさ……。
「ゴホンっ。」
マリンは考えを振り切るかのように、大きな咳払いを1つ。 実はまだ気になることがもう1つある。
部屋の壁が薄いため、隣での話し声はマリンにも聞こえてきていた。 息子と父親の会話だろう。
盗み聞きした内容によると、何やら外に恐ろしいバケモノが彷徨っているらしいのだ。 そして、どうやらバケモノはこの親子を狙っているという話……。
何故、狙われているのか……。 理由はわからない。 しかし、怪しいのは間違いない。 間違いないのにここを出て一体私に何が出来る。
ここに閉じこもっていては、いつか襲われる。 3日も食わずで魔力も心もとないし……。 ウォーター・キュアが使えるのは3回使えるぐらいだろう。
終わる……。 あの酒飲まされる……。
せめて、この3日で何か行動を起こさないと……。
「…………………………フゥ。」
マリンは深く考える。
せめて、ここで無いどこかに拠点を移したい。 本当に。てか、なんで私ばっかり……。なんか腹たってきたわね……。
何か無いか……。
この崖の下を移動して……
どうにか上に行く方法を見つける為に……
この崖に詳しいあの2人を……
そのとき、ハッと顔を上げるマリン。
「そうだ……。」
これに賭けるしかない!
軋んでいるドアを思い切り開けるマリン。 汚い居間が見え、驚いた父親と子供が隅で驚いたようにマリンを見つめる。 何で2人して部屋の隅に固まってるわけ? という疑問を振り払い、声高々に呼びかける。
「な、何だえ……。」
「……倒すわよ……。」
「……へ……」
マリンは強い目で訴えかける。
「外のバケモノ! いるんでしょ……? 倒すわよ! 早くこの陰気臭い崖から出るの! アンタ達手伝ってもらうからね!!!」
マリンはもう迷いはなかった。
バケモノだけには勝たせてなるものか……
しかし、このマリンの思惑は思い切り覆されることになるとは、彼女には知る由もなかった……
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ギリギリ間に合ったとしておこう!




