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亜人狩り・群状金属・ロクサーヌ  作者: 本田百郎
紙谷春樹、化け物に一目惚れする
3/35

★第3回 「あ、今変なこと考えたでしょ?」

ロキシーは春樹が自分のことを可愛いと思っていることに、この時点で気付いているんですかねえ?


彼女がこの時点で春樹のことをどう思っていたかは、後々彼女の口から語られます。

挿絵(By みてみん)


 下校時間もまた微妙な空気になった。


 前にもいった通り、俺はマヤと拓実と三人で帰るのが習慣となっていた。だから当たり前のようにその日も二人が俺の後ろからついてきた。


 そこまではいいのだが、そこにロキシーもまた当然のように加わり、仲良さげに二人と話をしていた。拓実が男より女をとるのはいいとして、マヤもまた彼女と息がピッタリだった。気づいた時には俺は彼女に友達を盗られていた。


 校門を出たところでロキシーがマヤに言った。

「ねえ、ちょっと彼借りてもいいかな?」

「え、なんで私に聞くの?」

「まあ一応ね」

 ロキシーは曖昧に笑った。


「とにかく彼が私のことをちょっと誤解してるみたいだから、一緒に帰って話をしたいの」

「うん。いいと思うよ」

 マヤは小さく頷いた。

「いいなー、俺とも今度デートしてよ」

「バカ、デートじゃないから」

 ロキシーは慌てて否定した。

「マヤも勘違いしないでね。本当にそんなんじゃないんだから」

「大丈夫だって。私は春樹もロキシーちゃんも大好きだから、そんな二人が喧嘩してるなんて絶対嫌だし、むしろ今日はじっくりと話し合って、明日の朝には四人で笑って会おうね」

 そういうとマヤと拓実は俺たちを置いて帰っていった。


 マヤはともかくあの空気を読めないことには定評のある拓実までもが、きっちりと空気を読んだことには驚いた。というよりこの時ばかりは空気など読んで欲しくなかったので、結果的にやはり奴は空気が読めない男なのだ。


「さ、私たちも行きましょ」

 ロキシーが歩き出したので俺も仕方なく後をついていった。


 後ろから眺めると改めて彼女のスタイルの良さが良く分かった。このドキドキが恐怖によるものなのか、はたまた期待によるものなのか判断がつかなかった。


「なに後ろからジロジロ見てんのよ」

 ロキシーは足を止めて顔を赤らめた。

「並んで歩いて。変な人に後ろから見られたんじゃ落ち落ち歩けないわ」

 俺は黙って彼女に並んだ。


「ねえ、怒ってんの?」

 ロキシーは俺を指で突いて言った。

「何を?」

「あれからずっと黙りっぱなしじゃない。私はともかくマヤにもそれじゃあ、可哀想でしょ」

「なんでそんなこと気にすんだよ」

「なんというか、保護者みたいな心境なのかな。私は一人っ子だけど、もし妹がいたとしたらあんな感じなのかもね。だからあの子を傷つける人を私は許さない」

 なんで今日突然俺たちの間に湧いて出たこいつに、こんなおせっかい焼かれなきゃならないんだよ。

 俺は何も言わずに歩き出した。


「ちょっと待って。今度は早すぎる」

「いちいち注文の多い奴だな」

「並んで歩いてって言ってるの。先でも後でもなく一緒のペースで横を歩いて」

 そういうとロキシーは腕を組んできた。

「ふふ、逃がさない為よ」

 どっちの意味だ?

「分かってると思うけどマヤには内緒よ」

 ロキシーの顔と胸がこれ以上ないくらい近くにあって、俺の心臓は更に高鳴った。これまたこの動悸が喜びによるものなのか、それとも命の危険を本能的に感じているのか判断がつかなかった。


「ねえ、昨晩の事件だけど、あの後テレビとか地方紙で調べてもやっぱりどこにも載ってなかったわよ」

「それは知ってる」

 俺もスマフォで調べ済みだった。

「それでもどうしても気になるなら警察行ってみる? 死んだ人がいるなら家族が捜索願を出しているかもしれないし、それを見せて貰えば分かるんじゃない? 事件がもし本当にあったのなら、被害者側からも何かアクションがあるんじゃないのかな」

 確かにそうかもしれない。


「もしくは現場に行ってみる? その路地でもいいし屋台でもいい。まだ行ってないんでしょ」

「当たり前だろ」

「その当たり前ってのは時間がなくてって意味? それとも怖いから?」

 俺が黙っているとロキシーはニヤリと笑った。

「やっぱり怖いの? 意気地なし」

「分かった。行ってみようぜ」

「別にいいわよ。強がらなくても」

「強がりじゃない。確かに俺も気になるからな」

「そう来なくっちゃ。じゃあ最初にその男の人が殺された現場に行きましょ。ねえ、もちろんしっかり覚えてるわよね? 路地なんてたくさんあるだろうから、行ってからどこだか分からないなんて言わないでしょうね」

「大丈夫、覚えてるよ。汚ったない茶店の角を曲がった路地だ」

 ちょっと待て。


「じゃあさ、その汚ったない茶店に陣取って窓から監視でもしない?」

 まずいぞ。


「ほら、よく言うでしょ。犯人は現場に舞い戻るって」

 この時、俺は気づいてしまった。この女がやっぱり嘘をついていることに。


「ちょっとした探偵気取りってやつね。ちょっと面白くなってきたな」

 彼女は「その男の人が殺された現場」と言った。何故男だと分かるんだ? 学校で話した時、俺は確かに「前を歩く人」としか言ってないのに。


「ふふ、胸がドキドキしてきた。あ、今変なこと考えたでしょ?」

 ロキシーは悪戯っぽく笑った。


 彼女がどっちの意味で言ってるのか分からなかった。探ろうとも思わなかった。俺が気づいた彼女の嘘は、俺の死刑執行書のサインみたいなものだった。気付かなければもしかしたら何事もなく無事に家に帰れたかもしれない。明日も明後日もこの調子で過ごして、いつの日か俺の記憶が夢の彼方に消えたら、このロキシーという女ともそれなりに仲良くやれたかもしれない。


 でも気づいてしまった。嘘だということが分かってしまった。だからもう無理だった。


 俺は女の腕を振りほどくと全速力で逃げだした。カバンなんて放り投げてとにかく二本の足に命運を託した。


 俺の横を街路樹や電信柱が過ぎ去っていった。昨日と同じくらい、いやそれよりも早く走った。街角を何度も曲がって、あっちに行ったりこっちに行ったり。彼女の影も彼方に消えてそろそろ心臓も悲鳴を上げようとする頃、俺はようやく足を止めた。


 どうやら巻いたようだな。

 と思った瞬間、ロキシーの顔が上下逆さまになって降ってきた。

「どこをトチッたんだろ?」

 彼女はコウモリみたいに街路樹の枝にぶら下がっていた。

「でもまあいいわ。どうせバラすつもりだったから」


 もう走れなかった。体力よりも気力の方が残っていなかった。

 明日の朝刊の記事が想像できた。

「男子高校生のバラバラ死体発見される! 痴情のもつれが原因か?」

 こんなところだろう。

美人であればあるほど、こういう時は怖いもんです。

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