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12 教会の子供達


「初めまして、冒険者のアイリです」


「同じくリーニャと申します」


俺たちはまず、ルナが連れてきたシスターさんに挨拶をする。ミューはまた俺の中に避難している。


「これはご丁寧に、私はここでシスターをしているアニェーゼと申します。呼びづらいでしょう? シスターとお呼びください」


シスターはそう言ってニッコリ笑う、優しそうな人だ。ルナが信頼している様子なのも、頷ける。


「あのねシスター、このお姉ちゃんに助けてもらったの」


「お話は先ほど、このルナに聞きました。この子を助けていただいたようで、本当にありがとうございました」


シスターは深々とお辞儀をする。年齢を感じさせない、とても綺麗姿勢だ。


「いえ、この子はなにも悪くありませんし、私が勝手にやったことですから、気にしないでください」


実際あのオッサンにムカついて、ぶん殴ってやっただけだ、できればルナが蹴られる前に、助けてやりたかった。


するとシスターは、俺の言葉を聞いて「ふふっ」と笑みをこぼす。


「アイリさんはとてもお優しいのね」


「え? いやそんなことは……よく怖がられるし、その……」


俺はシスターに優しいと言われて、照れくさくなってしまう。どうもシスターのあの笑顔で言われると、どこかくすぐったいのだ。


「お姉ちゃんは怖くないよ! ルナのこと助けてくれたもん!」


「ルナ……」


ルナの言葉に俺はジーンときてしまう、この歳になると涙腺が……ってまだぴちぴちの16歳なんだけど。


俺はルナの前にしゃがんで、金色の髪を優しく撫でる。


「ありがとね、ルナ」


「えへへ~」


ああ、なんていい子なんだろうか、このまま家に連れて帰ってしまいたい。

それにしても、こんないい子に暴力を振るうなんて信じられない。


「アイリさん、子供の純粋な目はその人の本質を見抜くんですよ。ですからルナの言う通り、やはり貴方は優しい人なのだと私は思いますよ?」


シスターは優しい眼差しで、俺をさとす。これ以上否定するのは無粋だろう。


「……ありがとうございます」


「アイリお顔がリンゴのようですね」


「うっうるさい、リーニャ」


俺が照れていると、リーニャが俺の真っ赤になった顔を指摘してくる。

流石にいつものように、セクハラはしてこないが……。


「では中にお入りください、大したおもてなしはできませんが」


「とんでもないです、それでは失礼します」


「こっちだよお姉ちゃん」


シスターに心遣いに、俺はお邪魔することにする。そしてルナは、俺の手を引いて案内してくれるようだ。



「こっこれは……」


目の前にはたくさんの亜人の子供達がいる。みんな歳は5歳位から15歳くらいだろうか? 猫耳や犬耳……様々な種族がいるようだ。なんだこの癒し空間は、ここが喫茶店なら俺は通いつめるぞ。


「この子達はみんな親がいない子供達です。亜人の冒険者さん達の寄付によって、何とか生活できている状態です」


シスターはここらの亜人の子供達を集めて、保護をしているようだ。だがなんとか生活できているとは言っても、ほんとうにギリギリなのだろう。シスターも含めてみんな少し痩せているみたいだ。


そして俺たちは、奥の部屋に通される。ルナが一生懸命お茶を入れてくれる姿は可愛かった。


「この都市の支援は、受けられないのですか?」


「以前はあったのですが、ここ数年は無くなってしまって……」


なるほど以前はあったのか……という事はここ東地区を管理しているノック男爵が止めたんだろうか? それともこの都市のトップであるキャンベル家だろうか。


「お嬢様、シンフォニア王国は亜人の差別を表向きは禁止しています。このキャンベル領もそれは同じです。ですので当主様のご意向ではないかと」


俺が考え込んでいると、リーニャがコッソリ教えてくれる。だが最後に耳に息を吹きかけるのは、やめてほしいんだが……。


「ありがとう、それと……帰ったらお仕置きだ」


「ああっ、お仕置きだなんて、お嬢様……」


俺が小声でリーニャに言うと、何を勘違いしてるんだかリーニャはとても嬉しそうだ。うん、もう変態メイドは放っておこう。


「そうですか……ではこれはお布施ということで、受け取ってください」


俺はそう言って、10枚ほど金貨が入った袋をシスターに渡す。これくらいあれば、少しの間は持つだろう。


「まあ、よろしいんですか?」


「ええ、ルナ達にたくさん食べさせて上げてください」


「本当に、ありがとうございます」


シスターは再び深く腰を折って礼を言う、やっぱりシスターともなれば所作等も洗練されているものなんだろうか? 俺のなんちゃって礼儀作法とは各が違う。


「気にしないでください、そういえばシスターは亜人ではないんですね」


ここにいる子供達はみんな亜人だが、シスターは耳も尻尾もない。

俺は気になったので聞いてみる。


「ええ、ここは元々使われなくなった教会を孤児院として亜人の方々が運営してたのですが……、先代が亡くなってから代わりの人がいなくなってしまって、それで私が立候補したのです」


「そうだったんですね……」


だから人間であるシスターが、ここで子供達のめんどうを見ているのか。

めちゃくちゃいい人じゃないか、この人なら今後も安心だろう。


俺たちとシスターが話していると、子供達がこちらの様子を扉の隙間から覗いていた。俺と目が合うとすぐに隠れてしまうが、ケモミミが丸見えで少し可笑しかった。


そして俺は、そんな子供達の相手をする事にした。


「姉ちゃん、冒険者なのか?」


「そうだぞー」


「あんまり強そうじゃないね」


「お姉ちゃんは、強いもん! 悪い人、やっつけてくれたもん!」


「ほんとー?」


どうやら子供達には、俺が強そうには見えないようだ。まあ当然と言えば当然なんだが、ルナが必死に俺の為に頑張っているので、少し実力を見せて驚かせてやろう。


「よーし! ならお姉さんが強いところ見せてあげよう、みんな外に移動しようか」


シスターの許可を得て、子供達と庭に出る。そして子供達から十分に距離をとってから、剣の型を見せてやる事にする。


「じゃあ、始めるぞー!」


「「はーーーい!」」


俺の言葉に子供達は元気よく、返事をする。じゃあ期待に応えるとしますか、まず身体強化をして、それから俺はグラン師匠に教わった型を順番に披露すると、子供達から歓声があがる。


(うん、子供は素直で可愛な、じゃあもっと頑張りますか)


俺は高く飛び上がって、炎を剣に纏わせ振るう。


すると今日一番の歓声が起こる、特に男の子には大好評のようだ。やっぱり男の子ってこういうのが好きだよな。


俺が地面に着地すると、子供達が集まってくる。


「うおー! 姉ちゃん格好いい!!」


「あれって魔法!?」


「剣から火が出てたよ!」


俺の剣舞は大成功で終わった。これがきっかけで、子供達にはなつかれたみたいだし、ルナも嬉しそうでよかった。そのまま子供達に囲まれながら少しの間みんなで遊んだ。



日も暮れてきたので今日は帰ることにする。ルナ達とは、また遊びにくると約束して別れる。


「今日は子供達の為にありがとうございました。それにお布施まで……」


「いえ、私も楽しかったので……それとシスター、先ほども話ましたが、しばらくは子供達が外に出ないようにしてください」


「分かりました、アイリさんの言う通りにしましょう」


先ほどシスターだけには、また子供達があのオッサンの逆恨みで絡まれるかもしれない、という話をしてある。


「お願いします。それではまた来ます」


こうして俺たちは、教会をあとにした。




「お嬢様、お屋敷に戻られますか?」


「そうだな、一度もどろう」


「うむ、わしも腹がへったぞ」


ずっと俺の中にいたミューが出てくる。退屈だったのかもしれない。


「ごめん、ごめん帰ったら食事をしよう、それからリーニャ、その後ノック男爵の所に内密に行きたいから、着替えを頼む」


「ノック男爵の所へいくのですか? しかも内密に……」


そう、ノック男爵に事の真相を聞きたいし、今後ガーマンってオッサンが絡んでこないように、いろいろとお願いをしなければいけない。ゴミは早めに処理しないとな、ここは俺の故郷なんだから学園に戻る前にキレイにしておきたい。


「そう、ちょっと私のお願いを聞いてもらいにね、ミュー転移をよろしく」


俺はそう言ってリーニャとミューに微笑む。


「なんだかアイリから、黒いモノが見えます」


「奇遇じゃなリーニャよ、わしも見える」


この二人は何を言ってるんだろうか? 俺はただ子供達が安全に生活できるよう町の清掃活動に勤しむ、ただのキレイ好きな少女なのに。


「変なこと言ってないで、とりあえず屋敷に帰ろう」


こうして俺たちは、すでに暗くなってきていた町並みを、馬車に揺られながら帰路についた。

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