62話 応えろ、氷槍オースティン。
前回の続きです! どうぞ!
「……貴様は……。」
ミラの頭にはある光景が浮かんでいた。
幼き頃からの自分の姿。
彼女は決して裕福な家庭に生まれたわけではなかった。 しかし、
そんなことはどうでもよかった。
天賦の才能。
彼女は負けたことがない。 幼き頃から今の今まで。 たった1度もだ。
氷の女王はもう生まれた時から女王だったのだ。
それが世間に知られたのは齢10歳という若さ。
街を襲った魔獣の群れをたった1人の少女が倒して見せた。 いや、倒すという生易しいものじゃない。 殲滅。 彼女にしてみれば街を守ろうとしたわけでもなく、恨みがあったわけでもない。
ただ、目の前に的があった。
ただただ、それだけのこと。
そんな彼女の名は瞬く間に広がり、英雄天才全ての賞賛を欲しいままにした。
彼女をよく思わない上の者達の為に、国はギルドを用意しその力を利用した。 彼女もただただ欲求のままに暴れた。
そして、現在。
彼女は強くなりすぎた。
彼女を楽しませる魔獣もおらず、また人間も彼女に喧嘩を売るものなどいない。
だが、
それがどれだけ退屈な事か……?
彼女はリサードを見つめる。
冷や汗が一滴流れる。
別に、初めてではない。 ただ……
「足が動かぬ……。」
足が震えて動かない。
なんだこれは……?!
ミラにとって生まれて初めての経験だった。 強敵と相見えることの喜びから震えることとは別の感覚。
「……怯えているのか? この私が?」
今までこんなことは無かった。
それほどまでに奴は……
そして、────────
「……そうか。 」
「…………?」
それと同時にミラは確信する。
ミラが本当に恐れていたこと。
自分の生命の安否だけでなく────
自分の本気を出せてしまうということにも……
「……私の本気。」
「……フッッ。」
ある時感じた底なしの力。 自分の限界を知らない彼女には恐怖に映り、そしてチャンスにも見えた。
「感謝するぞ……。リサード・ブルオスト。」
ミラは一気に魔力を練り込む!
「ハァァァァァッッッ!!!」
ミラの手に絶大な魔力が収縮されていく。 その魔力は空間を凍てつかせ、まるでそこにあるだけで氷河期を到来させるかのような冷気を彷彿させる。
かつて無いほどの力を集めようとしている為か、手に振動が伝わる。
だが、それ以上に魔力を制御せずそのまま送り出せる気持ちよさが彼女の中を充満する。
「……ハハハハハッッッ!!!」
リサードはその冷気を感じて瞬時に察した。
この冷気。 そして、魔力。
間違いない!
「……ゲイ・ボルグ……」
本能的に危険だと判断する。
ゲイ・ボルグを収縮させるミラに接近する。
────────呪系繰唱
9つの刃がカチカチと音を鳴らす。 今までにない魔力の量。
これで放つ。
「……ッッックロス・スペクトル!!!」
十字の光の線が空間を刻む。
すかさず、ミラは地面を蹴りあげ空中に避ける。
しかし、────────
「……クロス・スペクトルは一撃じゃ終わらねぇ!!!」
リサードの背面から現れる9つの刃。
あと、9回分だ!
「クロス・スペクトル!!!」
「……ググッッッ!!!」
上体を反らすも肩をかすめる。
「小癪なぁ!!! 私の邪魔をするなぁァァーーー!!!」
────────氷系絶唱
「……ダイヤモンド・メモリー!!!」
「……ッッ。ウオォォッッッ!!!」
ミラは足でリサードの体を蹴りあげる。
リサードのクロススペクトルが不発に終わってしまうが、すぐさま体制を立て直す。
そして、間髪入れずミラの小さな氷の玉がリサードの近くに放たれた。
「行け!!! ヨトゥン!!!」
「……っなに?!」
その小さな玉はどんどん膨らみ、リサードの10倍以上はあろう大きな巨人を作り出した。
ヨトゥン。 通称霜の巨人。 マリン達の話しで大陸が沢山あると聞いた時、リサードは文献を漁りこの話を目にしていた。
大陸のずっと向こう、草木1本も生えず全ての生物を拒む氷雪の地。
その大陸は気候なども危険だが、何よりそこに生活地盤を持つ魔獣が危険なのだという。 生物を拒絶するその地に生活するという時点で、相当な力を持っていなければ出来ない芸当だ。
そこにある氷山を根城にする極悪な巨人。 群れで生活し白い体毛と10mを超える巨体は風格を醸し出し、姿を見たものは生きて帰れないなどの言い伝えもあるほどだ。
リサードはヨトゥンを見上げる。
白い体毛の1本1本が綱引きの縄を編み込んだかのような太さと強度を見せる。
そして、極寒の中でも体温を下げず、獲物を捉える為の凶悪な筋肉。
リサードはつばを飲む。
俺はコイツとも戦えるのか……!!!
「……まだまだこれからというものよ。」
気持ちいいぞ……!!!
ミラは泉のように溢れる魔力を湯水のように垂れ流す。
そして、さらに追い打ちをかける。
────────氷系絶''繰''唱
絶繰唱だと……ッッッ!!!
「ダイヤモンドダスト・メモリー!!!」
氷の玉を更に雪のように降らす。
そして、そのどれもが……
「グボォォォォォォォッッッ!!!」
「……ハハ。」
マジかよ。。
霜の巨人およそ100体。
リサードが着地した頃には、全ての巨人がリサードを視界に捉える。
「……この技は私が倒した魔獣を氷で蘇らせる技。
霜の巨人は単体でAランクを誇る氷地の魔獣。 一気に相手するのは骨が折れるだろう?」
「……化け物だぜアンタ。」
このリサードがバケモノと言うのは、霜の巨人ではない。
この状況を颯爽と作り出したミラの魔力量だ。
このクラスの魔獣を100体以上作り出して尚、飄々(ひょうひょう)とゲイ・ボルグに魔力を注いでいる。
だけど、────────
リサードもまた応戦してみせる。
今の俺もお前に負けてない!
────────呪系''絶''唱
言ったはずだッッッ!!!
「サモンズ・ゲート!!! 」
俺は1人じゃねぇってなぁ!!!
巨人の更に2倍はありそうな大きな扉。
扉には蛇の紋章。
大魔獣召喚────────
「……大魔獣ヒュドラアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!」
ギィィと鈍い音を立て、扉が開く。
「グボオォォォォォォォッッッ!!!」
それに構わず突進してくる勇敢な巨人たち。
しかし、────────
(リサード。)
「……おう。」
頭の中に語りかけてくるもう1人の自分。
いつも俺を助けてくれ、今は罪を背負い一心同体となった相棒の声。
(……あの女はお前に任せたぜ。)
「……ったりめーだ!!!」
それを最後に扉が完全に開く。
────────ウゴォォォォォォォォォッッッ!!!
体の芯から震え上がらせるような咆哮。
扉から出てきた蛇龍の頭に、近くに来ていた霜の巨人の一体が目にも留まらぬ速さで餌食となる。
紫色の巨体。 9つの頭を持つその全貌が扉から現れる。
「……貴様は一体。」
ミラも思わず、目を奪われる。
誰もが1度は聞いたことのある伝記。 7人の賢者。
その伝記の中でしか見たことのない魔獣が目の前に現れたのだ。
唖然とする巨人たち。 それもそのはず。
「……お前らが相手するのは伝説の魔獣だぜ? 100体で足りるかよ。」
────────ウゴオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
「……何者だァァァ!!!」
────────氷系絶唱
「……ダイヤモンドダスト・メモリー!!!」
小さな氷の球を降らせて、霜の巨人を追加する。
しかし、ヒュドラの猛攻は止められない。 吐く息は猛毒を持ち、全てを腐食させる。 牙は全てを貫き、胃袋は無限の許容量を誇る。
まるで、餌を与えられた猛獣がウサギを食うかのような光景。
「……ッッどいつもこいつも……。」
ミラがこれまでに無い程の怒りを顕にする。
「……そんなに死にたければ見せてやる……。」
ミラに屈辱の表情が映る。
かつて無い、氷の女王の顔への泥。
それをしたのが名も無き青年。
「……これは誰も防げない。 誰も生き残れない。 誰も勝てない。 誰も破れない。 誰も真似出来ない。 私だけの技、私だけに許されし特権。 」
ゲイ・ボルグが唸りをあげるようカナキリ音が響き渡る。
〘固有魔法〙
「応えろ、オースティン。 そなたの野望は空を越え、海を越え、そなたの前では全ては無へと帰すだろう。」
空気に亀裂が入る。
空気は氷のように冷たく重く行き渡り、ビシビシと悲鳴をあげる。
その音は空気を伝い、全てを越える。 壁を越え、どこまで反響しそうな悲鳴は貫くように勇ましく、どこか悲しみを帯びていた。
オボロと同じ固有魔法。
それを操る者はある異名で呼ばれている。 神に嫌われし者。
そして、────────
「……伝説保持者……。」
あのゲイ・ボルグを今までと同じだと思ってはいけない。
それはまるで別物。 固有魔法へと進化したゲイ・ボルグは、今までほど生易しいものでは無い!
固有魔法の中でもすば抜けた攻撃性を持つ、その圧倒感。 鋭く敵を穿つことだけを考え抜かれたフォルムに変化していく。
その光景には釘付けにならざるを得ない。
「……守って見せろ。 お前の仲間、誇り、そして約束を!!! この私からなァ!!!」
9つの首を持つ蛇龍と巨人の群れから見れば小さな光景。
しかし、この一撃がこの小さくとてつもなく大きな一撃が、この戦いの運命を決めるとその場の誰もが確信をせざるを得なかった。
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次回で戦いは終わると思われます!




