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20話 本当の名前

土曜日更新。20話目です。どうぞ。



とてつもなく大きな部屋の中、2人の話し声がゆっくりと木霊こだまする。


「黒剣……アビス……。」


少し長めの白髪に、民族感があるボロボロの装備を着ている青年はそう口にしていた。


「…………………。」


泣いていた女性は少し落ち着くと後ろを向いて歩き出した。


「……もうここに用はありませんね……。帰りま……」


その時だった、


「クロッッ!!!」


グラッとよろけるクロをすぐさま支える。


「大丈夫か!!」


「………………。」


ただ気を失ってしまっただけようだ。


「そっか……そうだよな……」


「……クロも疲れたよな……。」


ずっと気を張っていたのだろうか……。心配事を沢山かけたしな……。少し休ませておこうと背中にクロを背負うリサード。

目指していた宝庫はすぐそこだが改めて見るとよくわかる。宝庫のドアが切断され、中から宝石やら何やらが見えていた。

自我を持った〈黒剣アビス〉によるものだろうと容易に想像がつく。

元々コイツを目当てにここにきたんだし、これ以上進む必要も無いか……。と考えるとクロを抱き抱える。

ズキッと切られたところが痛むが、血が止まり傷口も塞がっている。さっき、肩を貸してくれた時に治癒してくれたのだろう。


「ありがとう……。」


リサードはそう言うと、グッとクロを背負い直し、来た道を戻っていった。



✕ ✕ ✕



外は天気が良かった。ゴトゴトと馬車が揺れ慣れると心地よい。

まだ森を抜けきってはいないが、馬車のうえで休めるのは大きいことだった。

クロを背負って、城を抜けた後テイラーに貰った狼煙を付けて馬車を呼び現在に至る。シロと途中で別れた話、クロとの出会い、クイーンエイプとの死闘。だが、武者の話はまた今度にと話してはいない。

怒涛だったなぁと感慨深く思うが、リサードは少し不機嫌だった。


「それにしても、テイラー。お前がくれた魔力を使った狼煙。あれの使い方きちんと教えといてくれよ……。」


白髪の青年が馬車の荷台からそう声をかけると、手綱を引き、ものすごいスピードの馬車を操る緑のハットをかぶる青年が答えた。


「普通は少し離れて、その狼煙に魔法を打ち込むんですよ!普通は!。なのに、手に持って直接注ぎ込むのは……」


「バカって言いたいのかよ?」


少し口ごもるテイラー。


「まあ、そういう事ですかね。」


「そこは否定するところだぞ?!」


一応立場うえだからね?ハースハイトの国民さんは七星剣の方達を敬うのが義務にあってだなぁ……。

なんて思いながら空を見上げる。やっぱりそんな堅苦しいのは好きじゃないし、これはこれで俺らしくていいのかな…と思う。


「でも、ちょうど良かったですね。防具もボロボロでしたし、狼煙の破片が飛びついたら余計にきついでしょう。」


「ああ、それは本当に助かった。あのままだったらずっと臭い服着てることになったよ。」


狼煙を手の上で魔力を入れた結果。すごい異臭と、破片がまあまあ飛び散ってリサードは固める前のチョコレートのようになってしまった。

七星剣の制服を着るにも臭いが着くといやというのもあり、テイラーの予備の服をもらってかなり助かった。

クロは少し離れたところに寝かせていたので問題はなかった。

一応川で体は洗ったが、まだ臭いが残ってる気がする。早く大きな風呂に入りたい。

でもまあ、クロに被害はなかったしそれは良かったと心から思う。


「クロ……。」


「アツいですねぇ。リサードさんが森の中から美少女捕まえてくるなんて誰も想像出来ないですよ。」


「別にアツいとかそういうんじゃないよ

……。」


でも、多分俺は……


(クロが好き……なんだろうな。)


「片思い……頑張ってください。」


「は?なんでそうなっ……」


心の声出てたか俺?!マジ?恥ずかし過ぎるだろ!


「いや、わかり易すぎます。」


「……………………はい。」


そんなに俺態度出てたのか……。気をつけよう。。


「ハースハイトまでもう少しかかると思うんで、リサードさんも寝てて大丈夫ですよ。」


前を見ながらグッドサインを出すテイラー。

確かにかなり疲れたしなぁ……。


「じゃあ、また着いたら起こしてくれ。」


そう言って、クロの隣に寝転がる。ハースハイトに行ってもクロと居られるのか……と考えただけで少しワクワクする。


「おやすみ。クロ…。」


〈黒剣アビス〉は柄に収まっていたが、一応インベントリにしまっておいてある。小難しいことは分からないが今はただ休みたい。そう思い目をつぶると疲れも相まってか、馬車の荷台でも一瞬で眠りにつくのだった。



✕ ✕ ✕



あれ……ここはどこ……


目を覚ますと見慣れた部屋の中……。小さな頃の記憶が蘇ってくる。

私が昔住んでいた小さな屋敷の部屋だ。ピンク色が好きだった私はピンクのものをお父様にねだって買ってもらっていた……。


だけどここは……。


「これは、夢……?」


そう呟く。

すると、不意に声をかけられる。



「サイテーだね。」


「え……?」


そう言って振り返るクロ。

この声、そして見た目……。幼い頃の私……。

夢……ですよね。それにしては嫌にはっきりと現実のように伝わってくる。リサード君と武者を倒したあと、私は……


「なっっ……どういうこと?ここはどこですか?」


そう言うと、クスッと笑う少女。


「アナタってサイテーって言ったんだよ……?」


私が最低……。いきなりなんのこと?


「……何がですか……。」


「……わからないんだー。じゃあ、教えてあげる。」


そう言って一歩だけ前に出る少女。クロは座ったまま後ろにジリっと一歩分下がる。


「リサード君が黒剣アビスに選ばれたこと……」


そう言って、クロをじっと見つめる。急にリサードの名前が出てきてドキッとするが少しムッとなるクロ。


「確かに、リサード君を付き合わせた私に責任があります。最低だと言われても仕方ないです……。だから……、せめてもの罪滅ぼしに私がこれからも……」


そういった所で少女に口を開かれる。


「嘘つき……。」


「え……?」


「だって、本当は安心してる。」


「……?一体なんの……」


心臓がドクンッと跳ねる。

クロの背筋に汗が流れる。

ニヤッと笑う少女が口を開く。


「だからね。リサード君が黒剣アビスの持ち主になってくれて安心してるんだって言ったの。」


「待ってください。何のことですか。そんな訳ない。根も葉もないこと言わないでください。」


黒剣アビス。敵を斬れば斬るほどその切れ味と威力は増していく恐ろしい魔剣。だが、使いこなすには相当の精神力と魔力、肉体が求められる。過去で使い手となった者達は戦闘に囚われ、死ぬまで戦い続けたという。

こんな、危ない魔剣に出会わせてしまったのは私のせいだ……。なのに、安心?何で、安心できるなんて結論が出来る。好きな人が危険な目に……。


「嘘つき……。安心してるよ。リサード君の心配よりも、もっと心の奥では安心してるんだ。」


クロの目に怒りが浮かぶ。


「いい加減に……。」


そう言おうとしたところで少女が口を開く。


「まだ一緒にいれて安心してるくせに……?」


「────?!」


少女は語り続ける。


「この旅が終わったらリサード君との接点は無くなって他人に戻る。……けど、〈黒剣アビス〉っていう危険な宝具がある。

だから宝具に詳しいあなたがついていってもおかしくないもんね。」


クロの顔からスーッと血の気が引いていく。

汗が止まらない。何で?!そんなこと思ってない!!私は……私は……。


「そ、そんなこと……。」


「あるよ。」


キッパリと言いきる少女。


「リサード君……。戦いすぎで死んじゃうかもね。」


「そんな事は絶対させません!!何としても宝具から解放させてみせる!!」


思いっきり少女を睨みつけるが、少女はピクリとも表情を崩さない。

そして、おもむろに部屋に置いてあったクマの人形を抱き上げる。

あれは……私のお気に入りの……。


「宝具を解放させていいの……?」


「当たり前です!!リサード君には何の罪も……」


「解放したらもう会わないね。」


そう言って悲しそうな表情を見せる少女。それを見て、クロも悲しそうな表情になる。


「……それでいいんです……。私は1人でやらなくちゃいけないんです……。」


「やっぱり嘘つき。ホントのこと私が教えてあげる。」


「ホントのこと……?」


「うん……。」


「あなたはね。解放しなきゃ、もっと居られるのに。リサード君がもし、黒剣アビスの呪いを耐えきって死ななければそれから先も一緒にいれるって可能性もあるって思ってる。だから、危険でも構わないって思ってる。」


やめて、私はそんなこと思ってない!

だけど、心が揺れ動くのはなぜ。聞きたくない。やめて!!


「やめ……」


「リサード君が戦って戦って。苦しめば苦しむほどもっとあなたが必要になる。そうして、あなたは心配した振りをして彼の隣でいい女を演じるの。日に日に魔剣に蝕まれていく彼をあなたは必死に介抱するわ。」


「や……あ……。」


声が出ない。涙が止まらない。声にならない掠れた音だけが漏れる。


「〈黒剣アビス〉を持ってる人なんて、国にいたら危ないわ。だから、逃げてるあなたと彼で愛の逃避行。あなたは一生自分の使命と罪から逃げ続けて、彼の愛を貪り尽くすわ。」


「あ……あ……あぁ……。」


聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない。


「そして、彼が死んだら後を追ってあなたも死ぬの……。そうやってすべてうまくいく。本当はわかってるんでしょ?」


クロの目から色が抜けていく。涙だけが止まることなく流れる。少女はクロに近づいて頬に手を置く。


「だって、私はあなた自身。この考えを思いつけるのは、この世でただ1人だけ……。」


「……………………………あ…………。」


グッタリと体の力が抜けていく。腰に力も入らなくなり前のめりになる。


私は……本当は……


「安心して?私はあなただから。私が言ったことはあなたの本心。」


「………あぁ……あああ……。」


心配した振りして……どこかで安心……


少女がクロを抱きしめる。


そして、クスッと笑いこう呟いた。


「サイテーだね……。だけど、私は認めてあげる……」


やめて、もうやめて……。


「いつまでも名前を偽って、彼と幸せに暮せばいいと思うよ?」


やめて言わないで、聞きたくない。私の本当の名前……。私の宿命、全てを思い出してしまう。せっかく逃げて逃げて逃げてここまで来た。好きな人、離れたくない人ができた。この幸せを壊さないで……。

いつかはその日が来るってわかってる。それでもまだ聞きたくない。どうせリサード君とは結ばれないことくらい痛いほどわかってる。でも……でも……。

クロ……と言う仮りの自分なら……。


「私はクロ……なんて呼んであげない。」


少女は力ないクロを抱きしめてハッキリとこういった。






【「頑張ってね?クロエ王女様♡」】





「ああぁぁ………………。」


ガクガクと震え始める。もはや言葉など話せる状態ではない。


「ああ、裏ではこう呼ばれてたっけ?」


少女がクロの耳をぺろっと舐め、いやらしい目つきでこう言った。










【「生贄姫ってさ?」】












────────────────────────────────






クロエ王女…どこかで聞いたことあるような、という人はぜひ探してみて下さい。

エドワードの話の中で出てきて……おおっとヒントはここまでです。


短い?感じがしたら申し訳ございません。

では、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。また、次の土曜日に会いましょう!


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