19 ドラゴンが子分になりました
ドラゴンの牙を回収するシーンを追加しました。
リーニャに骨抜きにされてしまった俺はなんとか再起動し、リーニャに立たせてもらう。
そしてみんなの方に視線を向けると、再び一斉に目を逸らされてしまった。
グラン師匠一人を除いてはだが……、流石と言うべきかこちらを見ながらウンウンと頷きながら満足気な表情だ。あの人はエロければなんでもいいのだろう。
「そっそうだ! リーニャちゃんの氷魔法もすごかったけど、アイリちゃんのあの蒼い炎は一体なんなの?」
「あっああ! あれは凄かったな、俺の自慢の牙を砕くほどだったし!」
気まずい雰囲気を察してエマさんが話題を変えてくれる。流石は大人の女性、空気を読んでさっきの事には触れず、ポンと手を叩き俺の魔法について聞いてくる。そしてそれにルークも乗っかってくる。
「あれはリーニャの氷魔法と同じで、火の属性と風の属性を同時に発動させた物なんです」
「風魔法の高速移動に空中戦闘、それに俺の炎を越える蒼炎の剣か……剣術だけなら負ける気はしねえが、魔法を使われたらもうアイリには勝てねえなあ。流石は我が教え子だぜ!」
俺が蒼い炎について説明すると、グラン師匠にしみじみと言った感じで誉められる。やはり師匠に実力を認めてもらえるというのは、嬉しいもので少し照れくさかった。
「そうだアイリこの折れた牙なんだけど、よかったら貰ってくれ」
「いいのか? 私が折っておいて言うのも変だけど……」
「もちんろんだ。これは勝者であるアイリが持つべきだ。それに折れた牙なら50年もすれば生えかわるさ」
俺が折ってしまった牙をルークが持ってきてくれる。ゲームとかだとドラゴンの素材はかなりレアで、牙なんかはいい武器になったりするのだ。なので気にはなっていたんだが、自分から欲しいとは言いづらかった。
だがルークは勝者である俺に所有権があると言ってくれているので、有り難く頂く事にして、アイテム袋に収納する。この大きさだと俺の剣以外にもいくつか武器が作れそうだ。どんな武器がいいだろうか? そんな事を考えていると、ミューから声がかかる。
「そう言えばお主ら、都市の方に報告しなくて良いのか? 悪魔にドラゴンまで出たのじゃ、間違いなく大騒ぎになってるのではないか?」
「いけねぇ、さっきの事ですっかり忘れてたぜ!」
「俺都市に解決したことを、報告してくるっす!」
俺とリーニャのキスシーンのせいで忘れかけていたが、都市に悪魔が出現し、さらにはドラゴンが飛来して冒険者ギルド前の広場は大騒ぎになっていたのだった。すでに都市中にこの話は広がっているだろうし、早く報告しないとまずいだろう。
だが報告書するにしても、ルークの事はどう説明すればいいのだろうか? 敵意は無いと言っても、人間からしたらドラゴンは恐怖の対象でしかない。余計な混乱は避けるべきだろう。
「待ってくださいケリーさん! 報告と言ってもルークの事はどうします?」
「たしかにね、ルークがドラゴンと分かれば騒ぎになりそうね」
「ふむ、ルークお前さんはこれからどうするんだ?」
「俺? もちろんアイリについて行くさ、ドラゴンってのは負けた相手の下につくのが掟だ。それにアイリとつがいになるのを諦めたわけじゃねえしな」
俺がケリーさんを止めると、エマさんもそれに同意する。そしてグラン師匠がルークに今後どうするか尋ねると、当たり前のように俺に着いてくると宣言する。
というかドラゴンにはそんな昔の不良みたいな掟があるのか、しかも俺とつがいになるのをまだ諦めてないとは……、男なんて勘弁してほしいし隣のリーニャからまた怒りの冷気が漏れだしてるじゃないか。
「いや、つがいの件は諦めてくれ」
「そんな! ……じゃあせめてアイリの子分として俺を側においてくれ!」
俺が再度ルークの求婚をキッパリ断ると、ルークはせめて子分として側において欲しいと懇願してくる。その真剣な表情に俺は思わずたじろいでしまう、あんな目で見られると非常に断りずらい。
「うっ! まあ子分としてなら……うん、いいかな?」
俺はリーニャの顔色を伺いながら、曖昧に返事をする。どうやらリーニャとしては、子分としてなら問題無いようだ。その証拠に冷気が収まっている。ルークは見た目俺達と同じくらいの年齢に見えるので、精神的には一回り年上の俺からしたら、どうも冷たく突き放すのは心苦しいのだ。
「本当か!? ありがとうアイリ! これから何があってもお前を守ってみせるぜ!」
俺の許可が下りると、ルークは感動した様子で俺に抱擁してくる。なんだか大きな犬になつかれた気分だ。気のせいかブンブン揺れる尻尾の幻影が見える。
だが素早くルークの背後に廻ったリーニャは、ルークの首筋にナイフを突きつけ、耳元で囁く。
「ルーク忠告です。百歩譲ってアイリの下僕として側にいるのは、仕方ないので認めましょう。ですがアイリに不用意に触れるのは許しません、よろしいですね?」
「げっ下僕?」
「何か文句でも?」
「ないです!」
二人の間でどんなやりとりがあったのか俺には聞こえなかったが、どうやら二人の上下関係はハッキリしたようだ。ドラゴンを従えるとは流石はリーニャと言うべきか。それともドラゴンのくせに、ヘタレなルークを嘆くべきか、とにかく仲良くやって欲しいものである。
「相変わらずアイリは甘いな、それに変な奴に好かれるよな!」
グラン師匠はそう言い、ガハハ! と豪快に笑っているが、俺からしたら十分グラン師匠も「変な奴」にカテゴリーされる部類の人間なのだが……。
するとエマさんがコホン!と咳払いし、話の軌道を戻してくれる。
「では、ルークくんはアイリちゃんに任せるとして、ドラゴンは深い傷を負わせて追い払った事にしましょう」
「だな、じゃあすまんがケリー、先にギルドマスターに報告に向かってくれ」
「あいよ旦那、先にいくっすよ!」
エマさんが方針を決めてグラン師匠がそれに頷く、そしてケリーさんは皆に声をかけてから、都市の方に走って行ってしまった。
「よし! 俺達もギルドに戻るぞ」
「あっグラン師匠、私達は先に教会の方に行きたいんですが」
「おー、狐の嬢ちゃんの所だな。分かった顔を見せて早く安心させてやれ、そのあとでいいから冒険者ギルドにはよってくれ」
「わかりました」
とりあえず都市に戻ることにし、俺達は先にルナの元に行く許可を貰う。かなり心配をかけているだろうから、早く俺達が無事であることを教えてやりたいからだ。そのあとは冒険者ギルドに寄る事を約束して、一同は都市に向けて歩き出す。
暫く歩いているとミューが、冒険者ギルド前の広場の件について話しだす。
「そう言えばいい忘れておったが、ギルド前でルナがお主を助けたときに光を放ったのは覚えておるかの?」
「ああ覚えてる。あれが無かったら正直危なかったからな、あの光はやっぱりルナが?」
あの時ガーマンが剣を降り下ろした瞬間、ルナから光が発せられ剣が弾かれた。そのおかげでガーマンにとどめをさせたわけだが。
「そうじゃ、あれは光属性の魔法じゃの、お主に危険が迫り無意識に発動したのじゃろう」
「そうか、やっぱりあれはルナが助けてくれたのか……」
ルナが必死に俺を助けてくれようとしてたわけだ、俺は嬉しくなり思わず笑みをこぼしていた。だが続くミューの言葉に俺の表情は凍りつく。
「だが本来獣人は光の属性を持つものは、人間より遥かに少ないのじゃ、それに女にしか持てない力なので、獣人の国では光属性を持つ者は「巫女」と呼ばれ神に仕える者として崇めらておる。なのでルナが光属性の力を持っていると知られれば、貴族や教会が放っておかんじゃろう」
たしかに光属性を持つ者が少ないこの世界で、ルナの存在はかなり貴重だと言える。これが人間であれば国であれ教会であれ、大切に扱ってもらえるだろう。だが獣人に差別意識を持っている事が多い貴族なんかに連れて行かれれば、ルナがどんな扱いを受けるのか容易に想像できる。
「そう言えば獣人の光属性持ちは、見たことがないわね」
「たしかにな、あの子は孤児なんだろう? そうすると教会か貴族に連れてかれちまうんじゃあ……」
Aランク冒険者であるエマさんも、獣人の光属性持ちには会ったことがないようだ。そしてタングさんが孤児であるルナは貴族や教会に、強制的に連れて行かれるのではと、顔を曇らせる。
するとリーニャとグラン師匠が俺だけに聞こえるように、話しかけてくる。
「であればアイリがルナを引き取ってしまえば良いのです」
「だな、あの広場にいた連中は少なからず気がついてるだろうが、今は悪魔とドラゴンの件で大騒ぎだ。今のうちに正式に手続きをしてしまえ」
リーニャとグラン師匠の提案に俺の表情はパアッと明るくなる。ちょっとだけ忘れていたが俺は貴族である。それもシンフォニア王国の中でも大きな権勢を誇る、キャンベル公爵家だ。先にルナを引き取ってしまえば、他の貴族や教会も口を挟めないだろう。
「その手があった!」
「……アイリ、ご自分が貴族にだということを忘れていませんか?」
「たしかにアイリは最近はすっかり冒険者が板についてきたからなあ」
「うぐっ、忘れるわけ……ないじゃないか」
俺はリーニャに図星をつかれ、それを否定するが、グラン師匠からは笑われ、リーニャからはジト目で見られてしまう。
だが善は急げだ。先に他の奴等にルナを連れていかれないように、手を打たなければ。
「すいませんみなさん! 先に都市に戻らせてもらいます」
「え? 急にどうしたのアイリちゃん」
先ほどまでルナが連れて行かれていまうと、落ち込んでいた俺が急に復活し先に都市に戻ると言うので、エマさんが驚いている。
「教会に行ってルナを引き取って来ます」
「引き取るって……気持ちはわかるが、一冒険者の俺達がどんなに主張したところで、貴族や教会には逆らえんぞ」
俺がルナを引き取りに行くと言うと、タングさんが申し訳なさそうにそれは無理だと否定する。それだけこの国では貴族や教会の力は圧倒的なのだ、それがたとえAランク冒険者であっても変わりはない。
「いえ! 問題ありません、一応私も貴族なので!」
俺がそういい放つと、事情をしらないエマさんとタングさんが目を見開く、そして各々本当なのか? と、疑問を口にする。
「アイリちゃんが……貴族?」
「本当なのか?」
「はい、すいません今まで黙っていて、家にも秘密で冒険者になったので」
そして俺が二人の疑問に肯定してやると、二人はグラン師匠の方に勢いよく視線を送る。その視線に気がついたグラン師匠はさらに二人を驚かせることになる。まあ今回の件で衛兵の人に知られてしまったので、キャンベル家にはばれてしまうだろうが。
「しかもだ。そんじょそこらの貴族じゃないぜ、なんせこの領地の支配者であるキャンベル公爵家だからな」
「ヘえ~流石アイリだな、だがこれだけの美人だし納得だ!」
グラン師匠の発言にエマさんとタングさんは、驚きを隠しきれず、二人とも俺を見ながら口をパクパクとさせて、金魚のようになっている。ルークはドラゴンだからなのか、そこまでの驚きは見せない。二人の面白い顔をもう少し見ていたかったが、時間が惜しいのでそろそろ失礼させてもらうとこにする。
「では、グラン師匠また後で冒険者ギルドに伺います」
「おう! 魔法で飛んで行くのか?」
俺達が転移で移動できることを知らないグラン師匠は、俺が風魔法で飛んで行くと思っていたようだ。
「いえ、ミューの転移で直接向かいます。ルークも一緒にいくからこっちに」
「分かった、というかミューは空間魔法が使えるんだな!」
「まあの、短距離転移なのでそんなに遠くには行けんがの」
俺が直接教会に転移で向かうと伝えると、今度はグラン師匠も固まってしまう。今は気にしていられないので、ルークをこちらに呼び寄せる。というかルークはここでもそれほどの驚きは見せなかった。大物なのか、単にバカなのかは分からないが……。
「じゃあミュー転移をたのむ」
「うむ、では行くぞ!」
「ちょっ! そんな話きいてなっ……」
俺達が転移する直前に再起動したグラン師匠が何か叫んでいた気がするが、最後まで聞くことが出来なかった。まああとで冒険者ギルドに行ったときに聞けばいいだろう。
そして俺、ミュー、リーニャ、ルークは教会に転移した。