表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

18 ファーストキスとセカンドキス

目の前で横たわる巨大なドラゴンが俺に話しかけてきた。先ほど戦っていた時は、モンスターに相応しくただ咆哮を上げていただけだが、今このドラゴンはハッキリ人の言葉を口にした。「助かったぞ」と、それに殺意しか秘めていなかった先ほどと違い、その大きな瞳には知性すら感じられる。



「ん? 言葉が通じないのか?」



俺が目の前の状況についていけず、考え込んでいると再びドラゴンは人間の言葉を口にする。俺は警戒しながらもそれに応じる。



「い、いや通じてる。人の言葉を話すんで驚いただけだ」


「当たり前だ、俺たちドラゴンは人間より遥かに聡明な種族だぞ! くっ傷が……」



俺の言葉に腹が立ったのか、ドラゴンは人間よりも優れているぞ、と反論してくるが、傷が痛むのか苦しそうだ。どの辺が聡明なのか非常に突っ込みたかったが、怒りだすとメンドウなので止めておく。



「それより助かったって言ってたけど、どうゆうことだ?」


「そうだった、俺はさっきまで魔法で操られてたんだ。一応意識はあったけど、体が言うこと聞かなかったんだ。それであんたが俺を倒してくれたお蔭で、体が自由になった」



なるほど、あの悪魔に操られて俺を襲ったわけか、それで俺に倒され力尽きて悪魔の支配下から解放されたわけだ。



「あの悪魔は何者なんだ?」


「さあな、俺が山で寝てたら急に魔法をかけられたんだ」



うん、このドラゴンが聡明なんかではない事がハッキリした。というかバカなんだろうか?そんな事を考えていると、リーニャの声が聞こえた。




「アイリ! 大丈夫ですか!」



ドラゴンと話していると、リーニャ達がこちらにやって来る。全員武器を構えたまま警戒しているようだ。俺は無事であることを伝えるため、手を振ってやる。



俺の側にきた一同は、ドラゴンが生きている事に気づいて、すぐさま戦闘体勢に入る。するとドラゴンは慌てて弁明する。



「ちょっと待った! 俺はもうお前たちに攻撃はしない!」


「なっ! ドラゴンが喋っただと!?」


「グラン師匠どうやらドラゴンは知性を持ってるみたいです」



ドラゴンが人間の言葉を喋るという事に驚いている一同に、先ほどドラゴンから聞いた話をし、すでに敵意がないことを説明する。それに納得しグラン師匠達が警戒を解き武器を下ろした事で、ドラゴンはホッとした表情になる。ドラゴンの表情なんてよく分からないが、何となく雰囲気で分かった。



「なるほどな、なら悪魔の仲間じゃないんなら、その傷を治してやりてぇが……、この巨体にポーションが効くのか?」


「おお! それは助かる。さっきから喋る度に傷口が痛くて……」



グラン師匠がアイテム袋から回復のポーションを取りだして、ドラゴンの巨体と見比べ首を傾げると、ドラゴンは軽い口調で礼を言う。


あれ? 結構な傷だったと思うんだけど……。そう思って不思議そうな顔をしていたら、ドラゴンには自然治癒力があるから、と笑っていた。それでも痛いので早く治るのは助かるそうだ。俺はドラゴンの生命力に改めて驚愕した。



「よし、じゃあ人間の姿になるか、それならそのポーションでも効くと思うし」



そう言うとドラゴンの体は光だし、瞬きしている間に人間の姿になっていた。



「は?」



俺を含めこの場にいるほとんどの者が同じ反応をする。今日一番の驚愕の事実に全員面食らって、固まってしまっていた。



そこには俺より頭一つ分くらい背が高く、ドラゴンの体の色と同じ漆黒の黒髪に琥珀色の瞳、全身黒色でコーディネートされた服を着た少し生意気そうな顔のイケメンの少年が立っていた。



「いや~この姿になるのは久し振りだなー、って痛てて、ポーション貰ってもいいか?」


「おっおう……」



少年はグラン師匠からポーションを受けとると、一気にあおり無事治ったようだ。肩を回したりして体を動かしている。



「ふむ、ドラゴンの上位種は人間の姿もとれるからの、それほど驚く事でもないぞ?」


「そっそうなんですか? グラン師匠」


「いや、俺もそんなこと初めて知ったぞ……」



ドラゴンが人間の姿になれる事は、ミューが当たり前のように言うので、グラン師匠に尋ねると知らなかったと言い、エマさん達もウンウンと頷いていた。



「ほんと助かったぜ、一時はどうなるかと思ったけど……あっそうだ自己紹介がまだだったな、俺の名前はルークだ。あんたの名前を教えてくれるか?」



ルークと名乗ったドラゴンは自分の名前を名乗ると、俺に名前を尋ねてくる。



「私の名前はアイリ、さっきは仕方なかったとは言えルークに怪我を負わせて、その悪かった」



「気にしないでくれ、そんなことよりもアイリか、言い名前だな。それに俺の牙をも砕くその強さにその可憐さ、気に入った」



そう言いながらルークはニッと笑い俺の側に歩みよってくる。というか近すぎないか?そう思っていたら、ルークはおもむろに俺の顎を片手で取り、自分に引き寄せる。



「俺とつがいになってくれ」


「なっ何を言って……」



ルークの突然の爆弾発言に俺は抗議しようと口を開くと、ルークの唇で塞がれてしまう。



(っ~~~~~~!?)



俺は声にならない悲鳴をあげ、慌ててルークとよ距離をとる。俺のファーストキスの相手が男となんて! いや今は女だから問題ないのか!? 俺はパニックなってしまい、思考が変な方向に向かってしまっていた。



「そんなに嫌がらなくても……」


「ふっ、ふざけるなぁ! 初めてだったのに~~!」


「ふざけてねぇ! 俺は本気だ!」


「なお悪いわ!」



ルークと激しい言い合いをしていると、後ろから凄まじい殺気を感じる。振り向くとリーニャが拳を振るわせながらルークを睨んでいた。



「貴様……私が貰う筈だったアイリのファーストキスを奪うとは……氷り漬けにして永遠の眠りにつかせてあげましょう」



そこには今まで見たことないほど怒り狂ったリーニャがいた。彼女の周囲には冷気が漂っており、グラン師匠達は急いで距離をとっていた。というか俺のファーストキスは、リーニャの物でもないんですが……。



「おっおい、アイリあのおっかない女は誰だ!?」


「リーニャ、落ち着くんだ! さすがに永遠の眠りはまずいって!」



ドラゴンであるルークがあまりの恐ろしさに、戸惑い。先ほどまで怒り心頭だった俺が、自分よりキレているリーニャを見て冷静さを取り戻していた。



だがリーニャは止まらず、冷気を漂わせながら、静に近づいて来ている。俺が何を言っても止まらないので、グラン師匠達に助けを求め視線を送ると、サッと一斉に目を反らされてしまった。


グラン師匠達は役に立たない。そしてルークは、涙目で「まじでヤバイって!」と立ち尽くしている。



(情けないドラゴンめ! しかしどうする? あの怒れるリーニャを沈める方法なんてあるのか!?)



だが無情にも時は待ってくれない。リーニャはついに俺達の目の前までやって来てしまっていた。


極限までに加速した俺の思考は最終手段を思い付く、こうなったら形振りかまっていられない。俺はそう決心し、リーニャを止める唯一の言葉を口にする。



「リーニャ! 私のセカンドキスをあげるから! だから止まるんだ!!」


「……」



俺がリーニャに向かってそう叫ぶと、ピクッとリーニャは肩を振るわせ、その歩みを止める。次第に周囲の刺すような冷気は収束していき、空中に霧散する。



「……本当ですか?」


「あっ当たり前だ!」


「……神に誓えますか?」


「かっ神に誓う!!」



するとリーニャは物凄い勢いで俺に迫って来て、俺は思わず後退ってしまう。だが後ろの木にぶつかってしまい、俺はそれ以上逃げられない。

そこにリーニャが俺の後ろの木に勢いよく手をつく。所謂壁ドンというやつだ。まさか異世界に来て、女の子にされるなんて夢にも思わなかった。



「あの、リーニャさん? まさか今からここで?」


「はい、あのバカに汚されたアイリの唇を私が浄化してあげます」


「でもっ、皆見てるし……」


「あのバカが二度とこのような事をしないように、見せつけてやろうかと思いまして」



リーニャはそう言うと、目を閉じて唇に触れるだけのキスをしてくる。緊張して体が強張っていた俺だが、スッとリーニャの唇が離れると、緊張がとけて体の力が抜ける。


するとすかさずリーニャが唇を合わせてきて、今度は舌を入れられてしまう。



(ちょ!? リーニャそれは流石にまずいって!!)



だが木に押さえつけられている俺は逃げられず、そのあと一分ほどリーニャにたっぷりと口内を蹂躙されてしまった。



「ぷはっ! ハァハァ……もう、お嫁に行けない……」



俺はリーニャから解放されると、足の力が抜け、その場でへたりこんでしまう。俺は首までゆでダコのように真っ赤になってしまっていた。そんな俺に満面の笑みでリーニャが答える。



「安心してください。その時は私が貰ってあげますから」



そう言ったリーニャは、先ほどとはうって代わりご機嫌のご様子だった。

俺のキスひとつで世界は平和を取り戻したんだ。俺はそう自分に言い聞かせなんとか納得した。


リーニャのキスがかなり上手で、少し気持ちいいと思ってしまったのは秘密だ。男としてそこは認められない一線だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ