黒の剣士
神を定義するというのならば難しいのではあるが、スチームクロミシアにおいての神は絶対的なものであり救うものではない。
寧ろ気まぐれな自然災害のようなものだ。
意志があるだけ面倒で恐ろしい化け物でもあり、加護を得ればそれは素晴らしい味方になるだろう。
そういった背景からも予測されるとおり、創世神の存在も認知されており、すでにこの世界から去っていったのも知られている。
その上最上位に位置する神達も不在になり、欲深い人間達は信仰を捨て世界を征服しようと動き出す国もいる始末だ。
世界は混迷の一途を辿り秩序も崩壊しかけているといってもいい。
だがそんな中でもギルドというものがあり、民衆の盾として機能する選りすぐりの冒険者を囲う世界をまたにかけた組織がある。
彼等の仕事は多岐にわたり、戦争の抑止や要人の護衛、はてはこの世界に存在する魔獣や賞金首の討伐も含まれている。
F~Sというランク制度をとっており、見習いから達人までの冒険者を選別しており依頼にあわせて派遣をしているのだ。
いまやギルドは世界の調停を担っていると言ってもいい。
だがそんなギルドにも不穏な空気が漂いはじめている。
「----クロノ君といったか、あの子は恐らく人族ではあるが、純粋な人族ではないな」
片眼鏡をかけたオールバックに白銀の瞳と髪を持つ長身の穏やかな空気の青年は苦笑する。
彼の名はシルバ=ブレット、吸血鬼と人間のハーフであり、祖父と祖母に狼男と魔人族を持つ優秀なサラブレットである。
現在雨が任された大地より東方のミストレインの街のギルドマスターをしている。
「10年前の大魔導戦争からようやく復興してきたのにここで爆弾をかかえることになるとは、あの子は間違いなく神から産まれた子だ」
シルバはある特性を持ち魂を見抜く力を有しており、彼自身Sランクよりも上のオーバーランクとされる実力が未知数の男である。
だが彼は他種族に関して非常に寛容であり、理解のある男であり、寧ろ闘いを好まない性質の男でもある。
ギルドの総本山にいるグランドマスターからは異種族との橋渡し役として期待されている。
「----恐らく異世界の神、レクセウスが今度連れてくるといっていた[殺戮と守護]を司る神の子だろうな」
シルバはレクセウスとはあるきっかけで知り合い意気投合をし加護を受けている。
「----あの子の実力は少なくとも僕やこの世界の名だたる人々を越える逸材」
シルバはため息をつく。
「早急にランクを異例のSにしたけれども、恐らくギルドを抑える事は無理だ、痛い目にあってもらいますか」
最近のギルドの風紀の乱れを気にしつつ
「[黒の剣士]----いい二つ名がついたものだね」
黒髪の幼い少年を思い浮かべながら笑みを浮かべた。