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芋虫日記  作者: 小林晴幸
19/25

6月11日のこと

 さて、昨日の夜、安定感皆無の「パセリ」さんを何とかすべく蛹ポケットなるものを作ったわけですが。

 動揺してあわあわ狼狽えた最大の原因を、昨日の観察日記に書き忘れていたのでここに書きます。

 今日は、特に蛹に様子の変わったところもありませんでしたし。

 精々が父と二人、蛹に関して意見を交わしたくらいで蛹そのものには何もない。

 朝になって試しに「パセリ」を蛹ポケットから分離できるか試したが、問題はなかった。

 それどころか蛹ポケットを少々浅く作り過ぎたせいで、「パセリ」さんがズレそうになるくらいだ。

 そんな些細な問題しか、蛹ポケットにはない。

 これで大きな不備があればあわあわと慌てた話でも書いただろうが、そんな不備はなかった。

 だから、代わりという訳ではないけれど。

 昨日の日記に書き忘れを見つけたから。

 昨日の工作中に目につき、大いに私の動揺をお誘い下さった事案について書こうと思う。

 昨夜、「パセリ」さんはこのままでも大丈夫かと恐怖を抱いた、最大の原因。

 それは。


 …………「パセリ」さんの、蛹を、虫かごから引っぺがして。

 そして、よく見て。


 「パセリ」さんの頭部から腹側の膨らんだところあたりまで、なんだけど。

 蛹の一部がペロリと剥けてしまっているように見えるのは、誰か気のせいだと言ってほしい。

 からだの中心線に沿うようにして、まっすぐ。

 なんだかパーツの一部が外れるようにして、何かがずれているのです。

 真ん中だけでなく、ちょっと横のところも。


 なんだか蜜柑の薄皮を半ば剥いた、みたいな感じで。

 ぺろっと、何かがめくれている。

 

 えっと、これって、私が原因ですか?


 昨夜、恐々としながらも割りばしで少しつついた。

 返って来た感触は、固まったような感じで。

 なんとなく時間が経って凝固したようでもあったけれど。

 今すぐどうこうしたわけではない……?

 いや、わからない。

 それでも蛹ポケットを作る過程でずれた訳じゃないと誰に言えるだろう。

 そう思えば思うほど、蛹を分解しかけてしまったのか!?……と。

 そんな恐怖が襲うわけで。


 よく観察した結果を述べると、なんといえば良いんだろうか。

 蜜柑の皮に例えたが、蛹を構成する皮の各パーツの、接続部分。

 間の線をふさぐように敷かれていたモノが剥がれかけた感じ?

 イメージとしては紙を貼り合わせるのに使っていたセロハンテープが、半ばまで外れてしまった感じ、といえば良いだろうか……

 何かがめくれてしまった、下に当たっていただろう箇所は茶色い溝となっている。

 その中心を線が走っているので、そう見えた。

 またずれた場所も、左右対称と言えばいいのだろうか?

 腹側から見て頭部に当たる、天辺の二つ並んだとんがり。

 頭部っぽい部分の左右に、まるで方のでっぱりのように張り出したとんがり。

 その、間。

 問題の箇所は頭部(暫定)と肩のような張り出した部分の中間地点から腹の方へと続く。

 胸のあたりで合流し、例えるならYの字がわかりやすいだろうか?

 「パセリ」の頭から腹へと続く、Y。

 そのYの下の方から、二股に分かれた途中までがずれてしまっているのだ。

 ずれた皮っぽいモノは正面から見て左側にズレ、蛹本体にくっついて凝固している。

 これは果たして事態としてはアウトなのか、セーフなのか。

 一応、昨夜のうちに生存確認は出来たようなものだ。だって動いたし。

 その上で敢えていうが、これって大丈夫なのか?

 私に際限なく不安を抱かせる、「パセリ」さん。

 「セリ」と見比べても、そっちの方はこんな皮のずれなどないのに。

 色々と不安要素満載の「パセリ」はある意味で大物かもしれない……。


 絶対に「パセリ」さんには無事に羽化してほしい。

 不安がどれだけあっても、そう思う。

 逆に言うと、それ以外に私の罪悪感を昇華する術はないように思えた。

 



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