63話 いつになっても俺は俺だった。
前回の続きです!!! どうぞ!!!
空気の急激な低温化により、身体中にビッシリと氷が張り付く。
吐いた空気が雪に変化し、息を吸うだけで喉の奥が凍る。
「カハッッッ……!!!」
(大丈夫か?! リサード!!!)
喉の奥まで霜がびっしりつく感覚にむせてしまうリサード。
ヒュドラはリサードに呼びかけるが自分もかなりの負荷が来ている。
すると、────────
「ゴオオォォォォォォォォォッッッ!!!」
(む……?)
霜の巨人。 ヨトゥンがうめき声をあげて倒れる。
「……一体何が……」
そして、青い光の粒子となりミラの手中に吸収されていく。
「……ハッハッハッハハハハ!!!」
────────あれは……。
ヒュドラはゾッとする。
ヨトゥンを動かしていた魔力がどんどんとゲイ・ボルグへ吸収されていく。
一体一体と極寒の地に住む魔獣が、寒さに耐えきれず死んでいくのだ。
だが、ヒュドラはゾッとしてしまったのはそこでは無かった。
ミラの手に集まる魔力とその姿。
ミラは狂ったように笑い声をあげ、魔力を溜めている姿。そして、その膨大な力の波動がミラ自身にも大きい負荷をかけていて尚、止まらない姿にだ。
右手はもう完全に氷に飲み込まれ、顔も半分ほど氷に埋め尽くされてしまっている。
基本的に魔法と言うのはとても大きな力だ。
そのため、扱うさいには魔力をコントロールし自分の手や体を保護、若しくは攻撃対象から外す。
もちろん、これは意識的にも出来るが、ほぼほぼ無意識で行われる。
硬いものを殴ろうとすれば、無意識下で拳が壊れないよう力が抜けてしまうように、本能が抑制をかける。
しかし、今の彼女にそんなことはもう関係ない。
はっきりいって魔力のコントロールが出来ていない。
いや、ある意味これは……。
……完璧にコントロールしているから出来る所業なのかもしれない。
ただ全力を放つ、難しさ。
自分の体を巻き込んでの魔力の解放……
あれではミラ自身、ゲイ・ボルグを発射して自分が生きているかも怪しいほどだ。
そんな自殺行為のような攻撃を純真に嬉嬉として放とうとする姿は、ヒュドラを震撼させた。
(……リサード。)
「……うん。」
リサードはその光景をただただ見つめていた。
動くこともなく構えるでもなく、ただ真っ直ぐに……。
ヒュドラが話しかけると、何かを考えていたのだろうという曖昧な返事。
(……わかると思うがあの魔力量は許容範囲を超えてやがる。 あれを避けるなり、逃げ回るなりして自滅させろ。 真正面からじゃ勝てる訳がねぇ。)
リサード、ヒュドラ、アビス。 全ての魔力を集結させてもキツい。
それをしても、勝率は限りなく零。
「……そう……だよな。」
(……ああ、オボロとマリンは途中で地獄門に逃れることができた。 アイツらを気にする必要はねぇしな。 ずらかるぞ……。)
「……ああ。」
リサードは力なくそう答える。
何となく……
何となくだが……
本当にこれでいいのか?
「ハハハハハッッッ!!! ああ、来るぞ……ッッッ!!! 体中が震える……ッッッ!!!」
まだ溜める。 もう身体の負担は限りないものだろう。
果たして、あれをくらって俺は止められるのか……?
くらって……?
リサードは自分に疑問を持つ。 避けると話したばかりだろ。 そもそもくらうのは前提じゃない。
だが、そう易々と避けられる代物でも無い。
いや、でもいいのか? 避けてどうすんだ?
何が何でも勝つ。 けど俺は何のために今戦ってんだ……?
なんで勝ちたいと思ったんだ?
「……ッッッああ!!!」
リサードは思考が纏まらず、壁を殴りつける。
(おい、リサード。 大丈夫か……? )
リサードをのぞき込むヒュドラ。
「……お前のが一番いいんだろうよヒュドラ。 でも、でもよ……」
リサードは大きく深呼吸をして、ミラを見つめる。
「……ここであのゲイ・ボルグを避けるって選択肢、 あれ以外に方法ってねえのかな……。」
(……ッッッ。 馬鹿野郎!!! 正気に戻れ!あれをくらったら死んじまう!!! お前の目的はクロエを助けることだろうが!こんなところで死んでいいのか!)
「ああ……。 そう……だよな……。」
何かが引っかかる。 俺はクロエを助けに行かなくちゃならねぇ。 それは、今も変わらない。
むしろ日に日に強く思っている事だ。
しかし、自分は本当にその気持ちだけでここまで来たのだろうか……?
オボロとマリンの事は考えていなかったのだろうか……?
リサードは思い出す。
オボロの優しさと真っ直ぐさ。
見ず知らずの俺をここまで連れてきてくれた。 時には、自分を危険にまで晒して、俺を優先してくれた……。
アイツの危険は俺の危険だ。 そう思って助けるって決めた。
だから、俺は2度目の喧嘩に立ち上がれた……。
(おい、リサード!)
ヒュドラが慌ててリサードに呼びかける。
何故なら────────
シュウウ……と音を立て、リサードの剣が消えていく。
だが、リサードはヒュドラの声に耳を傾けず、自分の変化にも何も感じていないようだった。
そして、マリン。
彼女がいなかったらあのゲイ・ボルグは防げていなかった。 彼女が居て俺達はこのダンジョンにまで来れた。 時には、俺とオボロを守るため無茶して……。
次は俺の番だって思わされたんだよな。
自分の自慢の姉ちゃんと……
あ……。
リサードは言葉を失う。
(……リサード?! おい、リサード!!!)
「……そうか。」
(……ああ?! どうかしたのか?!)
リサードはなにかに気づいたように手を叩く。
「……もう1つの目的があったじゃねぇか……。」
(……もう1つの……目的?)
ヒュドラはリサードを見つめる。
必死に何かを考えようと、目をつぶろうとした時、あることに気づいた。
────────こいつッッッ目が……赤くない!!!
(何してやがる!! 俺とのリンクが消えかかってるじゃねぇか!!! お前何考え……)
徐々に消えかかっていく、リサードとのリンク。
9つの剣が消えていく。
魔力量が恐ろしい量で減り、最初のリサードへと戻ってしまっている。
(……この馬鹿野…ッッッ!!!)
そう言って、喝を入れようとリサードに攻撃しようとするヒュドラ。
だが、その行動が実行されることは無かった。
────────ゾクゾクッッッ
ああ……ッッッ?!
リサードから放たれる絶大なオーラ。
リサードの目は黒。 俺の力を使って……、いやいやだとしても俺がくらうわけねぇ……。
ヒュドラは手を止める。
これは、オーラというより……
絶大な覚悟……
ヒュドラは冷静に思いとどまる。
(……目的。 俺にも聞かせてみろ……。)
リサードは前を向いたまま答える。
「どんなに関係がこじれたって、強いキズナがあれば何度だって修復できる。 それが、姉妹だったら尚更な……?」
(……ッッッ!!!)
ヒュドラはそれを聞いてびっくりする。
バカ野郎じゃ足りねぇぞコイツ……
ヒュドラは頭を痛める。
(……この大バカ野郎が……。)
しかし、────────
いやなかなかどうして……
答えを聞いてスッと腑に落ちてしまった……。
本当にどこまでいってもお前はお前だ……
思わず笑いがこみ上げてしまう。
(なぁ……リサード。 俺達とのリンクを何で切った?)
「……お前らだけでも……」
そう言いかけた所で頭痛が2回走った。
(……俺とテメェは一心同体だ。最後まで俺にも手伝わせろ。 ……そして、さっさとあの姉妹を仲直りさせんぞ。自慢の姉ちゃん大好きだからなぁ、小娘は…… )
ヒュドラがそう言うと、次は剣がカタカタと動いた。
(……2人で盛り上がって、私を忘れてはおらぬか? あんな切りがいがありそうなものを目の前にして逃げられるものか……。 それに、あの娘。 生きて返してやらねば仲直りどころではなかろう。)
「……お、お前達ッッッ!!!」
リサードは不意に涙を零す。
ああ……やっぱり俺は恵まれてたんだ。
こんな仲間達に出会えて……
沢山の経験を重ねた……
孤児だった俺を拾って、七星剣になるまで期待あげてくれたトルネさん。
今も待ってくれているバーバラさんに、ウォマーさん。
今も尚、失踪している七星剣のシャーベット、アリエッタ、ブラッド。
新しい大陸で出会ったオボロにマリン。
最高のライバル、キラ。 それに、長年の幼なじみシルビア。
そして、………………
クロエ……。
大好きだ。 今までもこれからも。 短い間だったけど、俺は運命だと思ったんだ。
必ず幸せになれ……。
リサードは最後笑みを見せた。
「……俺の人生幸せだったよ。」
────────────。
……は?
何だそれ……。 まるで、今から……。
(あ?!)
(なぬ?!)
「……じゃあな。 」
リサードは歩き出す。 もうリンクは切れ、話しかけることすらできない。
(……な、何が……!)
ヒュドラは慌てて、リサードの体に戻ろうとする。
しかし、────────
アビスとくっつき、アビスが宿主の状態になっていた。
三悪一体か……。
あの技のせいで、アビスの剣に血が流れこんでいた。
そのせいで、比率がアビスの方に偏ったため、リンクを切られてしまった。
嘘……だろ……
ヒュドラとアビスが込められた黒剣。
それに、最高級の回復薬を塗りつけるリサード。
「ミラを無事届けてくれよ……。」
剣を握りそう呟くリサード。
(お前はなにしてんだ?! おい!!! リサード!!! 答えろ!!!)
「……は?」
リサードはおどけて笑った。
ヒュドラとアビスの声は聞こえていないはず。
だが、リサードは笑って答えた。
まるで、そう言ってるんじゃないかと言うような表情で。
「クロエを頼んだ……。」
おい…
おい……
おい!!!
やめろ!!! 行くんじゃねえええええええ!!!
((リサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァドオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!))
ミラが笑う。
「ブツブツとうるさいヤツだ。 」
完全に氷はやみ、静寂が空間を支配する。
そして、────────
「……あれが、100%のゲイ・ボルグ……ッッッ!!!」
貫くためだけに作られた槍。
圧倒感も今までのと比べ物にならない。 投げた時にはもう心臓を貫く。
ゲイ・ボルグは〘投げる〙と〘貫く〙以外の過程が無い。
投げて、飛んでいって貫くのではない。
もう1度言う。
防ぐ術などない。〘投げる〙と〘貫く〙だけ。
飛ぶなんていう過程は無く、まるでワープ。
「……ほれ、貴様も早くしろ。早く全力を出さねばすぐに死ぬぞ……?」
「あ……?」
リサードは剣を構えた。
「……おいおい、どんなスゲェのが出てくるかと思ったらただの槍でよ。 そんなもんに、出す全力なんか無いのさ。 このままでたたっ斬ってやるよ。 ほら、早くしろ。」
「……フハハ。」
────────ギリッッッ!!!
ミラの眉間にシワがよる。
「後悔するなよリサードオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!」
「届けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!」
渾身の力を込めて、アビスを投げる。
────────────────。
爆音。
だが、一瞬。
すぐに決着は着き、静かさが響く。
そして、────────
静寂を最初に切ったのは。
「……グッッッ。」
投げてそのまま気絶するミラ。
そりゃそうだ。 全力全身渾身の一撃を放ったんだ。
魔力も限界だろう……。
「……死ぬぞ。……ったく。」
リサードがそう呟くと、遅れてアビスがミラの足に命中し、突き刺さる。
リサードの目線は地面と同じ。
剣身に塗られた緑の液体が流れ込むのを見届ける。
本当……
「世話がかかる姉妹……だ……ぜ……。」
リサードのその声を最後にただただ静寂が残った。
全て終わった。
またあの日常へ……
そして、────────
カタカタ……
アビスの振動する音が静寂の中、微弱に震わせる。
その音はまるで、1匹と1本の泣き声のようにも聞こえた。
そして……
……
…………
………………
………………………
………………………………………………………………
それに気づいたかのように笑う。
それを最後に、リサードの頭部だったモノは……安らかな顔で……静かに目を閉じたのだった。
────────────────────────────────────────Next➥
……………………(;´・ω・)
続くよ?!(; ・`д・´)




