07 冒険者登録
ここキャンベル公爵領の都市の周辺は街道も整備されてり、定期的に兵士の巡回があるので、モンスターや盗賊には滅多に遭遇しない。
では何故この都市に冒険者ギルドがあるのか、それは東門を抜けしばらくいくと、森が見えてくる。そして更に奥に進むと山脈があり、そこには様々モンスターが生息している、手前の森にも少数ではあるがモンスターや野生動物がいるらしい。なので冒険者ギルドが東門近くに存在しているらしい。
ちなみにミューと魔法の訓練を行ったのはこの森になる。モンスターが出るなんて聞いてなかったので、今さらながらに怖くなる。
「だんだん景色も変わってきたな」
「はい、西エリアが貴族や富裕層が住まう地区で、先ほどの中央エリアが商業地区、そして今向かっている東エリアが平民が住む地区で、東門の近くに冒険者ギルドがあります。」
しばらく進むと東門が見えてくる。そして徐々に周囲の景色が普通の家から怪しげな店や、淫猥な店などが目立つようになってきた。
剣を背中に背負った屈強そうな見るからに冒険者であろう者や亜人の姿もチラホラ見かけるようになってきた。残念ながらオッサンにケモミミが生えていてもちっとも嬉しくないのだが。
「なんか急に雰囲気が変わったような」
「そうですね、ここはがらの悪い冒険者や日陰者が多く、あまり治安のいい場所とは言えません」
そんな話をしていると馬車が止まる。どうやら冒険者ギルドに到着したようだ。料金は前払いしているので、このまま降りて問題ない。
「ここが冒険者ギルド……」
そこには三階建てで、大きく四角い形のシンプルな建物だ。隣には訓練場のような場所があり、何人か訓練している様子がうかがえる。
「では、参りましょうかお嬢様」
リーニャの案内でギルド内に入っていく、すると中は以外にも綺麗になっていて、受付カウンターが五つほど並んでおり、依頼書が貼り出された掲示板なんかも張り出されていいるようだ。
そして人間や亜人が入り乱れて、たくさんの冒険者で賑わっていた。
「ふむ、なかなか賑やかなところじゃの」
「隠れてなくていいのか?」
「ここではお主の使い魔として登録しようと思っての、そうすれば堂々と外を出歩けるというもんじゃ」
一応魔獣であるミューは登録されてないと、街中では、危険と見なされてしまうようだ。まあ見た目は普通の猫なので、そんな心配は必要にない気がするのだが。冒険者ギルドではこういう手続きも行っているらしい。
「リーニャまずは……」
まずは何からすべきか聞こうと、声をかけようとすると。リーニャは俺を庇うように、前に進み出る。
「おいおい姉ちゃん達!ここはあんたらみたいなお嬢様が来るような場所じゃないぜ?」
自分で言うのもなんだが俺たちは、この容姿からかギルド内に入ってから目立っていたようだ。
それよりも、これってやっぱりお約束ってやつなんだろうか。がらの悪そうな大柄な男が俺たちに近づきながら絡んでくる。なんか下卑た目でじろじろと俺たちを見てくるし、ハッキリ言って気持ち悪い。
(ここは身体強化を使って、この男を実力で黙らせ力を証明するのがテンプレってやつだよな)
「邪魔です、そこをどきなさい」
「ぐはっ!?」
そんな事を俺が脳内で妄想しているうちに、リーニャが男の鳩尾へ正確に拳を打ち込み、男が一瞬崩れたすきに床に組伏せてしまった。
「まじかよ……マックスが一撃だぜ」
「たしかアイツってCランクだったよな?」
周囲から驚きの声があがる。リーニャに一蹴されてしまったが、そこそこ有名な冒険者だったようだ。さすがはリーニャ、容赦ない。お約束を持っていかれてしまったので、少し悲しくなったのは秘密だ。
「アイリそれでは、参りましょうか」
「あっああ……分かった」
そんな周りの声も完全に無視をして、リーニャはマックスという哀れな冒険者を跨いで、受付に向かうので俺も後を着いていく。
「ようこそ、冒険者ギルドサンマルクス支部へ」
先ほどの騒動で唖然としていた受付嬢であるが、すぐに表情を引き締める。
こうゆう場所なので慣れているのかもしれない。
「お騒がせしました。それで彼女の冒険者登録とその使い魔の登録をお願いします」
「わかりました、それではこちらにお名前と年齢それと使い魔の名前もお願いします」
受付嬢に渡された紙に俺は、先ほどの記入事項を書いていく、実はこちらの世界の言葉や文字の読み書き、ある程度の一般常識の記憶は残っていたのだ。
「それでは、簡単に説明をさせていただきます。まず冒険者にはランクというものがありまして、F~Sランクがあり初めはFランクスタートになります。そして功績を上げればランクも上がるというシステムになります」
ふむふむ、と俺は頷く。
「そして、モンスターの魔石が討伐証明になりますので、必ず回収してください。もちろんギルドで買い取らせていただきます。その他にはモンスターの素材なども買いとりをしておりますので、是非お持ちください」
魔石に関しては魔道具などの様々な動力源になるので強制的に買取りらしい、でもモンスターか、まだこの世界に来てから見たことないので一度見てみたいな。
「以上が基本的なことになります。何かご質問はありますか?」
「いえありません、リーニャは登録しないのか?」
「ええ、私はすでに冒険者ギルドに登録してありますから」
(キャンベル家専属になる前は、冒険者として活動してたのか?)
「そうなのか……ちなみにランクは?」
「はい、Bランクです」
そう言ってリーニャは、ギルドカードを見せてくれる。通りでCランク冒険者を軽く倒してしまうはずだ。
「さすがだな、やはりただの変態メイドじゃなかったか」
「そうじゃの、人は見掛けによらんという事じゃ」
「あの、何故私は今お二人に貶されているのでしょう?」
「日頃の行いのせいだな」
いつもリーニャにいいように弄ばれているので、たまにはいいだろう。
「そうだったのですか……」
だが予想以上に効いているのか、リーニャがしょぼんとしてしまう。
少し意地悪しすぎただろうか? そんな事を考えていると、リーニャが俺にだけ聞こえる声でボソッと呟く。
「私がお嬢様に抱きついて密着したとき、それにお風呂にご一緒したとき、嬉しそうな顔をなされていたのは、気のせいだったのですね。」
(ばっばかな、バレていたのか!?)
「まっまあスキンシップは大事だよな!」
「そうですよね!」
そう言ってリーニャが、抱きついてくる。だって仕方ないじゃないか、リーニャみたいな美人に密着されて、嬉しくない男がこの世にいようか! 否、断じて否だ!
「何をやっておるんじゃお主ら……」
ミューからあきれた目で見ながら言う。まあ人生諦めが肝心って言うしな、
きっと色んな意味で俺は一生リーニャには敵わないだろう。
だがあくまでも嫌々という姿勢は崩さない。じゃないと越えてはならない一線を越えてしまいそうだからだ。
「お待たせしました、こちらがギルドカードになります。間違いないか確認をお願いします」
そんなやり取りを俺たちがしている間に、ギルドカードができたようだ。
そこには、俺の名前に年齢、Fの文字、それに使い魔のミューの名前が記してあるようだ。
「ありがとうございます……はい、間違いありません」
「では以上をもちまして、アイリ様の登録は終了となります。お疲れ様でした。」
冒険者登録は意外と早く終わった、というかこの受付嬢俺たちのやり取りに関して一切何も言わなかったな、相当スルースキルが高いのだろうか。
「あっそうだ、個人的に剣の稽古をつけてくれる人を探してるんですが。」
「個人稽古ですね、期間はどれくらいでしょうか?」
「2ヶ月半ほどでお願いします」
学園の夏期休暇は3ヶ月、学園まで戻る時間も考えるとこれくらいが妥当だそうだ。
「分かりました、ではこの条件で募集をかけてみますので、明日また今日と同じくらいの時間にお越しください」
こうして俺たちは、冒険者ギルドをあとにした。さすがに帰りに俺たちに絡んでくる奴はいなかった、みんなリーニャの実力に萎縮してしまったのだろう。
「よし! とりあえず今日の目的は達成できたんだし、美味しいものでも食べてから帰ろう」
「お嬢様、私のおすすめの甘味を出すお店がありまして」
「肉が食べたいの」
「え!?ミューって食べるのか!?」
「当たり前じゃわしをなんだとおもっとる!」
「じゃ、じゃあ今までどうしてたんだ?」
「ふん、リーニャが用意してくれておったわ」
「さすがだなリーニャ」
「恐縮です、お嬢様」
そして俺たちには色々な店を廻りながら、屋敷に帰宅したのだった。