★第5回 「『お弁当』が無駄にならずに済んで良かったわ」
結論を出すまで二、三日かかった。
その間ロキシーは別に催促するわけでもなく、話しかければ十年来の友人のように愛想よく応えてくれた。
「誤解が解けたみたいね。二人が仲直りしてくれて本当良かった」
マヤも胸をなで下ろしていた。
最後にいくつか質問があったのでロキシーにそれをぶつけてみた。
「どうして俺なんだ?」
「まあタイミングと後はインスピレーションかな。元々パートナーが欲しくて『キャラバン』にも申請してたけど、人手不足で中々まわしてもらえなくてね」
キャラバンとは彼女の所属する組織の名らしい。
「だから自分で見つけることに決めたその日に紙谷くんに出会ったの。私ってこういう勘を信じるたちで、あなただけは記憶操作しなかった。ほら、他で探すにしても一からストレンジャーのことを信じさせないといけないじゃない? それだったらダメ元であなたを誘おうと思ってね。まあ死体は回収済みだし、あなたが公の場で騒ぎだしたらその時は改めて記憶操作すればいいだけの話だからね」
「もし断ったら?」
「その時はみんなに全てを忘れてもらって、この学校を去るだけよ」
「いいよ。やる」
後から考えれば無鉄砲にもほどがあるこの決断。もしかしたらこの時の俺にはまだしっかりとした実感などなかったのかもしれない。
「本当にいいの?」
「自分で誘っといてよく言うよ」
「危険よ」
「あんな化け物が街をウロついている方が危険だろ」
「確かにね。まあ危ない時は私がポケットに入れて守ってあげるわ」
「早速先輩面かよ。そのうち見返してやるからな」
「ふふ、期待してるわ。でも良かった。絶対断られると思ったから」
「まあ数日とは言え、お前はがっちり俺たちの間に居場所を作っちまったしな。特にマヤはお前がいなくなると悲しむ。いや、記憶操作して悲しみはしないかもしれないけど、今の方があいつにとって幸せなことだけは確かなんだ」
「一応彼女にも関係することだしね」
「そこは拓実も入れてやれよ。奴だって殺されちまったら寂しくなる」
「もちろんそうね」
「じゃあ昼休みに屋上に来て。私も『お弁当』が無駄にならずに済んで良かったわ」
またまた意味深な言葉を吐くと、ロキシーは自分の席に戻ってマヤと仲良くお喋りを始めた。
次章から暗殺アクションになります。お楽しみに。