11 亜人の少女、ルナ
俺たちは冒険者ギルドに戻ってきていた。そしてオークの集団が都市に向かって来ていたことを、報告するとギルドマスターに呼ばれることになった。
「呼び出して悪かったな、グラン」
「いや、まあ事が事だしな、早めに対策を立てたほうがいい」
俺たちはギルドマスターの部屋で長椅子に3人で座り、机を挟んでギルドマスターと、モンスターの件で事情を聞かれていた。
「ふむ、それでオークキングが森で出たってのは、本当か?」
「ああ、オークキングとオークが50匹ほどだ」
「そうかお前が発見してくれて助かった。他の冒険者では、やられてただろうからな」
「いや今回活躍したのはこっちの二人だ、なんせオークキングを倒しちまったんだからな」
「本当か!? そっちの嬢ちゃん達が?」
どうやら俺たちがオークキングを倒したのが、信じられないみたいだ。
まあリーニャが弱らせてくれてなかったら、勝てなかっただろうけど。
「まあな、なんせこっちのアイリは俺の教え子だし、リーニャに至ってはB級冒険者だからな。」
グラン師匠の言葉にギルドマスターは、目を見開いてこちらを見ている。
「ほう、B級冒険者か……聞かぬ名だが」
「以前は別の場所で活動していましたし、今は活動していませんから」
「なるほどな……それでそちらがグランの教え子か……ん?」
ギルドマスターが、俺に視線を向けたまま固まってしまった。
「失礼ですが……もしやキャンベル公爵家の方では?」
しまった、さすがにギルドマスターともなれば、この都市のトップキャンベル公爵家の家族構成くらい把握してるか、これは誤魔化しきれないな。
「ご挨拶が遅れましたギルドマスター殿、キャンベル公爵家次女のアイリーン・キャンベルです」
俺はギルドマスターに貴族令嬢としての挨拶をする。するとギルドマスターは慌てて立ち上がる。
「こっこれは、キャンベル家御息女にとんだ御無礼を! 自己紹介が遅れました。ギルドマスターのバロックと申します」
ギルドマスターは、青い顔で俺に自己紹介をしてくれる。ここまで恐縮されるとやりずらい。そしてそんなギルドマスターの様子にグラン師匠は、訳がわからないという顔をしている。
「は? アイリが公爵家のご令嬢……?」
「ばっばか野郎、様をつけんか!というか何で先に言わない!」
「いや俺も今初めて知ったんだ! そのアイリ……様? 本当なんですかい?」
おお、こんなに狼狽えるグラン師匠を見るのは初めてだな。
「すいませんグラン師匠今まで黙っていて、家にも秘密でしたので話すわけにはいかなかったんです」
「ですがアイリーン様、なぜ冒険者に? グランに師事なされているのですよね」
ギルドマスターからの質問に、俺はグラン師匠に剣を教わるまでの経緯と、今に至るまでをザックリ説明した。
「なるほど、分かりました。あくまで訓練の為に冒険者になり、グランを師事している訳ですね?」
「ええ、その通りです。せっかく大きな魔力に恵まれましたので、使いこなせなければ、宝の持ち腐れですから」
俺はギルドマスターからの質問に、ニッコリ答える。
「分かりました、それではここだけの話に致しましょう。グランもいいな?」
「あ、ああ……」
「ですが今後森に入るのは、お控えください。あなたに何かあったら公爵様に顔向けできませんので」
うーんやっぱりこうなったか、まあいざとなったらミューの転位で連れてきてもらおう。
「分かりました、以後気をつけます」
「くれぐれもよろしくお願いします。それでは本日はわざわざ御足労いただき、ありがとうございました。」
「それでは失礼します」
俺とリーニャはギルドを後にする。グラン師匠はまだ残って今後の対策を練るそうだ。
「それにしても、ついにバレたなあ」
「ええ、まさかギルドマスターがアイリのお顔をご存知とは」
「まあギルドマスターが協力者になってくれれば、ギルドから漏れることはないじゃろう」
たしかに、バレてしまったのはしょうがないし、訓練は引き続きグラン師匠に見てもらえるしいいだろう。
「とりあえず今日は帰ろう、魔石もグラン師匠が持ってるしギルドへの報告は明日でいいだろう」
「ええ、今日はゆっくり休んでください」
馬車の停留所に歩いていくと、人混みの中から男の怒声が聞こえてくる。喧嘩だろうか?
「このガキ! 亜人の分際で、道の真ん中を歩くんじゃねえ!」
「ごっごめんなさい!」
なんだろうと人混みを覗いてみると、中年の太ったおっさんが、金髪の亜人の少女に怒鳴り付けていた。
「目障りなんだよ!貴様らは!」
するとオッサンは少女を蹴り飛ばす。
「きゃあっ!」
俺は気がつくと、身体強化をして走りだしていた。そして人垣を飛び越えて、少女とオッサンの間に着地する。
「なっなんだあ、貴様俺に文句がある……」
俺はオッサンの言葉にを待たずに、ムカつく顔面に拳を打ち込む。
「へぶっ!」
オッサンは5メートルほど飛んでいき、地面に顔から落下した。
「いい大人が、子供に暴力を振るうなって、聞こえてないか……」
倒れているオッサンを見ると、意識を失っていた。ちょっとやりすぎたか?
回りがすごいざわついている気がする。
おっとそれよりも、少女の方だ。振り返るとまだ蹴られた時のまま、座り込んでいた。耳とフサフサの尻尾、狐の獣人だろうか?金髪は少し汚れていて、ボサボサになっていて、目は澄んだ青色をしている。体は少し痩せているようだ。
「大丈夫?」
「うん……ありがとう、お姉ちゃん」
俺が大丈夫か聞くと、少女は少し怯えたように答える。あれ?やっぱりこのきつめの顔が原因か?……
「アイリいきなり飛び出さないでください。すごいお顔でしたよ」
するとリーニャが駆け寄ってくる。
「そっそんなに怖い顔してた?」
「うむ、あれは鬼じゃな」
俺たちがそんな話をしていると、近くにいた人が話かけてくる。
「あんた冒険者か? マズイやつ殴っちまったな。あいつはこの東地区の貴族である、ノック男爵の小飼の商人だ。この辺の商人を取り仕切ってるガーマンってやつだ」
「へー……。リーニャ知ってる?」
「いえ、そのガーマンは知りませんが、ノック男爵家は代々この東地区を管轄する貴族です」
なるほど、バックに貴族がいるからみんな口を挟めなかったわけか。
「情報ありがとうお兄さん、助かったよ」
「ああ、あんたも早くここから逃げたほうがいい、それじゃあな」
そう言うと、親切に情報を教えてくれたお兄さんは、去っていく。
さて首を突っ込むどころか、手を出したからには最後まで責任をとらないとな。
「とりあえずここから離れよう」
「そうですね、少し目立ちすぎました」
「お嬢ちゃん名前は?」
俺は狐人の少女に名前を聞く。
「るっ、ルナ……」
「ルナね、お家わかる?」
家の場所を聞くとルナは無言で、コクコクと頷く。
「よし!お姉ちゃん達が送ってあげるから、帰ろうか」
俺はそう言いながら、ルナを抱き上げ立たせてやる。
「こっち!」
ルナが歩き出すので、俺たちは着いていく。
「それにしても驚きました。アイリが子供好きだったとは」
「そうじゃの、子供なんて寄せ付けぬ感じなのにの」
「余計なお世話、それに子供にあんなことするやつ、許せないだろ?」
あんなやつは、殴られて当然だな、うん、もう一発くらい殴ってやればよかった。思い出したらまたムカムカしてきたな。
しばらく歩いていくと、亜人が多く見られる場所に来ていた。
「この辺りは、亜人が多くいるんだな」
「そうですね、まず他の地区だと亜人は住んでいませんし、彼らは東地区でも、この辺りの端で生活をしているみたいです」
なるほどね、亜人はこの辺りにまとめて、追いやられているという事か。
「お姉ちゃん、ここだよ」
そしてルナに案内されて到着した場所は、ボロボロの教会だった。
「ここがルナの家……、ルナ家の人を呼んできてくれる?」
「わかった、シスターを呼んでくるね」
ここは孤児院か何かだろうか?
「シスターただいまー!」
ルナは走って教会の中に入っていった、そしてしばらくすると、ルナと恐らくシスターと呼ばれている、年輩の女性が出てくる。
シスターがこちらに気づいて頭を下げる。俺も会釈して答える。
さてこれからやることが増えそうだ。ここはキャンベル家の名前を存分に使わせてもらおうか、俺はそんな事を考えながら、ルナ達の元に向かったのだった。