61話 全力
前回の続きです! どうぞ!
「ほう……」
ミラはその青年を睨みつけ、意味深に体を見渡す。
先程まであった傷がない……
瀕死まで追いやった……
「……おっと。」
ミラは頭を抑え、そしてすぐさま切り替える。
柄にもなくネガティブなことを考えてしまったな……
私は強い
立ち塞がる全てを壊す。
ミラの目はいつものように冷たさが宿った。
もう1度黙らせるまでだ……
重たく、そして冷たい鈍重な空気が空間を纏い始める。
「……まだ私を楽しませろ。」
ミラの顔に狂気が走る。
白髪の青年にミラは静かに答えて見せた。
リサードは答えない。
「…………………………………。」
リサードには、もはや彼女の言葉など届いていなかった。
目をつぶり体に巡る力を直で感じる。
それと同時にふつふつと沸き起こる感情。
冷たい、痛い、寂しい、悲しい、苦しい……
怖い……
本当はもう戦いたくない……
そんな〝恐怖〟
この感情がリサードの中を染み渡る。
ミラは恐ろしく強い。
リサードは1度対峙し、その力の差を思い知らされた。
ある程度の力の差なら、戦い方、センスなどで覆すことも出来る。 また、状態状況などその場を駆使し戦うことでその可能性を見出すことも出来る。 リサードはその戦い方を重んじて、様々な場所での立ち回り方、そして自分のセンスでこれまで乗り切れていた部分がある。
しかし、────────
この戦いにおいては、前提として
"ある程度"の力の差という不確定要素がある。
このある程度の力の差。
リサードは対峙して、もう思い知らされていたのだ。
どんなに抗っても覆すことの出来ない力の差、例え世界がひっくり返ろうと到達できない領域。
自分の本気がその''ある程度''に触れてることすらいないという事実。
今の自分では絶対に、
勝てない……。
「…………………フゥ。」
リサードは呼吸を整える。
だが、訂正しよう。
確かに自分''だけ''では勝てない!!!
俺は……1人じゃない。
リサードの体をもう1つ駆け巡る感情。
恐怖とは相対して、体を動かそうとする感情。
〝怒り〟
ゲイ・ボルグの際、街の市民にも無関係に攻撃行為を行ったこと。 自分を監禁したこと。
オボロとマリンが殺されかけたこと。
あんな別れ方をしておいて、それでも俺を助けようとしてくれていた仲間を傷つけられたこと!
リサードの拳に力が入る。
握っていた黒剣アビスがカタカタと音を鳴らす。
そして、クロエを助けに行かなくちゃ行けない。 その大切な時間を奪われている自分の弱さ……
リサードは覚悟を決める。
俺に力を貸してくれているアビス。
そして、────────
────────ゾクゾクッ
ヒュドラ────────
俺だけじゃねぇ……
確かに1人じゃ到底勝てないだろう。
けど、
「……俺は1人じゃねぇんだ。」
トロっと頭の中に何かが染み渡る。
ああ……。
「ごめん、みんな。」
「……?」
リサードは突然そう呟く。
「……なんだ? もう命乞いか?」
「……ハハッ。」
ミラのその啖呵に笑ってしまう。
だめだ。 やっぱり俺はおかしい。
こんなに怖くて、こんなにムカツくのに……
こんなに''楽しい''!!!
リサードにまとわりついていた冷たく鈍重な空気が中和される。
戦いが楽しいなんて馬鹿げてる。
けど────────
「俺は……1人と1本と1匹。 それが、リサード・ブルオストだ!!!」
全力を受け止めてくれる敵はそういない、これが楽しくなくて何が楽しいんだよ?!
「……訳の分からぬことを。」
「すぐにわかるぜ?」
リサードはミラに向け走り出す。
「では、避けてみろ?」
リサードの直線上に位置するマリンとオボロに向け、手を構えるミラ。
────────氷系魔法
「アイス・ボム。」
岩石のような氷の塊が出現し、走るリサードの視界を覆う。
避け無ければくらう。 避ければ2人が危ない。
普通はな?
「避ける必要何かねぇよ。」
────────呪系六式
紫色を思わせるオーラがアビスに宿る。
「……〈黒蒼穹〉!」
────────────。
地面を蹴りあげ、更に距離を縮めての激しい乱舞。 だが、その太刀筋どれもが一撃必殺を誇るほどの威力。
岩石のように大きな氷塊を粉々に刻み、マリンとオボロには霜が着いたような感覚が残るまでだ。
「甘い。」
ミラの追撃。
乱舞を終え、空中に残るリサードに待っていたのは氷槍の雨。
何百もの氷の槍がリサードを取り囲む。
「……ハハッ!」
リサードは笑った。
もう怖さも無い。
「……行け!!!」
氷の槍が全てリサードに向け、発射される。
空中で交わし、壊し、受け流す。
足りない……。
「……もっとだよ。」
「…………………………?」
攻撃をくらいながらもリサードの笑みは消えない。
それどころか、さらに楽しんでいるようだ。
「……こんな甘々(あまあま)な攻撃で、本当に殺す気あんのかァァァ?!」
避けずとも氷槍が消えていく。
リサードの目は赤く、生きているかのように輝きを増す。
あれは……?
「……王蛇形成ァ。」
奴の体から、
蛇?!
「……なんだそれは?」
ゾクゾクッとミラの背中に悪寒が走る。
いや、悪寒と言うには余りにも、
楽しい……。
それの正体は、期待。
私が本気を出しても楽しめるという期待だった。
リサードだけでなく、ミラもまた狂っている。
「ハハハハハッッッ!!!」
「……楽しいだろ?! 」
「生意気なァ!!!」
「おうよ!!!」
まるで、無邪気な子供のような会話。
しかし、それにしては余りにも大規模。
2人にはもう関係がなかった。
何もかも無い。 立場も、持論も、恐怖も、柵も。
楽しい……
どちらが強いかだけだ。
────────氷系絶唱
「フリーズ・ゼロォォォォ!!!」
大気を全て凍らせるほどの莫大な冷気。 使った後には、全てを凍らせ時間までをも凍らせたのではないかと言うほどの静寂をもたらす。
リサードを瀕死に追い込んだ魔法。
だが、そんなもの。 もう関係など無い。
ただ、突破する。
「……いいぜ。熱冷ましには丁度いい冷気だ。」
────────呪系絶唱
「フル・イーター……」
地面が隆起し、筋を刻んでいく。
「Ver.ヒュドラ!!!」
リサードの肩、腰から計4体の蛇。
それに、加え地面から5体の体から出た蛇とは比べ物にならないほど大きな蛇。
大気が一瞬にして氷漬けになる。
しかし、────────
パキパキ。
空間1つを凍らせてできた大きな氷塊にヒビ。
「……喰らい尽くせ。」
────────────。
「……ハハハハハッッッ!」
ミラの氷がまるで豆腐のように、破壊されていく。
いつの間にかマリンとオボロの姿はない。
「……貴様は大当たりだ! 」
私の氷が……いともたやすく……
「いつまで余裕ぶってんだ?」
グルッと蛇が回り、ミラを捉えた。
「グッッッ……!!!」
その薙ぎ倒すような一撃をくらい、蛇諸共、壁にくい込む。
だが、────────
ミラを押し込んだ蛇の頭を氷の塔が貫く。
「……うつけがァァ!!!」
────────氷系魔唱
ミラの周りに先程と同様、氷の槍が現れる。
しかし、────────
先程とは比にならない程の量と質。
その槍の群れはまるで花が咲いたかのように美しく残酷な光景を見せた。
「……インスティクション・レイン。」
雨のように降り注ぐ絶望の槍。
蛇の体を貫き、次々と死んでいく。
そのどれもがゲイ・ボルグと言われても、おかしくないほどの威力。
リサードは魔力を込める。
まだまだ……
リサードを守るように蛇が覆うがそれも時間の問題だ。
まだ、全力じゃない……
リサードの体にオーラが宿る。
もっと全力で、全身で、全開で!!!
────────トロトロっ
リサードの脳内にアドレナリンが流れ出す。
全ての五感を満たし尽くす!
────────呪系''奥''技
「……三悪一体」
蛇の壁が崩される。
「……Ver.リサード。」
槍がリサードを飲み込む。
────────────。
今、確信した。
この身をもって痛感した。
俺は1人で動いていない。
アビスがいて、ヒュドラが流れて、リサードを作っていたんだ。
魔法や術式なんかじゃない。
もっと深い繋がり。
絆に似て非なるもの。
因果。
リサードは構える。
漆黒の剣に血が流れる。
目は漆黒に包まれ、瞳孔が真紅に染まる。
周りには8つの剣。 柄にはヒュドラの紋章が付いており、リサードの周りを浮遊し、槍を迎撃していく。
アビスを入れて9つ。
アビスの黒剣。 そして、ヒュドラの9つの首。
アビスを振り下ろすと、それに連動するよう8つの黒剣も槍を切り刻む。
────────────。
全弾の撃破。
ミラは攻撃をやめ、その姿を見つめる。
おぞましい……。
しかし、それでいて高貴。
「……遅れてすまない。」
「……………………………。」
ミラは返事をしない。 いや、出来なかったのかもしれない。
冷たく思い空気はもはや残っておらず、完全にリサードに支配されていた。
「……これが正真正銘。 俺達の全力だ。 」
リサードは敬意を表す。
「小細工無しで行こうぜ、氷の女王。」
────────────────────────────────────
まだセーフ!




