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亜人狩り・群状金属・ロクサーヌ  作者: 本田百郎
紙谷春樹、忍び寄る影になる
10/35

第10回 「撃って!」

 男は俺たちの前に座った。ランニングシャツを着て短パンを履いていた。部屋もそうだが質素というか物欲がないように見えた。


「今日は暑いですね」

とロキシー。

「そうだな」

「喉乾きませんか?」

「乾いた」


 そこで話題は止まった。


 俺たちはじっと男を見つめた。これほど物欲しげな目をしたのは初めてだった。


「水飲むか?」

「是非!」

 男は立ち上がると背後にあった流し台に向かった。ロキシーがこれ以上ないくらい俺に目で訴えかけてきた。


 分かってるって。

 俺は立ち上がると男の背後に忍び寄った。


「コップがない!」

と男が言った。


 コップなんてどうだっていいだろ。

「お茶碗でもいいですよ」

とロキシー。


「茶碗もない!」

 男まで後二メートル。俺は更に距離を詰めた。

「何でもいいですよ」


 ここで俺は堪えきれずに腕を伸ばした。一メートルくらい先に男の頭があった。


「なんにもない!」

 この家には食器がなかった。


 ロキシーは困って言葉を詰まらせた。「じゃあ水はいいですよ」とは言えなかった。振り向いてしまうからだ。


 ロキシーが俺を見て首を振っていた。もう時間がなかった。どのみち奴は振り向くだろう。


「あのー、トイレありますか?」

 男はゆっくりとトイレの場所を思い出していた。


 ◇ ◇ ◇


 アンケートは事前に用意されていた。恐らくはキャラバンが用意したのだろう。

 質問を見て思わず吹き出しそうになった。


 例えば「あなたはニクテレウテス・プロキオノイデスを何で知りましたか?」とか「ニクテレウテス・プロキオノイデスとはいつ恋に落ちましたか?」など、どう見てもふざけているとしか思えない代物だった。


 キャラバンのクルー達がケラケラ笑いながらアンケートを作っているのが目に見えた。


 しかしストレンジャーはそのおかしさに一向に気づくことはなかった。それどころか文字すら読めない有様だった。


 仕方ないのでロキシーが一問一問真剣に読み上げて、ほとんど誘導するようにして答えを記入していった。


「第十五問。あなたはニクテレウテス・プロキオノイデスとどういう関係を築きたいですか? 1、三角関係。2、上下関係。3、友好関係。4、師弟関係」


「三角関係って何だ?」

「例えばこの彼のことを好きな女性が二人いたとします。彼はその内一人を好きになる。これが三角関係です」


「どうして三角関係っていうんだ?」

「三人を点と考え、それを線でつなぎ合わせると三角形になるからです」


「三角形ってなんだ?」

 そこからかよ。


 痺れを切らしたのは俺だけではなかった。ロキシーはそこで徐に鉛筆を落とすと、アッと言ってストレンジャーを見た。


 空気が止まりストレンジャーはきょとんとした顔をしていた。


 拾え! さっさと下を向け!


 願いが通じたのかゆっくりとストレンジャーが下を見た。鉛筆はうまい具合にテーブルの下に潜り込んでいて、奴は更に体を傾けてそれを探した。


 躊躇はしなかった。

 焦りもしなかった。

 腕を伸ばした。


 銃口と頭部が一直線に重なった。


 その時、トンと奴が頭をテーブルの角にぶつけた。この間抜けな生き物は最後まで間抜けであった。


 ストレンジャーは頭を撫でながら上げた。俺の銃口の真ん前だった。


「撃って!」

 パウッと銃声が轟いた。奴の耳が吹っ飛んだ。二発目は撃てなかった。ギプスは綺麗に消えて無くなっていた。


 ストレンジャーが咆哮を上げた。ライオンすらも泣き出しそうな凄まじい叫び声だった。

 それから目を爛々と輝かせながら巨大化していった。体の奥から外へと送り込まれるようにして筋肉が膨らみ、牙と爪もまた伸びていった。


 俺は言われた通りに距離をとった。また手は出さずに見送った。ロキシーが何か叫んでいたが目の前の敵に気を取られて聞いていなかった。


 ストレンジャーは悠々と変身を完了し俺の前に対峙した。

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