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芋虫日記  作者: 小林晴幸
2/25

5月25日のこと

 最初に彼らに気付いたのは、5月25日のこと。

 その前日は確か雨が降っていた。

 庭のハーブが植えられている一画、その様子を見て「ああ……」と思う。

 ミント(推定)がまた、他の植物の領域に浸食しつつあった。


 明日は朝からお湯で煮出して、水筒に詰めて職場に持って行こう。

 そう決めていたので、私は母の剪定ばさみ片手に庭にいた。

 ミントだけのお茶は、あまり好きじゃない。

 だからローズマリーやレモンバームさんなど、成長が目についた植物も採取していく。

 

 そんな、中で。


 ふっと目に留まったのは。


 母が庭に植えていた、パセリ。


 いつもなら青々としている内に冷凍保存に走る母がいないので、好きに成長している。

 そんな、パセリの茎それぞれに。


 彼らは、いた。


 黒い芋虫に見えた。


 じっと動くこともなく、パセリにしがみついて微動だにしない。


 私の思考は一瞬停止してしまい、どうしたものかと困惑した。

 この場に母がいれば、即座に殺処分一択だろう。

 だけど私はこの後、職場に持っていくお弁当を作らなくてはいけない。

 時間がなかった。


 なので、父に芋虫の発見報告だけして、仕事に行った。

 黒い芋虫なんて、初めて見た。

 ちょっと気になったので、帰ったら忘れずに駆除しようと思った。



 そして、帰宅して。

 家に入るより先に、パセリを覗く。

 あれ?と首を傾げた。

 朝はあんなに沢山いた芋虫が、二匹しかいない。

 父に聞いてみると、昼のうちに父があの世に送ったらしい。

 二十匹くらいいたとは、父の証言だ。

 そんなにいたのか、とちょっとぞわっとした。

 

 まだいたよ、と父に言えば退治を頼まれる。

 私はビニール袋を片手に庭へと向かった。

 とりあえずビニール袋に放り込んでゴミ箱行の予定だった。

 だけど僅かも動かない割に、力強くパセリにしがみついている彼ら。

 大きい方はオレンジ色の角を出して威嚇してくる。

 小さい方は、強く掴み過ぎたのか緑色の粘液を吐いた。

 ビニール袋に入れて、ごみ箱に入れようとして。


 ふと、気まぐれがよぎる。


 ほんの出来心だった。

 けど、気になってしまった。

 

 この芋虫(ひと)たち、どんな成虫になるんだろう?


 私は長くしまい込んでいた虫かご(小学生時に購入)を引っ張り出した。

 小さなジャムの空き瓶に水を張り、庭のパセリを三本くらいカットして。

 芋虫たちをパセリに掴まらせて、虫かごにセットした。

 さあ、これで準備は完了。

 小林の芋虫観察が始まった。


 ちなみに父は特に止めなかった。

 虫かご(小さなバケツに蓋がついている形状)を食卓の上に置いていても、文句は出ない。

 むしろ苦笑気味に許容し、父は父でうっすら興味を持っているように思えた。



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