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亜人狩り・群状金属・ロクサーヌ  作者: 本田百郎
愛しのロクサーヌ
21/35

第21回 「終わったよ」

 その時、ふいにキャプラから連絡が入った。


「四体ともストレンジャーだった。応援も手配しているが、正直この時間では期待できそうにない。悪いが君たちだけでやってくれ」


「……だとさ。全く、人使いの荒い連中だよな」

 彼女は返事も返信もしなかった。

「ほら、殺ろうぜ。話は後にしよう」

 ただ魂の抜けた人形のような表情をしていた。


 よろい窓を開けると月の光と共に夜風が入ってきて、彼女と俺との間に吹いた。

 さんに腰掛け、プールにでも入るかのようにソッと飛び降りた。

 ロキシーも後に続いた。


「さて、どうする?」

 これまでにないほど体が軽かった。命が軽いと言い換えてもいい。

 破れかぶれだった。自分の命を値踏みして押したり引いたりする必要がなかったから。


「取り敢えず一人一体相手をするとして、後ろの二体は『堅牢』に閉じ込めておきましょ」

 キャプラの奴、寝ぼけて座標を間違えてくれるなよ。


「足止め出来る時間は十分よ。それまでにカタをつけて」

「じゃあ、タイミングのいいところでやってくれ」

 眼前ではまさに今、奴らが化物へと変身していた。


 俺はハンドガンを出して後ろを歩いていた奴らに一発ずつ撃つと、距離を詰める為に跳躍に跳躍を重ね、右の大きなストレンジャーの顎をその手で打った。


 ほとんど奇襲とも言える俺の攻撃に、ストレンジャーたちは慌てふためいていた。


「ちょっと、突っ走んないでよ」

 ロキシーが並んだ。

「ちゃんとコンビで動いて」

「それより壁は出現したか?」

 答えを聞くまでもなく、後方の二体は立方体の透明な空間で足止めを食らっていた。


 さて、俺の相手、角が巻き気味のそのストレンジャーは、体勢を立て直すと嵐のようなラッシュを打ってきた。


 俺が奴らとこれ程までに正々堂々対峙するのは、テスト以来初めてのことだった。

 いつもは暗殺なのでその必要がないからだ。


 そいつは確かにあのもやしっ子よりもスピードは早かった。

 パワーもあり腕も長かった。


 しかし俺は既に奴の懐に入っていたので、その長所の少なくとも一つは潰していた。


 俺の頭の中にはストレンジャーと戦うにあたってある一つの形があった。

 それはテストの時の経験を生かし、更に発展させたものだった。


 まず奴の攻撃を手のひらや腕で受ける。

 そしてそれを都合のいい方向へと流してやる。

 これを繰り返すことで隙のない攻撃にも僅かに隙が出てくる。リズムのズレと言ってもいい。


 ここまでは前回とさして変わりはないのだが、今回俺はハンドガンではなくデリンジャーを出現させることにした。

 ハンドガンより小ぶりの銃だ。


 これは威力が落ちる為あまり使う人がいないという話だが、俺は手のひらにすっぽり収まるその小ささに魅力を感じていた。


 ストレンジャーの両腕が見事に左側に流れた時、最初のチャンスが訪れた。


 俺は小さくフックを打つ体勢を取ると、つま先から膝、腰、肩にかけて次々にギプスをはめていった。それは他から見たら、体の上を煌めく水銀が流れていくように見えたかもしれない。


 それから殴る要領で拳を当てると、一緒に引き金を引いた。 


 ギャッと化物が悲鳴を上げた。食いしばった牙と牙の隙間から息が漏れた。


 それは致命傷にはなりえなかったが、ダメージはダメージだ。ハンドガンよりも隙が出来づらく、このレベルの化け物相手でも通用したのが嬉しかった。


 この攻撃は、敵の攻撃とほとんど同じタイミングで決まる。奴が打ち、俺が流してデリンジャーを撃つ。スローで見れば段階はあるものの、生で見る限りでは相打ちみたいに見えた。

 正に攻防一体のものだった。


 これを繰り返していくと、段々と化物が攻撃するのを渋るようになった。

 奴からしたら絶対にもらうカウンターなのだ。ならば打ちたくないと思うのも当然だろう。


 とうとう化物が本当に攻撃を止めてしまい、二三歩下がると助けを求めるかのように後ろの一体を見た。


 そいつがボスなのだろう。

 ボスは堅牢の中で盛んに何かのゼスチャーをしていた。


「前を見ろ! 怖気るな!」

 そうとでも言っているのだろうか。


 化物が渋々前を見た時、その目に俺の出現させたキャノンが映っていた。


 慌てたところでもう遅く、哀れにも奴の頭は爆発。周囲に肉片が飛び散り、血はシャワーのように俺の頭上へと降り注いだ。


 そのままロキシーの相手を確認。既に弱っていたのでこれはいい。


 堅牢が解除されるまでにはまだ時間が残っていたので、俺は精神を落ち着かせることにした。


「マリー、調子はどうだい?」

 マリーは高ぶっていた。とても精神を落ち着かせるどころではなかった。

 俺は考えを改めた。


 俺は禅僧じゃない。あんなに高尚になんてなれないし、特に今夜は到底無理だ。


 そこで俺は血の臭いが誘う方へと身を委ねることにした。するとえも言われぬ高揚感が湧いてきて、背筋がゾクりとざわめいた。


「おい、後何分で解除される?」

「一分切ったわ」

「正確に言えよ」

「四十五秒」

 じゃあ今は四十四秒か。


 俺は時計を見ながら二体のうち一体を選んだ。先ほどのボスだった。


「遅いな」

 ロキシーはまだ戦っていた。三十秒を切った。


「そっちが早いのよ」

 今夜の彼女は俺とは逆に体が重そうだった。さっきのことで動揺しているのだろう。


「手伝おうか?」

「大丈夫よ。それより解けた後のことを考えて」


 それはもう考えている。残り二十秒。


「なあ、なんでマヤのこと教えてくれなかったんだ?」

 ロキシーは無言だった。残り十秒。


「最初からマヤのことが知りたくて俺に近づいたのか? あの出会いですら偶然じゃないのか?」

「あれは本当に偶然よ。だからあの時は本当にびっくりした」

 残り二秒。彼女は答えなくない方の質問にはとうとう答えてはくれなかった。


 俺は右腕を前に突き出すと、子供がよくするように手で銃の形を作った。

 それからずっと我慢し我慢させていたものを解き放った。


 マリーが俺の腕をその身で覆い、

集結化(ギャンギング)……」

 手にはキャノンが形作られた。


 ゼロ。


 全ては一瞬だった。

 堅牢が消え、ボスがその右足を前に出す。同時にキャノンから弾が放たれ、スイカのように奴は()ぜた。


 呆気ない。これが映画なら客が帰ってる。


「ついでだ」

 時間に余裕があったのでもう一体の方も殺しておいた。

 奴は既に戦意を喪失していたが、俺の知ったこっちゃない。

 ヨロめいて倒れてクタばる寸前まで、奴は自分の胸に空いた風穴を覗き込んでいた。

 

 心臓でも探しているのかな?

 それなら俺が潰しちまったよ。


 振り向くとロキシーが戦闘を終えていた。


「風呂、入っていいかな?」

 彼女はまた何も言わなかった。


「シャワーが浴びたいんだ」

 ただ唖然とした表情で俺を見ていた。


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