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31 ヴァンパイアの少女メアリー


聖騎士達を倒した俺は馬車にいる皆と合流し、怪我人も居るので街道より少し離れた場所で一旦休憩することになった。



「むむむ~」



今は聖騎士達に攻撃を受けていた執事服の女性を、ルナが可愛く唸りながら光魔法で傷を治しているところだ。


キャンベル家の屋敷で、騎士達の訓練で出来た傷を治し魔法の練習を行ってきたルナだが、やはり模擬戦では軽い切り傷や打撲が精々なので、大怪我を負った人間の治療は少し難易度が高いのだろう。



「ふぅ~、これで怪我は治ったよアイリお姉ちゃん!」



苦戦の末なんとか治療を終えたルナは額の汗を拭い、安堵の溜め息を吐くと、くるりと此方に振り向き嬉しそうに報告してくれる。



「ルナ凄い! 流石は私の妹だ!!」



あまりの可愛さに俺はルナを勢い良く抱き上げ、桃のように柔らかなほっぺに、思う存分頬擦りをすると、ルナも「えへへ~」と少し照れながらも、嬉しそうにしていた。



「お嬢様、そろそろお話を進めては如何です? こちらの方々も戸惑われていますよ?」



ルナとのスキンシップを楽しんでいると、リーニャから静止の声がかかる。


ハッとなり周りを見渡すと、リーニャとルークは何時もの事なので、ヤレヤレとばかりに肩を竦めて苦笑いをしているが、先ほど会ったばかりの執事服の女性と、ルナと同じくらいの歳に見えるツインテールの少女は、ポカンとした様子で此方を見ていた。



「コホン、ごめんなさい、今のは忘れてくれるかしら」



俺はルナをソッと降ろすと咳払いを一つし、顔が熱くなるのを感じながらも、姿勢を正し口調も貴族令嬢用のものに戻す。


どうやら俺は怒りだけでなく、嬉しいとき等の感情が昂ったさいに、思わず素が出てしまうようなので、気をつけなければならないようだ。



「……あっ、いえ、こちらこそ助けて頂いたのに、ご挨拶が遅れてしまいました! 私はステラと申します。この娘がメアリー、この度は窮地を救って頂き本当にありがとうございました」



暫く呆気に取られていたみたいだが彼女、(ステラさんというらしい)、が慌てて自己紹介をし、ステラさんに抱きついている女の子も紹介してくれる。


ツインテールの娘はメアリーというらしく、よほどステラさんが心配だったのか、彼女から離れようとしないし、そんなメアリーをステラさんは小さな子をあやすように、銀色の髪を優しく撫でていた。


そんな微笑ましい様子に和みながらも、俺はこちらも名乗っていないことに気が付き、自己紹介をする。



「貴女達が無事で何よりでした。それとこちらも自己紹介がまだだったわね、私はアイリーン・キャンベル、それでこの娘は義妹のルナ、あちらの二人は私の護衛でリーニャとルークよ」



こちらの自己紹介を聞くと、ステラさんは一瞬ビクッと肩を震わせ、先ほどとはうって代わり、緊張した面持ちになる。




「しっ、失礼しました! キャンベル公爵家の方とは露知らず、御無礼をお許し下さい! 」


「え? まあ、そうなんだけど……そんなに畏まらなくてもいいわよ」



ステラさんは慌てて姿勢を整え、俺の前に跪くと、かなり焦った様子……というよりも少し怯えた感じで謝り、メアリーはよく分かっていない様子で、ステラさんと俺とを不思議そうに見ていた。


俺は未だにこの様な反応には慣れてないので、少し面を喰らいながらも、一応俺はキャンベル公爵家の人間なので、仕方ないかと納得する。



「お嬢様もこう言っているので、まずは先程の件について説明をお願いします」


「はい……先程の者達は……その」



リーニャがこれでは中々話が進まないと説明を求めるが、ステラさんは言葉に詰まり、顔色も悪くなってきたように見える。


リーニャは、只今絶賛ルークに簀巻きにされている聖騎士達をチラリと横目で見やると、煮え切らない様子のステラさんに再び問いかける。



「あちらに倒れている彼らは、見たところ教会の聖騎士のようですが……彼等が動くのはこの国において、自分達では対処出来ない様な凶悪なモンスターや魔獣が現れた場合に、王国の援軍が間に合わない等の理由がない限りあり得ません、それなのに何故貴女達が?」


「それ、は……」



リーニャの質問にステラさんは完全に俯き沈黙してしまい、メアリーもこの場に漂う不穏な空気に、少し目を潤ませていた。


そして俺は、教会の聖騎士について初めて聞く事ばかりなので、へーと感心しながら聞いていたが、そう言えばとあの聖騎士の言葉を思い出す。



『やつらの正体は亜人、それもヴァンパイアだ! 人間と同じ様な姿をしているが中身は化物なのさ!』



なるほど、と俺はこのステラさんの怯え様はそう言うことなのかと理解する。


あの聖騎士の言い方だと、彼女達ヴァンパイアが世間ではあまり良く思われていないことは容易に想像がつくし、全ての貴族ではないにしろ、上流階級の人間は亜人に対して特にその傾向が強いのは事実だ。



「……ねえ、そう言えば貴女達がヴァンパイアだと言う話は本当なのかしら?」


「!? 何故それを……あっ……」



俺は重い沈黙が流れる中、先程の戦闘中に聞いた話を確める為、その事を直球でステラさんに質問すると、彼女は俺のいきなり確信をつく言葉に驚愕の表情を浮かべるが、未だに横たわる聖騎士達を見て情報の出所を理解したようだ。



「……お嬢様、ヴァンパイアと言うのは?」


「あの聖騎士達がそう言ってたのよ」



リーニャがどういう事ですか? という怪訝そうな表情で聞いてきたので、俺が聖騎士達に視線を向けながら答える。



「なるほど、彼女達が聖騎士に追われていたのはそう言う事でしたか…… 」




するとリーニャは得心がいったようで、この状況がある程度理解できたようなので、俺が説明を求めるとリーニャが知る範囲でヴァンパイアについて語ってくれた。



「彼女達ヴァンパイアは、遥か昔の魔王がいた時代、人間側ではなく魔王陣営に付いていたと聞きます。ですが知っての通り魔王は勇者に敗れ、配下の悪魔達も魔王が倒されたことにより、この世界に存続する事が出来なくなり、結果……唯一残された魔王陣営であるヴァンパイア達は、そのほとんどが討ち取られたと聞きます。」



「ですが! それはっ……」



リーニャがヴァンパイアの歴史を語っていると、ステラさんは堪らずといった様子で話に割って入るが、リーニャはそれを片手をスッと上げてステラさんを制すと再び話始める。



「そう、当時全てのヴァンパイアが魔王陣営に付いたわけではありません、なので当然戦いに参加しなかった者達が罪に問われるようなことはありませんでしたが……」


「周囲の人間からはそうは見られなかった?」


「……はい」



なるほどね、確かに俺の元いた世界でも、テロや戦争を起こした国の人間は、全くの無関係であっても周囲の国からはあまりいい感情を持たれていなかった。



「なので残念ながら当時のヴァンパイアに対する周囲の反応は、そうとう厳しいものだったようですね、そして長い年月が経った今でも、当時よりは和らいだとは言え、ヴァンパイアに対する風当たりは強いと聞きます」


「ちょっとまって、魔王が居たのって物凄く昔の話でしょ? なのに未だにそうなっているのはおかしくない?」



たしかに犯罪をやらかした国やその一族が、周囲の国や人から迫害を受けたりする事はあるが、数百年も経ってそれが無くならないのはいくら何でもおかしい。


何故なら数百年で加害者側も被害者側もすでにおらず、その祖先の人間達も歴史としては知っていても、所詮は他人事で遥か昔の事なのだ。


昔の事を知って不快感や、憤りを感じる者も中にはいるであろうが、その事で怒りを持ち続ける人間なんていないだろう。



「普通ならばそうなのでしょうね、ですがヴァンパイアには種族特有の『血流操作』という魔法があり、一人一人がとてつもない強さを誇るそうです。 故に現代でも彼女達はその強さを恐れられ、ヴァンパイアを捕らえる際は国の騎士団や聖騎士が動くことも希にあるそうです」



リーニャが話終わると場に重い空気が漂う、まあこんな話を聞けば無理もないだろうが、そしてステラさんはメアリーを背に庇う様に立ち上がると、意を決した表情で俺に向き直ると目にグッと力を込め、口を開く。



「今、お話しにあったヴァンパイアの歴史については本当の事です。 ですが、誓って私達は教会に追われるような罪を犯して等いません、どうか……信じて頂けないでしょうか!」



再びこの場が緊張と静寂に包まれ、全員の視線が俺にあつまる。


彼女達の命運は、キャンベル公爵家の娘であるこの俺の一言で決まるということだろう。


俺は順に仲間達の顔を見ていく、リーニャは無言で頷いてくれ、ルークはニシシと笑いながらサムズアップしているし、ミューは溜め息を吐きながらも、仕方なさそうに頷いてくれた。


そして最後に俺の隣にいるルナに視線を落とすと、不安げな表情で此方を見上げていたので、俺はにっと笑いながらルナの頭を撫でると、ルナの表情がパアッと華やいだ。


どうやらみんな俺と同じ考えのようなので迷う必要もない、教会から彼女達を助けよう、こういう時にこそ公爵なんて大層な肩書きを使わないで、いつ使うというのか。



「ええ、貴女達を信じるわ」


「ほ……本当ですか!?」



ステラさんは信じて貰えるとは思っていなかったのか、驚きに目を見張る。



「もちろん、それにキャンベル公爵家の名に誓って貴女達を守るから安心しなさい」


「ありがとう……ございます」



俺が彼女達を安心させる為に、キャンベル公爵家の名に誓うと、ステラさんは強張っていた体の緊張を緩め、最大級の礼を取る。


貴族がその家名に誓うという事はそれだけ重いことなのだ。


するとステラさんの後ろで状況を見守っていたメアリーがおずおずと顔を出す。



「……私達を助けてくれるの? お父様や屋敷のみんなも? 」


「め、メアリー! この方はキャンベル公爵家の……」


そして不安そうに俺に問いかけると、ステラさんはメアリーが俺に対して不敬に当たるのではないかと、焦ったようにメアリーを止めようとするが、俺は問題ないと言って手を振り、メアリーの元に歩み寄ると、彼女の目線に合うようにソッとしゃがんだ。



「メアリーの家族が捕まっているの?」


「うぅ、お父様や屋敷のみんなが、わっ、悪い奴らに……」



メアリーはなんとか泣かないように目にギュット力を込めながら話してくれているが、今にも目から涙が溢れそうだ。


俺はメアリーの頭をポンポンと優しく撫でると、ニコリと笑いかけ再び先程の言葉を口にする。



「守るよ、メアリーもステラさんも、捕まっているメアリーのお父様達も、みんなね」



すると、今までなんとか耐えていたメアリーの涙が溢れだし、堰を切ったようにメアリーは泣き出した。


俺はメアリーを包むように抱き締めると、この小さな女の子にこんな涙を流させた奴らを絶対に叩き潰し、彼女達を救おうと心に誓うのだった。






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