73話 一寸先は崖
前々回から繋がっています。 どうぞ!!
あれから結構日数が経っていた。
ミューハーフェンを出る直前に寄った雑貨屋などで、道具や必需品を揃え森に向かっていた。
暴走していた黒剣アビスは再度の暴走が危惧されるため、一応オボロが腰に指している。 さすがに、空間魔法<インベントリ>の中で暴走されたらたまったものではない。 腰に爆弾を抱えながらも、魔獣を避け、戦いながらどうにかこうにか森は抜けきれた。
しかし、木陰の多い森を抜けると一気に暑く、それでいて見晴らしがいい為、休みもなかなか取りずらい。 さすがに疲れも溜まってきていたころだった。
「直射日光が染みるなぁ。 足も少し痛くなってきたかも……フゥ……。」
「……さっき出たばかりだろう?」
「さっきって何時間前の話?! ていうか、良く全身真っ黒なコーデで日差しの中歩けるよね? 」
「コーデなどでは無い! 立派な礼装だ! 訂正しろ!」
そうギャーギャーと騒がしく言い合いをしながらも、迷宮都市ディスタシア。 通称ノクス・ラビリンスに向かうマリンとオボロの異例コンビ。
マリンは白い巫女の様な服ではなく、青いシャボン玉の様な模様をした袖のない上着に、短いスカートを身につけ、以下にも防御力より涼しさと動きやすさ重視の服装をしている。
それに加え、オボロはいつも通り真っ黒の服に真っ黒のコート。 それも、マントのように長く見ているだけで暑苦しい上、動きづらそうなことこの上ない。
明らかに第三者から見れば、この2人は夏と冬の両極端。 気温的にオボロがおかしいのだが、異様に映る。
「……見てるだけでこっちが暑くなってくるよ! いいから脱げ!」
「……お前は馬鹿か。 この服は魔力補助や、身体向上などの戦闘に関わるスキルが施されている。 それに、いつ戦闘になってもおかしくない状況で、その格好をしているお前の危機感の無さにむしろ寒気がする!」
「……馬鹿か、だとぉ……」
そう言って、寒そうなゼスチャーをして見せるオボロ……
この男ォ……!!!
「……そんな事言っても汗垂れてるから! それに、いつも同じ服で不潔だよ。 絶対汗臭いよ。 うぎゃ〜今にも匂いが来る〜」
「……ふ、不潔だとぉ……」
マリンもそう言って、鼻をつまんでヒョイヒョイっと仰いでみせる。
この野郎……!!!
「誤解のうむ言い方はやめろ! 俺は、同じ服を持っているだけで取り替えている! それに抗菌仕様だ!!! 残念だったな!!!」
「……グウゥゥゥ!!!」
「……ぬぐゥゥゥ!!!」
2人の間に火花が散り合い、ふいっとそっぽを向き合う。 だが、この暑さだ。 「ハァ……。」とため息を付き、さらに毟りとりあった労力を無駄にしないよう歩く。
ヨタヨタと力なく歩くマリンと、確かな足取りを見せるオボロ。 差が開かないよう、オボロが合わせているのがマリンの救いだ。
それから魔獣などに出くわさないよう又は、極力避ける様に歩いていた。
しかし、ある所を境にパッタリと魔獣が消える。 それどころか、前方から冷たい風が吹き始めた。
「……あ、涼しい!!」
「……ん?? 」
オボロは不審そうな顔を見せ、少し小走りで草原を駆ける。
「……オボロ??」
マリンもそれに着いていこうと追いかける。 すると、突然ピタリと止まるオボロ。
「……オボロー? どうかし……」
「マリン止まれ。 下を見ろ。」
キッパリと言われ、言われるがまま下を向く。
「ッッッあ……。」
底の見えない崖に思わず腰が砕けそうになるマリン。
オボロがスッと支え、ゆっくりと後ろに下がる。
「……どこまで続いてるの……?」
よく見ると、横にもずっと続いており、ここ一帯からはあちらへ渡ることが出来なくなっているようだ。強い風が底の見えない下から吹き上げ、それが流れてきていた。
しかし、余りにもトラップすぎる。 こんなにも大きい崖があるにもかかわらず、平坦過ぎるが故に遠くからだと地面が続いているようにしか見えない。
近くに寄り、目を凝らすと崖の向こう側まで1キロぐらいある。
ここ渡るのかなぁ……?
空でも飛べって言われるんじゃないかとハラハラするマリン。
すると、────────
「……少し休憩していいぞ。 ここら辺は魔獣もいなさそうだしな。 俺は少し下に降りて様子をみてくる。」
そう言って、崖に近づくオボロ。
「え……。 大丈夫なのそれ? 絶対危ないよ! やめよう……???」
「……そうは言ってもここから引き返すわけには行かない。 俺はノクス・ラビリンス付近を昔通ったことはあるが、こんな崖を見たことがない。 」
「……何か地震とか、災害……?」
「いや、それにしては不自然だ。 断面が綺麗に割られているし、仮に災害だとしたらここに草原ができるまで何百年かかると思う?」
「だけどさぁ……!」
マリンは地面に腰を下ろしながらも、足が震える。
「……オボロの言うように意図的にこれが作られたとしたら、それの方が危ないよ! わざわざ、ここを通らなくても時間かけて行けばいいよ! だって、オボロがわざわざノクス・ラビリンスに急いで命かけるような……」
そういった所で、ハッと口を抑えるマリン。
「……だってわざわざ…… なんだ?」
「………………ごめん。」
自分の性格の悪さが嫌になる。 リサードの為なのに、自分のわがままが先に出ることが悔しくてしょうがなかった。
「………………………………………。」
2人の間に静寂が流れる。
すると、「フゥ……。」と落ち着き、マリンの横に座るオボロ。
「……心配してくれたんだろ? しかし、そろそろ陽が落ちる。 そうすれば、ここの近くで寝泊まりしなくてはならないが夜の草原は見晴らしもいいし、魔獣も活発になり危険が伴う。 陽が落ちる前に下を確認して渡れるのか、暖が取れる安全な場所があるか。 それだけ、確認するだけだ。 ……もう大丈夫か?」
「うん……わがまま言ってごめん。」
「いや……」
オボロはそう言うと立ち上がり、崖に近づくと剣を抜く。
「人は本来的にわがままな生き物だ。 俺にぐらい隠すな。 その度にまた、治していけばいい。」
オボロはそう言うと、スッと飛び降り岩壁に剣を突き立てながら降りていく。
「……じゃあ……な。」
ガガっという音を立てながら勢い良く降りていき、音が聞こえなくなる。
「………………………………………。」
マリンの体から力が抜け、頭が下がる。
「……何よそれ……。」
冷静な振りして馬鹿なのに……馬鹿なくせに、どこか人生を悟ったみたいな事をたまに言う。
でも……
その度に私は……
「……オボロの隣に……?!」
影。
────────────?!
「……え……。」
ギギャギャアアア……?
マリンの視界はに影が灯り、体がものすごい力で締め付けられる。 血液が体を回らないほどに、圧迫され意識が朦朧とする。 更に、鋭利なものが肉に食い込み血が滲む。
何……が……?
「ギエエエエエエェェェェェッッッ!!!」
怪奇な声が最後に耳を反響すると、マリンの意識は闇と落ちていった。
────────────────────────────────────────
具合が悪い……




