第35回 つつじ神社大祭/エピローグ
「ねえ、なんで日本のお祭りって屋台ばかり出てるんだい?」
正宗が難しい顔をして言った。
「僕は神道の儀式とかもっと文化的な行事に興味があるのにな」
「そりゃまあ人間誰しも腹は減るもんだからな」
拓実が焼きトウモロコシを頬張りながら答えた。
「ロキシーだって授業中弁当食い出したろ。あの美人だって腹が減ればあの有様だ。それなら俺たち凡人が何を我慢するっていうんだ?」
正宗は納得できないといった感じだった。
「まあ、確かに俗っぽいところも多いけど、これで結構いいところもあるんだぜ」
俺は懐で腕を組みながら言った。
今夜は三人とも浴衣を着て、つつじ神社のお祭りに来ていた。
「例えば?」
「別にそんな肩肘張って探さなくてもいいんだよ。お前の場合は見学というより研究しようとするから見落としちまうんだ。例えばほら」
俺は袖から手を出すと境内とは反対方向の参道を指差した。
そこには無数の赤い提灯が吊るされていて、暗闇の中でぼんやりと光を放っていた。時々風に揺れるその群れは、鳥居を抜けて街の方へ、見えなくなるまでどこまでも続いていた。
「うーん、確かにえも言われぬ美しさと妖しさがあるね」
正宗が感心すると拓実も頷いた。
「なんか別世界に通じてるみたいだな」
「二人とも気をつけろ」
その時俺はあることに気づいた。
「鳥居からこちらは神様に守られているが、そこから外は違うからな。あちらは化け物どもが徘徊する人知を超えた人外魔境。奴らめ、先ほどから俺たちを探し回っていたようだが、とうとう匂いを嗅ぎあてたらしいぞ。ほら、来た!」
暗い参道を歩く三つの影が見えた。
「ああ、確かに化け物だな。ここは俺に任せて二人とも逃げろ」
「いや、俺も残るよ。お前だけにいい格好させられないからな」
「じゃあ僕はマヤ様ね」
「おい、調子合わせろよ。何がマヤ様だ」
拓美の苦情も正宗にはどこ吹く風。
「春樹くんはあの女だろ?」
「人の話を聞けよ。しかも勝手に決めやがって。……まあ俺は香澄で文句はないけどな」
「男ども。何ニヤニヤしてんの!」
香澄が叫んだ。
「女の子の浴衣姿を真剣な顔で見る方が怖いだろ」
拓実が最もなことを返した。
「どう春樹、待望の浴衣ですよ。気に入ってくれたかな?」
マヤがクルリと回って浴衣を見せてくれた。
「良く似合ってるよ」
「とても美しいですよマヤ様。傾城傾国とは正にあなたの為にある言葉ですね」
「正宗くん。今日も変」
マヤは眉を潜め、正宗はショックを受けていた。
「女の子の扱い方、教えようか?」
「あの子たちには上手くいったのに……」
「多分お前の言ってることの半分も理解してなかったと思うぞ」
そういえば彼女たちには貸しがあったはずだが……。
みなの幸せそうな笑顔を見ながらふとそんなことを思い出した。
でももう覚えていないだろうな。
あの後、ロキシーはヘリで病院に運ばれた。なんでもそこも支援者の経営とかで、こういうことには慣れているのか手早く治療を行ってくれた。
マヤたちはあの時のことを何も覚えていない。今回ばかりは対象者が多い為、記憶の改竄にはとても手間がかかったが、それでも一週間とちょっとで全てが書き換えられた。
ただし設備の方はそう簡単にはいかなかった。机や椅子などは用意できたものの、壊れた壁や天井などを直すには時間がかかるからだ。
結局大きな地震で崩れたということにしてなんとか誤魔化したらしい。腑に落ちない人もいただろうけど、突貫工事で直して後は知らぬ存ぜぬで通した。
いつしか彼らの実感も夢の彼方に消えることだろう。
テストに関しては最終日の最終時間ということで被害は少なかった。みな最後まで受けられなかったが、それは誰しも同じ条件なのだ。恨みっこなしだ。
因みに俺はギリギリ二十位だった。自分のことより彼女の顔が立てられたことにホッとした。
「じゃあ何から食べる?」
「それより一度お参りしてからにしましょ」
案外礼儀正しい香澄の提案に拓実も素直に同意した。
拝殿へと続く道のりには、色々と目移りするものが多かった。美しい提灯の波と屋台から漏れる食べ物の匂い、それから横にはロキシーがいて、彼女は俯きながら歩いていた。前で騒ぐ拓実たちとは違って、俺たちはしばらく無言だった。
「記憶を失って一つだけ良かったことがある」
俺は覚悟を決めると口を開いた。
「言いたいことが素直に言えたことだ。バカになってその分身軽になったってことだろうな。あれから記憶を取り戻して、ずっと俺はどうなったんだろうと自問していたけど、結局あれも俺なんだから今でもそうすることが出来るはずなんだ」
ロキシーは何も言わなかった。
「つまり俺が言いたいことは……すごく綺麗だよってことだ。お前は気にしているかもしれないけど、そんな怪我のことなんて少しも気にする必要ないんだ」
彼女の顔や体にはまだ生々しい傷の痕が残っていて、あちこちカーゼが貼られていた。彼女はそれを気にしているようで、ずっと見られないように俯いていたのだ。恐らく今日この場に来るのにも少なからず勇気が必要だったはずだ。
俺の言葉に虚をつかれたのか彼女は一瞬驚いたが、
「ありがとう」
すぐに微笑んでくれた。
「すごく嬉しい」
俺も嬉しかった。
それから拝殿に着くと俺たちはお参りをした。
正宗が興味津々な様子でみなの拝礼を観察したり、拝殿を見学したりしていた。
「じゃあそろそろ食べようぜ」
「そればっか」
「あれ、マヤが言うには女の子は食べ物の話をすると幸せになるらしいが、お前は女の子じゃないのかな?」
「こんな綺麗な男の子がどこにいるって言うのよ!」
「自分で言うかね。うぬぼれが過ぎるんじゃないのか」
「あんたが言ったのよ」
「いつ?」
「覚えてないの? 紙谷くんが『クラスの綺麗どころを抑えようと思う』って言った時、私とマヤとそれからロキシーの名前を出したでしょ」
「忘れてた!」
俺も!
ロキシーが意味ありげな目で俺を見てきた。
「へえ、紙谷くんが素直に言いたいことって、こういうことだったの」
「断じて違う。あれは俺じゃない。俺に似た別の誰かだったんだ!」
「見苦しいわね。あれも俺だって言ってたじゃない。どうなのマヤ。あなたも何か知らない?」
「あのね、春樹は正宗くんみたいに女の子たちにチヤホヤされたかったんだよ」
「紙谷くん」
「汚いぞ。マヤに俺のスパイさせてたなんて。消してくれ。俺の記憶を今すぐ消してくれ!」
「消しても私は覚えてるわよ」
「私と香澄ちゃんも覚えてるよ」
「春樹くん。君は本当にくだらないことをしていたんだね」
「そもそもお前が悪いんだろ。これ見よがしに女の子たちをはべらかすから。俺はただクラスの男たちの為に義侠心で立ち上がっただけなんだ」
「言っとくけど、僕は別に彼女たちに下心があったわけじゃないよ。ただ慣れない生活の中で、色々と教えてもらいたくてそうしてただけなんだ。君も知ってるよね。僕が遠いところから来たってことをさ。だから色々と学んで、今はもう彼女たちの世話にはなっていないよ」
一斉にみなの視線が俺に集まった。
マヤやロキシーは分かるが、拓実、お前まで何をちゃっかり第三者みたいな振りをしてるんだ。お前も共犯だろ!
「ロキシーだってファンの男どもに囲まれてたじゃん。いい気分でお姫様みたいに振舞ってたじゃん!」
「あれは私を泣かす悪い人から守ってもらっただけよ」
「そう言えば春樹、ロキシーちゃんに謝った?」
「謝ったよな」
「謝ってないわよ」
「だからあれは原因をはっきりさせて、そいつに謝らせようってことに——」
「その原因が紙谷くん、あなたなんでしょ!」
そうだった!
やっぱり俺の調子はロキシーに出会ってから狂いっぱなしだった。
◇ ◇ ◇
「ほら、ラムネでいいだろ」
ベンチに座っているロキシーに俺はラムネを一本差し出した。
「開け方分かるか?」
「もしかしてこれでさっきのことチャラにする気?」
ロキシーは器用にビー玉を押し込むと唇をつけた。
「ダメかな」
「そうね。泣かしたことはこれで忘れてあげる」
「じゃあもう一本」
俺は自分の分を渡した。
「これでバカ発言の方も勘弁してくれ」
「これじゃあ紙谷くんの飲むものがなくなっちゃうじゃない」
そう言うとロキシーはラムネを俺の手に握らせた。
「返すんじゃないわ。あげるのよ。謝罪に対する私の答えよ」
マヤたちが射的をしているのが見えた。拓実が張り切って女の子たちの歓声を受けていた。
俺はラムネを一口飲んでロキシーを見つめた。
「どうしたの? そんな真面目な顔して」
ロキシーははにかみながら笑った。
「さっきのことでな、一つ疑問があるんだ。いくら考えても答えが見つからない疑問がな」
「何?」
「例の写真のことなんだけどな。あれ、いつ撮ったんだ?」
「紙谷くん、あなた思い出したんじゃなかったの?」
「オリジナルの記憶とキャラバンが作った記憶が入り混じってしまってな。あれ以来ずっと混乱していたんだが、いくら数えても足りない事実があるんだ」
「何?」
「出会いだよ。俺とお前が最初にあった瞬間、それが一つしかないんだ。お前が転校してきて、幸田がお前のことを紹介しているイメージ。それしか残ってないんだ」
ロキシーは息を飲んだ。
「これはオリジナルなのか?」
「違うわ。私たちが最初に会ったのは街の路地裏。学校ではないわ」
「そうか。あの写真は?」
「出会ったその日に撮ったものよ。それはあなたにも言ったはず」
「するとやはり」
俺はその手に群状金属を出した。マリーが手の中で震えていた。
「マリー、この蘇った記憶はお前のだったんだな」
「まさか! マリーに記憶があるの?」
「生物だから当然だよな、マリー」
ピシリと硬化したマリーは、やがて泡のように消えていった。
「恐らく除去を免れた一部のマリーは、俺の体の深いところに潜り込んでずっと隠れていたんだろう。密かに息を殺してね。そしてあの瞬間、俺に危機が訪れた時、臓器を作り肉や神経を補完することで俺の復活の手助けをしてくれたんだ。記憶はその時にコピーされた。全ては想像に過ぎないが、他にいい理由もないし俺はそうだと信じるよ。だからマリー、ありがとう。今こうしているのもお前のおかげだ」
トクンと右胸が鳴った。
「じゃああたなはタイム・トラベラーと同じように群状金属の臓器を使っているの?」
「そういうことだな」
「これからは一層気をつけてマリーの機嫌を取らないとダメね」
「マリー、誰かみたいにイジけないでくれよ。また死ぬのはごめんだからな」
「私はイジけたことなんてないわよ」
ロキシーは頬を膨らませた。
「今イジけてないか?」
「今はイジけてますよ。でも過去にはしたことないわ」
思わず笑ってしまった。
「お前のことを言ったんじゃない。俺のことだよ。それで全てを失うところだった。もうあんなのごめんだ。二度とやらない、約束するよ」
「……うん」
ロキシーはそっと俺に寄り添った。
「あの時、確かにマリーは俺の体を作ってくれた。でも心臓までは動かせなかった。それをするのは彼女じゃない。もちろんマヤの弁当でもない。俺の意思だけだ。戻って会いたいと思ったから、俺はそれを選択した。あの夜のことをお前に謝りたかったんだ。すまない。責めるばかりでお前の気持ちを汲んでやれなくて」
「私の方こそごめんなさい。あなたを裏切るような真似をしてしまって。あれから後悔の連続だった。何度タイムマシンを使おうと思ったことか」
「使わなくて良かったよ。危険だし、何よりそうしていたら今夜こうしてはいられなかったからね」
「春樹!」
マヤたちが射的の景品を掲げながら手を振った。
「これ見て。どう、ちょっとしたもんでしょ!」
「大猟だったようだな!」
「拓美がやったの。人間誰しも一つくらい得意なことがあるもんね!」
「どうだ、すげえだろ!」
したり顔で拓実が叫んだ。
「射撃でこの俺にかなう奴なんてこの世にいるのかね。いや、いないね」
「やれやれ。拓美の奴、挑発してるぜ」
「猪口才な!」
ロキシーは立ち上がった。
「拳銃使いのロクサーヌ様を知らぬとは、彼奴らめさては素人だな」
「頑張ってこい」
「行かないの? 勝負しましょうよ」
「これ飲んでから行くよ」
「待ってるわよ。逃げないでね」
屋台の明かりに照らされながら腕捲りする彼女の姿を見送ると、俺はラムネの瓶を下に置いた。
「おい!」
それから虚空に向かって叫んだ。
「何をそんなところで突っ立ってんだ」
振り向くと暗闇の中にポツンと正宗が立っていた。屋台で買った鬼のお面で顔を隠し、無言で俺の方を見ていた。
「お前、あれから俺と二人きりになるのを避けてただろ」
「だってさ、君は怒ってるんだろ?」
「許してやるって言ったろ」
「つまり一度は怒ったわけだ。正体を偽ったことに怒り狂ってたんだ」
「当たり前だろ。でももう許した。お前にも事情がある。ロキシーにもあったようにな。自分に都合のいい存在じゃないからといって、怒るのはもう止めたんだ。まあ横に座れよ。取って食いはしないさ」
正宗はおずおずとベンチに座るとお面を上げた。
「確かに僕は君らの仲を裂こうとした。それは悪かったと思ってる。でもそれは君に対する真心でもあったんだ。嘘じゃないよ。君が無邪気な顔であいつらに騙されるのを見てられなかったんだ」
「分かってるよ」
「学校が襲われたのだってそうだ。望んですらいなかったことなんだ。確かに中央には報告は上げたよ。そうしないと学校に残れないからね。でもあのバカどもが中立地帯である学校にまで乗り込んでくるなんて、想像もしなかったことなんだ」
「連中はまた来るのか?」
「過激派は中央から一掃されたよ。マヤ様に危害が及ぶところだったんだ。当然の処置だね。だからもう彼らはタイム・マシンみたいな高度な施設は使えない。田舎で芋でも作ってればいいんだ」
「お前はまだ俺がマヤと結婚してジャムシードを生み出すと思っているのか?」
「あの女に聞いたのかい?」
「お前に聞いたんだよ。屋上でロキシーと話してただろ」
「そうか。まあ正直今は胸を張れるだけの答を持ち合わせていない。色々あってその件には自信を持てなくなっている。君が死んでも僕らが滅びなかった理由が、君が父親ではないからか、それとも復活まで予定に組み込まれていたかが判断できないんだ」
「言っておくけど本人でもないからな」
「え?」
「チラッと俺がジャムシード本人だと疑ったろ? 駱駝の乳をマヤが作ってくれた料理に当てはめたら、あの復活もそう解釈できないこともないからな」
「まあね。でも考えてみたら、君があのお方なら群盗の頭首も同じプロセスで復活していないとおかしいんだよ。しかも君よりも先にね」
待てよ。この理屈だと……。
「もしかしたら君は群盗の方なのかもね」
正宗が俺の心を読んだかのように言った。
「そして拓実くんこそあのお方だったりして。食べたんだろ? マヤ様の鍋料理をさ。羨ましいね」
「お前、監視してたな」
「いや、拓実くん本人に自慢されただけだよ」
「そんなバカな。あいつもあの夜の記憶は消されたはずだぞ」
「もちろんかなり曖昧な記憶だったけどね。でも食べたということだけはしっかりと覚えていたみたいだ」
凄まじい根性だ。ひたすら自慢したいだけのくせになんて奴だ。
「でも鍋料理って手料理に入るのか?」
「そこは入れとこうよ。拓実くんの名誉の為にもさ」
「他人事みたいに言ってるけど、お前だってマヤの手料理食ってるんだぜ。やったよな。豚の角煮をさ」
正宗の顔色が変わった。
「まさか、いや、そんなバカな!」
「ストレンジャーであるお前がジャムシードであってなんの問題がある?」
「だったらあの女も食べたじゃないか!」
「あれは拾い食いみたいなもんだろ」
「でも食べたことには変わりはないよ!」
「神話を思い出してみろ。ジャムシードは男なんだぜ。どうやら俺たち全員がジャムシードの可能性があるみたいだな」
「おお聖女マヤよ。貴女は一体誰をお選びになるおつもりですか!」
正宗の言葉に俺は思わず吹き出した。
「一々芝居がかってんだよ、お前の言うことはさ」
正宗も照れ臭そうに笑っていた。
世界にはゆったりとした時間が流れていた。
「ここに来てこういう時間を経験してしまって、僕はある意味堕落したのかもしれないな。中央に知られたら怒られるよ」
正宗は困ったように頭を振った。
「でも堪らなく好きなんだ。こういう日常がね」
「不思議な奴だな」
「何がだい」
「ある意味呑気とも言えるな」
「敵である君と普通に喋っていることがかい?」
「ああ」
「それは君も一緒じゃないか。僕の同族が君らの同族を殺し、君とあの女が僕の同族を殺す。確かに僕は化け物だけど、言っちゃ悪いが君とあの女も昔物語の吸血鬼を地で行ってるぞ。ああ、勘違いしないでくれ。責めてるんじゃない。君も言ったように君らには君らの事情がある。だから僕には誰も何も責められないんだよ……」
正宗は哀しそうに笑った。
「ねえ、あの約束覚えてる?」
「親友になるって話か」
「覚えていてくれて嬉しいよ。今となってはありえないことかもしれないけど、あの瞬間だけは本当だったよね?」
「俺は今でもそう思ってるぞ」
正宗は俯いた。
「やれやれ」
そしてまたお面をつけた。
「言うじゃないか。ちょっと前まで女の子の口説き方を習ってたくせに」
「悪かったな」
正宗はクスクス笑うと立ち上がった。
「行こうよ。祭囃子をもっと近くで聞きたいんだ。せっかくお祭りに来たんだ。楽しまなきゃ損だよ。その時が来るまで、まだ僕らには日常が残っているんだからね」
「春秋堂のカードゲーム」では後書きを書きませんでしたが、今作は読んでいただいた方に一つモヤモヤしたものが残るだろうと考え、書かせていただきます。
「結局ジャムシードはどうなったのか? 」
そう思った方もいると思います。
自分の小説の書き方として、新人賞に投稿できる分量で構成を組みます。これを書き始めた当初は知らなかったのですが、ネット小説の場合もっと長大な作品が山ほどあるみたいで、なるほどそういう書き方もあるのかと思ったのですが、自分の場合性格的にそんなに長くは書けない。少なくとも区切りのいいところで一度幕を下ろしたいと構成を変えませんでした。
結果ジャムシードについてはほとんど分からずじまいで終わりましたが、それも予定の内。どうせ分からないならテーマをずらし「正体不明の存在に振り回される人たち」という
骨格で肉付けをしていきました。
この先を書くかどうかは未定です。重要な事柄以外は全然構成が出来ていないので。
とはいえここまで付き合ってくれた方もいらっしゃいますし、何より今作だけでは少し分かりづらかったこともあると考え、話せる範囲でのネタバレを↓に書きます。
最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。アルファポリスのバーナーをクリックしていただいた方、心より感謝します。
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今作はタイムトラベルものなので、ありがちですがオリジナルの歴史と改変後の歴史の二つが存在します。
オリジナルの歴史においてジャムシードはやはりマヤと春樹の息子でした。彼らには二人の息子がいて、長男は警察の高級官僚になります。ストレンジャーから見て「群盗の頭目」になるわけです。またこの家系は政府や警察、軍などの人材を輩出し、子孫にはあのアレックスもいます。アレックスが傲岸不遜な性格になったのも頷けるわけです。
そして次男がジャムシードになります。どうしてそうなったのかは書けませんが、何やら不思議な運命で「突如進化した」というよりもっと人為的な理由によってそうなりました。
さてこれらはオリジナルの歴史であり、それは今作では書き換えられてしまいました。誰によって? もちろんロクサーヌです。
大切なのは「自由意志を働かせること」と正宗が言っていましたが、今作においてはそれが歴史を変える方法。
春樹の時代はある意味「決定論」の世界です。未来が存在する以上、既に何が起きるか決定されている。じゃないとその先があるわけないですからね。
ただ未来人たちは因果律の壁を突破することにより、限定的にそれを突き崩すことのできる力があり、それには決定論とは対立的な概念である「自由意志」が大切なのです。
ここら辺は正宗が示唆していましたが、正宗自身やロクサーヌもそんなカラクリ知る由もありません。あの時、正宗が言ったのはあくまで人生論みたいな範疇の話なので。
あれだけ未来人がいる世界だと何か縛りを入れないと相当歴史が変わってしまうと考え、こうしました。バタフライ効果を避けたかったわけです。
さて改変後の世界はどうなったのか?
少なくともマヤと春樹は結ばれません。でもジャムシードが発生することは、ロクサーヌの告白後もストレンジャーが消えなかったことで明白です。
春樹の復活には本編で語られなかった要素がもう一つあります。マリーや本人の意思の他に改変後の「歴史」が彼を必要としたので復活できたのです。春樹を殺したストレンジャーは自由意志により殺すことを選択したのではなく、単なる事故だったので。(時間修復説でしたっけ? )
ということでこれ以降は春樹が鍵になるわけです。まあ主人公ですしね。




