15 ルナ達との夕食
俺達はルナ達にお土産に肉を購入して行くことにした。前に子供達に聞いたら肉は滅多に食べられないと言っていたし、育ち盛りの子ばかりなのでたくさん食べるだろう。
そして東地区の商店が並んだ通りにある精肉店に来ている。通りを見渡すと、中央区のように規模は大きくないが、人に混じって亜人も買い物をしている姿を見かけられ、小規模ながら活気があるように感じられる。
「いらっしゃい! お嬢さん今日はどんな商品をお求めで?」
「じゃあ、このお肉を20キロほど売ってもらえますか?」
俺は店の前に貼られた、各部位ごとに値段がついた商品リストの内お目当ての物を指差す。
「牛のこの部位だと結構値が張るが大丈夫かい?」
この店は豚、鳥、牛の肉を売っていたので、俺は迷わず牛を選んだ。やっぱり肉といえば牛肉のステーキだろう。店主が俺の懐具合を心配してきたので、俺は先ほど冒険者ギルドで討伐報酬で貰った金貨を見せてやる。
「もちろん大丈夫です」
「おっとこれは失礼した、20キロだと金貨2枚だよ」
俺は店主に金貨二枚渡すと、奥さんであろうか?逞しい腕の女性が奥から肉の塊を持ってきて、大きな植物の葉に包んでくれる。
「お待ちどうさん! 重いが大丈夫かい?」
「ありがとうございます、アイテム袋があるから大丈夫です」
店主に大丈夫と言いながらニッコリ微笑む、すると店主は顔を赤くしながら「ちょっと待ってな」と言い、奥から鶏肉を持ってきて、サービスで包んでくれた。
隣で奥さんらしき女性が店主を、ジロリと睨んでいたのが少し心配だが……
まあ貰える物はもらっておこうと、俺は礼を言って受取店を後にした。
「アイリはいつの間にあのようなテクニックを?」
「特に何もしてないさ、ただ買うときにニッコリ微笑むと、みんなやさしくしてくれるだけで」
「魔性の女じゃの」
自分で言うのもなんだが、俺はかなりの美人だ。大抵の男ならばちょっと微笑んでやればイチコロである。俺も以前の男の体であれば、一瞬でやられる自信があるほどだ。これを使わないのは勿体ない。
そんな話をしていると教会が見えてくる。ノック男爵が東地区統括の任を解かれたので、ここの援助も再開されているはずだが、念のため確認するのもここに来た理由だ。
「こんにちはー」
正面の扉ではなく、端の小さな入り口をノックして中に入る。正面の大きな両開きの扉は、現在ここは教会として機能していないので使われていない。
そして少しすると奥からこの教会のシスターであり、孤児達の親代わりでもあるアニェーゼさんが、いつものように優しそうな笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃい、アイリさん先日はありがとうございました。おかげで子供達にも笑顔が戻りました」
「いえ、私は大した事はなにも」
「それに今日役人の方がいらして、この教会の援助を再開してくださる事になりました。もしかしてこれもアイリさんが?」
「まさか、それは私ではありませんが、これで安心できます」
よかった。ここにも役人が来て、きちんと対応してくれたみたいだ。ノック男爵の後継の人間はどうやら優秀なようだ。
「それで今日はルナ達にお会いに?」
「はい、お肉が手に入ったのでお裾分けです」
「まあ、それは子供達が喜びます。ではこちらに……」
俺達はシスターと共に子供達がいる部屋に向かう。そして部屋に入ると一斉に子供達の視線が集まる。
「あー! お姉さんだー!」
「また遊ぼうぜ!」
子供達が俺の回りに集まってくる。前回剣を腕前を披露したのをきっかけに、仲良くなったのだ。ああ子供達の笑顔に癒される。
「アイリお姉ちゃん今日はどうしたの?」
子供達に揉みくちゃにされていると、狐の獣人であるルナが訪ねてくる。
「今日はみんなにお土産を持ってきたんだ」
俺がそう言うと子供達の目が輝く、みんな尻尾が揺れていて嬉しそうだ。
そしてアイテム袋から先ほどのお店で購入した牛肉20キロの塊を、机の上にドスン、と置くと子供達から歓声があがった。
俺が剣を披露したとき以上の反応で軽くショックだったが……。まあみんな喜んでくれているようで何よりだ。
「ほらほら、みんなアイリさんにお礼を言いなさい」
「「アイリお姉ちゃんありがとー!!」」
肉の塊を前に大騒ぎの子供達を、シスターが嗜めると、子供達は一斉にお礼を言う。俺が笑顔で答えると、子供達は再び肉の塊に釘付けになり、嬉しそうに見ている。ヨダレを垂らしている子もいたくらいだ。
というかその中にルナも混じっていたが、一応小さくともレディなので見なかったことにしようと思う。
「アイリ、ここではこの大きさのお肉だと、調理が難しいかもしれません」
「そうなの?」
「そうですね……いつも私と子供達で料理をするのですが、この大きさとなると……」
たしかによく考えればそうだ。この大きさだど一般家庭ではなく、お店で扱う大きさだ。食べれるように解体するだけでもかなりの重労働だろう、シスターや子供達の力なら尚更か。
「じゃあ私達で調理しよう、リーニャ手伝いを頼む」
「わかりました、アイリ」
「よろしいのですか?」
「ええ、プロの料理人のようにはいきませんが、ステーキくらいなら作れるので任せてください」
一応前世では独り暮らしであったため、自炊していたし休みの日には多少凝った料理も作ったりしていたのだ。
俺はさっそく調理するために調理場を使う許可をシスターにもらい、リーニャとシスターと共にやってきた。ミューは子供の達の相手をしてもらっている。
調理場は昔ながらの石造りで、火は薪をくべて使うらしい、一般家庭でも多少裕福なら専用の魔道具があるが、ここには無いようだ。まあ魔道具自体が高価であるし、使用には魔石が定期的に必用なのて、仕方ないだろう。
「じゃまずリーニャ、この肉を一口大に切ってくれ」
「かしこまりました」
リーニャはそう言うと肉の塊を持ち上げ、空中に放る。そして手をかざすと肉の塊が風の魔法によって、一口サイズに切られていた。やはり魔法は便利だ、まあ普通こんなことには使わないかもしれないが……
「お肉があっという間に……リーニャさんも魔法使いだったのですね」
「はい、嗜む程度ですが」
リーニャの魔法にシスターはかなり驚いていた。一般の人間は普通魔法使いをあまり見ることがないので、無理もないだろう。というかリーニャは謙遜しすぎな気がする、あの風の魔法があれば普通のモンスターなど一瞬でバラバラだ。
そしてリーニャが切ってくれた肉に俺は下ごしらえをしていく、ある程度終わったあと薪に火をつける。もちろん魔法でだ。
後はどんどん肉を焼いていき皿に盛っていく、肉屋の店主におまけして貰った鶏肉もひときれずつ添えて、あとはシスターが野菜のスープとパンを用意して完成だ。
その後は子供達とみんなで、料理を食堂まで運び席につく、今日は俺達も一緒に食べていくことななったからだ。
「ではいただきましょう」
「「いただきます!!」」
シスターの合図で子供達は、一斉に食べ始め肉を口一杯に頬張っている。
「おいしい!!」
「こんな柔らかい肉初めてだ!」
みんな口々に感想を言い合い、美味しそうに食べている。隣に座っているルナも頬をパンパンに膨らませ、リスのようになって食べている。
「あいりおねーひゃん、おいひいね!」
「そうだね、おいしいね」
「ルナ、口に食べ物を入れたまま、話すのお行儀が悪いですよ」
「ふぁーい」
口をもぐもぐさせながら、話すルナにリーニャが注意する。一応返事はしたが、ルナは目の前の食事に夢中で、おそらく右から左だろう。まあ楽しそうなので今日くらいはいいだろう。
そんな事を考えながらルナを見ていると、今度は俺にリーニャの矛先が向く。
「アイリも他人事ではありません、最近冒険者として半日生活しているせいでしょうか、いろいろと問題があります」
「そっそうかな……いろいろと忘れちゃったかも……なんて」
俺はアイリの発言にドキリとしてしまう。転生してから回りの仕草など、参考にしながら見よう見まねでやってきたが、やはりダメだったらしい。
「それでは、訓練が終わったあとは、マナーの講義も行いましょう。私が手取り足取り教えてさしあげますので、すぐに思い出すでしょう」
「うっ……お願いします」
リーニャの手取り足取りは物凄く不安だが、学園に戻る前に教えて貰える事になったので、正直助かった。
その後みんな出された料理を全て完食し、満足げで幸せそうな顔をしていたし、こんなに喜んでくれるなら、また今度持ってこようと思う。
後片付けは子供達が引き受けてくれると言うので、俺達はそろそろ帰ることにする。みんなにお礼の言葉を貰って教会から出ると、ルナが追いかけてきた。
「待ってアイリお姉ちゃん!」
「どうしたのルナ」
「あのね……前にアイリお姉ちゃんに助けてもらったし、今日もお腹一杯食べさせてくれたしょ? だから、いっぱいありがとうって言いたくて……」
「そっか……」
俺はしゃがんでルナ頭を撫でてやる。ルナを見ると申し訳なさそうな表情をしている。
「それで……お礼もしたいけど、私何も持ってなくて……」
「お礼ならルナが……ルナ達がみんな笑顔になってくれれば、私は十分だよ?」
「……ほんとに?」
「もちろん! だから笑ってくれる?」
「うん!」
俺の言葉にルナは今日一番の太陽のような笑顔を向けてくれた。
今回の件で貴族の醜い一面ばかり見て気分が悪かったが、この子達の笑顔が見れて本当に良かったと思う。
ルナとシスターに別れを告げて、今度こそ教会を出て歩いていると、リーニャがニヤニヤしながらこちら見ていた。
「何かなリーニャ」
「いえ、アイリは相変わらず子供にあまあまですね」
「たしかにの」
「ふん! 私は純粋な子供が好きなだけだ」
「私にも少しはその優しさを向けてくれてもいいのでは?」
「それはリーニャの今後の態度しだいだな」
「それはむりじゃろうな」
「ひどいですミュー様!」
そんなバカな
話をしながら俺達は屋敷に戻っていったのだった。