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芋虫日記  作者: 小林晴幸
24/25

6月17日のこと 

 今日の朝、5時半ごろ。

 いつもの通り蛹ちゃん達に朝のご挨拶――……に行って、異変に気付いた!

 「パセリ」さんの色が変わっている!

 黒っぽいのに、なんだか色が浮いているというか……表面白っぽいというか?

 一瞬、カビが生えたかと錯覚。

 顔を寄せてよくよく観察してみると、違うと気付いて胸を撫で下ろした。

 だが、別の意味で昂った。


 蛹の皮の、下の色が透けている……!


 昨夜までは確かに緑だった蛹。

 その羽化が近いことを、はっきりと確信する。

 蛹の皮が、少し浮いているのだろうか?

 表面が白っぽい、とか。

 なんだか浮いている、とか。

 そう思ったのは、皮が透けていたから。

 皮の下にあるのはもうどろどろのナニかではなく、しっかりと蝶の形をしているのだろう。

 皮に包まれた中身の色が、透けて見えた。

 それは確かに、蝶の羽を連想する姿で。

 アゲハチョウの黒に、黄色。

 絶対に緑ではない鮮やかな色。

 うっすらとした輪郭が見える。

 昨日まで濃い緑色だった部分は黒っぽい色に取って代わられ、蛹の形に添って成長した姿が見える。

 背中側を見てみると、一部の皮は既に剥がれたボンドのように白く薄く浮いていた。


 「中のひと」はやっぱり死んでいなかったんだ……! 

 動く度に生存を確信していたけれど、一晩、数時間で劇的に変わったらしい中身に感動する。

 私が興奮して騒いで初めて、両親も気付いたらしい。

 おい、食卓の上にあったろ。

 朝ご飯を食べる際、気付かなかったんですか。


 両親と三人、これは今日か明日にでも羽化するんじゃないですか?と期待が高まる。

 父はカメラを持ちだし、写真を撮った。

 残念なことに、今日も私は仕事がある。

 両親も今日からこの週末はいない予定だ。

 もし今日、家人が出かけた後に羽化したら……

 「パセリ」さんは、家の中を縦横無尽に飛び回ることになるかもしれない。

 私達は、即座に部屋の扉を閉ざして密室にした。


 父が私に仕事を休めば?といったが、蝶を理由に休めるはずもない。

 できれば職場に持って行きたくなってしまうけれど。

 流石に仕事にならないので、今日の日没以降に羽化してくれることを祈るばかりだ。

 そんな人間側の身勝手を、斟酌してもらえるはずはないけれど。


 今週末の土日は出かけられないな、と。

 私は習慣にしている土曜の外出を脳内予定から削除した。

 「パセリ」の羽化が目に見えて近い。

 ……ということは、つまり。

 「セリ」の羽化も近づいている、ということだ。

 「セリ」さんの方も確認してみるが、こちらも最初の頃に比べて色が黒っぽくなってきたかな?とは思う。

 だけど「パセリ」さんと比べると差は明らか。

 こちらの方は現段階の「パセリ」さんより、やっぱり一日くらい変化が遅れているように思える。

 二者の変化は、いつも一日違い。

 生育環境に違いはないはずなので、もしかしたら元々孵化からして一日違いだったのかもしれない。


 昨日の夜、「パセリ」と「セリ」をじっくり見比べていて。

 思ったことがある。

 それは彼らのお腹の部分。

 腹側とか、背中側とかではなく、お腹。

 昆虫の、あのぷにぷにとした横に節の入った部分だ。

 蛹の段階でも下の方は横に線が入った、お腹っぽい感じだったけど。

 昨日「パセリ」を観察していて、なんだかツヤッとしているな?と思ったのだ。

 「セリ」を見ると、お腹に走った横線はまるで木片にカッターでつけた切り込みみたいに、線が沈み込んでいる感じで。

 だけど「パセリ」のお腹は、横線が隆起している感じと言えばいいのだろうか?

 乾燥したみたいに見えていた皮が引き延ばされ、芋虫の頃を思い出させるツヤッと具合。

 なんなんだろう、この違いと首を傾げていた。

 前にも書いたが、「パセリ」の蛹は皮の一部がぺろっとめくれている。

 皮がめくれて見えている部分は、茶色く飴色になり、色が濃くなっていた。

 そのこともあって、何か良くないことが起きやしないかと心配していた。

 お腹の皮がツヤ☆としていることも、その一環じゃないかと思ったけれど。


 今朝、確実に羽化に向かって成長を遂げているだろう、二匹の蛹を見て。

 「パセリ」は皮が浮いてきているし、どう見ても羽化まで秒読み段階に入りつつあるけれど。

 「セリ」の方も、よく見るとお腹の横線が浮き上がりつつある。

 昨夜の「パセリ」程じゃないけれど。

 おや、これは……成長段階の違いだったのだろうか?

 中身が皮から分離して形成されつつあり、その予兆なのだろうか。

 何もかも憶測だけど、「パセリ」の様子を見ると心配する必要はないように思えた。

 これから「パセリ」がちゃんと羽化できるか、そっちが心配ではあるが。

 ……羽化に失敗しませんように! 羽化に失敗しませんように!

 そんな感じに、切に願っていたのだけれど。



 そして、事件は起きた。


 時は今日の朝、八時半。

 八時五分頃に確認した時は、まだ慎ましく「パセリ」も磔にされていたのに……

 出勤する兄に、「パセリ」の近況を報告して。

 私も仕事に赴かねばならぬと、身支度に自室へ戻った。

 それから、二十分強。

 支度を整え、お弁当を作るべく台所へと向かった私。

 台所と食卓のある場所は遮られることなく繋がっている。

 それでも目を離した間に「パセリ」が羽化するかもしれないから。

 廊下に彷徨い出て、我が家の中を縦横無尽に飛び回られては困るから。

 だから、部屋を封鎖する形で扉(引き戸)を閉じていた。

 閉じていたのに。

 そんな部屋で私が目撃してしまったのは。


 

 食卓の上に、ぽつんと落ちた「パセリ」。


 

 ……の、抜けがら。

 蛹は、空っぽだった。


 私は混乱した。

 まさか目を離した隙に羽化しちゃったんですか「パセリ」さぁぁああああん!?

 私が目を離した隙に、どうやら「パセリ」は大人の階段を軽快に駆け上がって行ったらしい。

 残念だ。

 この上なく、残念だ。

 だが、気にするべきはそこではない。



 「中身(パセリ)」どこいった!?



 もう一度、繰り返そう。

 食卓の上、正確にいえば「パセリ」を磔にしていたミニ植木鉢から七cmくらい離れた場所に。

 ぽつんと落ちていたのは蛹の抜けがら。

 そう、抜けがらだけ。

 本体(パセリ)はどこにも見当たらない。

 空っぽの抜けがらは茶色い汁にまみれ、小さな水溜まりを作るのみ。

 ……汁が凝固する前に、キッチンペーパーで拭って捨てた。

 捨てる前に、芋虫の記録用に食卓に置かれているカメラで撮影するのも忘れない。

 何故なら父が「パセリ」達を気にしていたからだ。

 写真だけでも残しておけば、後で両親も確認できるだろう。


 今日は日中、家には誰もいない。 

 両親は既に朝の六時から旅立っていた。

 家に誰もいない間に羽化するかもしれないという不安が的中したようなしなかったような。

 家の中に誰か(私)がいたとしても、目を離していたら意味がない。

 というか私も、なんなんだろう。

 肝心のところは悉く見逃している気がする。

 ああ、何という無念。

 だけど本当に、それどころではなくて。


 抜けがらだけで、本体がいない。

 それはつまり、突如として家の中に侵入を果たした小動物に襲われた、とかでないならば。

 無事に羽化に成功したということだよね!?

 食卓の上も植木鉢も、どこを探しても蝶が落下している、なんて姿は見当たらない。

 どうやら「パセリ」は恙無く羽化を果たし、飛行能力を手に入れたらしい。

 ……落下した姿どころか、飛行する姿も羽休めする姿も見当たらないのだが。


 正直に言おう。

 私は、「パセリ」の姿を見失っていた。


 繰り返して述べるが、部屋の扉(引き戸)は閉じていた。

 念のため、挟んじゃいないよな?とドアの隙間も確認している。

 だというのに、密室の中。

 「パセリ(完全体)」の姿が見当たらないとはどういうことだろう?

 お願いだから、私に立派になった君の姿を見せてくれ。

 ほぼキアゲハだと確信はしているが、成長した姿はそれはそれでとても見たい。

 是非とも拝見させていただきたいのだが……なんで見当たらないのかな?

 私は部屋中を探した。

 大学を卒業した年にコンビニで買った虫取り網を片手に探した。

 この時点でお昼のお弁当を作ることは諦めていた。

 蛹から中身が離脱していたことに気付く前、冷蔵庫から出していたお弁当の材料にお帰り願う。

 今はそれよりも「パセリ」だ!


 正直、家に誰もいない間に「パセリ」が羽化することは半ば想定していた。

 だからこそ、ドアを閉じていたのだし。

 しかし羽化した後、その姿を見つけられないという事態は想像もしていなかった。

 だって、だってさ?

 キアゲハだよ? 揚羽蝶だよね?

 アゲハって大きくて目立つものなんじゃないの!?

 幼少期の私だって、目敏く見つけては捕獲していたような派手な昆虫だ。

 まさかそんなモノの姿が家の中で紛れてしまおうとは……

 天井も、床も、物陰も。

 出勤前の三十分、限られた時間で必死こいて探し回った。

 我ながら頼りなげな声が、「パセリ」を呼ぶ。

「ぱせりー、ぱせりー、どこー?」

 しかし蝶が返事をする筈もなければ、「パセリ」が一方的に付けられた名を認識している筈もなく。

 一応は私が「パセリ」の傍を離れている隙に出勤した兄にも、電話で尋ねてみる。

 兄は知らなかった。

 私は悲しかった。

 もしも兄が羽化したから外に出した、と言えば残念に思いながらも安心したのに。

 しかし家の中で所在不明となれば、いつどこで潰したり引き裂いたりしてしまわないとも限らないじゃないか!

 あんなに成長を楽しみにしていた芋虫を、完全たいにメタモル★フォーゼした途端、我が手で殺してしまうかもしれない。

 そう思うと、物凄く悲しいし不安になる。

 だけどどこを探しても見つからないのなら、時間を置くしかない。

 探しモノは時間を置くと見つかるって言うし。


 それに出勤時間が迫っていた。


 わーお、あと十分で家出なきゃ。

 「パセリ」「パセリ」と連呼しながら、虫取り網を片手にアゲハ蝶を探す時間は時間切れで強制終了。

 考えてみれば、まだ化粧もしていない。

 仕方がないので捜索は打ち切りです。

 だけど不安に思いながらも、パセリが腹を空かせた時の為にと餌になりそうなモノを探す。

 玄関で、母の蘭が咲いていた。

 蘭の植木鉢には、今夜一晩台所に出張願おうと思う。

 それからガラスのコップになみなみと水を注ぎ、それ以外にも買ったばかりのザクロシロップを水で薄めて小さなコップに用意した。

 蝶の飼育を舐めているようにも思えるが、何分いままで蝶を飼ったことがない。

 こんなドタバタの混乱の中で、急場をしのぐ為に何を用意すべきかがわからなかった。

 何しろ姿を見失うことからして想定外。

 また、本来なら羽化して問題がないようだったら、その日の内に大空に放つ予定だった。

 だというのに現実は、なんて無情。

 大空どころか、空と呼ぶには圧倒的に狭い部屋の中に解き放たれ、「パセリ」は行方不明だ。

 ドアを閉めていた限り、室内のどこかにはいる筈なのに! 本気で見当たらない!!

 ……カブトムシ用の樹液ゼリーとか買っとくべきだったか?


 前々から不安だ、不安だと私に心配ばかりをかける問題児だったが、なんてことだろう。

 「パセリ」はこんな、私が別れの期限だと考えていた羽化の時に至ってまで「パセリ」だった。

 私をどれだけ不安と混沌に陥れれば気が済むの、「パセリ」……!

 手のかかる子ほど可愛いっていうけど、心配し過ぎて鬱になったらどうしてくれる!?

 そんなことを考えている時点で鬱にはなりそうもないが、憂鬱にはなった。

 私は完全に、ちっぽけな芋虫だったモノに翻弄されていた。振り回されていた。

 ……少なくとも、感情面では。

 


 出勤時、バス停に向かいながら出かけた親父殿に電話をしてみる。

 報告内容は「パセリ」の羽化と消息が知れない件について。

 芋虫の成長を父も気にしていたので、是非とも教えてあげよう。

 ……そして気を揉むが良い! 私の不安のお裾わけだ!

 正直に言おう。

 不安に思う気持ちを誰かに半分押し付けて心の負荷を軽減したかったんです。

 ちなみに父は、今日は帰ってこない予定だった。



 とりあえず、今日は寄り道一つせず速攻で帰ろう。

 本当は小麦粉を買って帰りたかったが、そんなことは明日でも構わない。

 帰って一刻も早く、「パセリ」を見出したい。

 その一心で日中を過ごす羽目になった。



 

 そして、夕方。

 うっかり職場で捕獲してしまった蝙蝠在中の段ボール(小)を抱えて帰宅した私は、「パセリ」さんがいるだろう部屋へ向かった。

 朝からずっと閉鎖している、台所や食卓のある場所。

 私は「パセリ」を見つけることが出来るだろうか?

 不安に思いつつ、入室。

 ざっと見渡した時、「パセリ」は……いない?

 うろうろ、きょろきょろ。

 見て回っていると、いつの間にか怪しい影が……


 私は、とうとう「パセリ」を見つけた。

 さっきまでいなかったはずなのにね?

 朝、私が蘭を置いた側の窓。

 もしかしたら蘭に寄ってきていないかと最初に確認した辺り。

 引かれたレースのカーテンに、なんということでしょう!

 立派な揚羽蝶が、翅を広げて止まっていた。

 

 最初に感じたのは、「見つけた!」という安堵じゃなかった。

 あの心配と不安の種だった「パセリ」が無事に羽化したという、動かぬ証拠。

 ちゃんとした蝶になれた姿を見て、喜びが沸き上がる。

 感動してすらいたかもしれない。

 背中側から見て右側の翅が、左側よりちょっとだけ小さい気はしたけど。

 気のせいで済ませられるような、誤差の範囲内。

 静止している状況で拝んで、初めて「小さいかな?」と首を傾げるくらいのものだ。


 蝶を驚かせないよう、ゆっくりと近づきながら。

 私が最初にかけた声は、「パセリさん、おめでとう」というものだった。


 それから、「パセリ」捕獲劇が始まるわけだけど。

 当然ながら、迫り来る人間の魔の手に「パセリ」は抵抗するわけで。

 逃げようとばたばた翅を動かし、努力する「パセリ」。

 蝶の翅は脆い。

 幼少期、何匹もの蝶を犠牲にして私はそれを学んでいた。

 そうです、小林は幼稚園時代、素手の手掴みで蝶とか捕まえちゃうお子様だったのです。

 率直に言って、手掴みしちゃったらまた蝶の翅をびりびりにしちゃいそうで怖い。

 だけどこの時の為に、朝の内から私は虫取り網を用意していた!

 逃げようとした拍子に、「パセリ」はレースのカーテンと窓の間に行ってしまっていた。


 この時、窓を開ければよかったのかもしれない。

 しかしそこの窓は半分塞ぐ感じにほとんど閉鎖している窓だったので、開けるという発想が浮かばなかった。

 何故か大真面目に、昆虫に向かって「ごめんね、ごめんね」と口走りつつ網を振るう私。

 私も恐らく、早く捕まえようと焦っていたのだろう。

 虫取り網で「取ったどー!」と達成感たっぷりに捕獲し、玄関から外へ出る。

 網の中、窮屈そうに暴れる「パセリ」。

 つぶらな瞳、ふかっとしていそうな、柔らかそうな黄色い胴体。

 芋虫時代の謎のくびれは、成虫の姿に大きな影響を残してはいないようだ。

 黒く線が引かれ、黄色く彩られ。

 青い斑紋が印象的な立派な蝶の翅。

 あれだけ気を揉んだことも、過ぎてみれば馬鹿らしい杞憂だったように思えてくる。

 「パセリ」にとって今の私は、強引に捕獲してきた悪魔のような存在かもしれない。

 だけど「パセリ」の門出を祝う気持ちに偽りはないし、無事に成長した姿を本当に喜んでいた。


 放流した「パセリ」さんは、天高く、屋根より高く、都合よく晴れていた青空に小さくなっていく。

 坂道の空で、忙しく翅を動かしている姿も、都合よく晴れてくれていたお陰で良く見える。

 ご町内の裏にある山の方へと向かって、ひらひら、ひらひらと飛んでいく。

 ああ、ちゃんと飛んでいるなぁと。

 胡麻のように小さく遠くなっていく「パセリ」を、私は見送った。

 当然ながら、戻ってくるはずはない。

 これが永遠の別れになることだろう。



 その後、ミントの大量消費を狙ってシロップを作る予定で。

 庭に蔓延るミントを盛大に刈り取っていた時の事。

 「パセリ」達と出会ってから、何かあるとパセリにまた芋虫はいないかと見る癖がついていた。

 でもいつも「いないな」と思うばかり。

 もしいたとしても新たに捕獲する気はないが、「パセリ」達を養う為に盛大に伐採した身としては疚しい気持ちもある。

 「パセリ」達の食べ残しも、結構な量になる。

 思えば芋虫三匹を養うには、必要以上の量を刈り取った気がしないでもない。

 だけど彼らが蛹になって、一週間以上が過ぎた。

 切った枝が復活するわけはないが、刈り尽す勢いだった花穂は新たに伸びて、勢力を取り戻しつつある。

 そんなパセリを感慨深く観察していたら、見つけてしまった。


 わあ、キアゲハの幼虫さん、今日はっすー。


 新たな芋虫が、そこにいた。

 キアゲハの幼虫画像を検索した結果、確信が持てる。

 これは「パセリ」たちの後進に他ならないと。

 サイズにして、5mmあるかないか。

 そんな小さな、爪の先のような芋虫がいっぴきだけ。

 「パセリ」達も好んで食べていた、花穂の側に生える細い葉の上。

 蛹になる直前、彼らが前足で掴んでむしむしと食べていた葉っぱに、全身がすっぽりと乗っている。


 一瞬、迷うが……捕まえる気にはならなかった。

 今は「パセリ」の成長を見守り終えたばかりで、謎の達成感があった。

 それにまだ「セリ」の羽化が控えている。

 今から若いツバメに乗り換える気はない。


 だけど、小さい。

 一匹だけ見つけてしまった芋虫。

 こんなちっちゃい生物が、あんな立派な揚羽蝶と同じ生き物なのか、と。

 こんなに小さいものがあんなに大きくなるのか、と。

 改めて見比べて、成長ぶりに驚くような。

 本当に感慨深く、しばらく芋虫を眺めてしまった。

 パセリの奥に繁茂しているミントの伐採中にも、時折ちらちらと無事を確認してしまった。

 この小さい芋虫が今後育てるかどうかはわからないけれど。

 パセリの花穂も復活してきているので、彼いっぴきくらいはきっと我が家の庭が養えるだろう。

 これが二匹、三匹……十匹、と増えていったらどうかわからないけれど。



 

 さて、「セリ」の成長は何時も大体「パセリ」の一日遅れくらい。

 それが羽化にも当てはまるかはわからないけれど。

 「セリ」を観察していると、羽化は近そうな気がする。

 動いているところを見た訳でも、蛹の下が透けて見えた訳でもないけれど。

 明日、明後日辺りはあやしいな、と。

 やっぱり土日は家に籠る勢いで、虫かごに残された「セリ」さんの観察に費やそう。

 

 とりあえず、今夜はつきっきりで蛹の側に居ようと思う。 

 途中で寝落ちするかもしれないけれど。

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