6月5日のこと
報告:せっかく実験しようと思ったのに、まるっと無駄になったこと。
昨日の、夜。
とはいっても日付はとっくに変わってた深夜1時ごろのこと。
虫かごに細工したったろ、と材料を漁りまして。
考えた末に浅知恵全開でご用意致しましたるは、黒いビニールと画用紙と、古雑誌。
まずはカゴの片側半面に二重にした黒いビニールを貼りまして。
更にその外側から、なるべく光を遮断するよう二つ折にした画用紙の間に、雑誌のぺらっぺらな紙を何枚か挟んだものをぺたぺた。
気に入るとついつい買っちゃうマスキングテープでぺたぺた。
……無駄に可愛さを押し付ける水玉模様でも、まあいっか。
…………と、このような工作を成した夜から明けて、朝。
朝いちばんに芋虫の生存確認を行い、私は深夜の工作が無駄に終わったことを悟りました。
振動がかかるたびに、ぷらぷらと揺れる。
なんとも頼りない、縮んでしまったその姿。
「パセリ」さんが昨夜とは同じ場所のまま……
……しがみついているべき足を全て空へと投げ出し、揺れていた。
……って、え。
え!?
普通に驚いて、思わず目を寄せてまじまじと眺めてしまった。
だって虫かごの天井に、ですよ?
縮こまった体の、尻尾の先端にある吸盤みたいな足だけが天井に接触してる状態で。
完全に頭から足から、虚空に投げ出され……ているのに、体の角度は昨夜とあまり変わらない。
天井に張り付いた姿勢から、足だけが離れたような状態で。
しかも振動に応じてぷらぷら揺れる。
これはどういうことだ、と見て気付いたことは。
「パセリ」さんの身体……あの引き攣れたようなくびれと、丁度同じくらいの位置で。
白い糸のようなものが、二本。
「パセリ」と虫かごの天井を繋ぐように張られていた。
体の左右から伸びる糸と、尻尾の先端だけを天井との接点に、ぷらぷらぷらぷら。
え、もしかして「パセリ」さん……
このまま蛹になる、かんじ……ですか?
つまりは、そういうことだったのか。
天井に張り付く、縮むといった不審な行動は、蛹になる準備だった?
だとすると、前々日の夕方、虫かごの蓋のあたりを這っていたのも……?
だけどあの時は、新鮮なパセリをセットした途端、食らいつくようにしてパセリの方へと降臨・貪りタイムよーいドンしていましたが。
……あれ?もしかして食欲に負けて蛹になる準備とか後回しにしちゃった?
いやいや、そんなわけはないよねー……と思いつつ、そんな気がしてくる不思議。
だけどあの時が、どうだったとしても。
今、とても不安定な姿勢ながら、「パセリ」は蛹になろうとしているようで。
え。そこで?
蛹という発想が出てきた瞬間、困ったと思いました。
だって「パセリ」が張り付いているのは、虫かごの天井。
それも蓋の脇。
そんなところに張り付かれたら、いつ落っこちるかと不安で仕方ない……!!
うん、本気で不安です。
現状の「パセリ」さんが物理的にも不安定な状態だからこそ、なおのこと。
「セリ」の方は虫かごの底に横たわる、齧られまくって丸裸のパセリの茎にのびのびとしがみついていたんだけど。
「パセリ」がこっちの意表をついた場所で蛹になろうと準備を始めたものだから、こっちはものすっごくドッキドキです。
朝、虫かごの中を掃除すべく、虫かごの上部を外す行為が。
前も書いた気がしますが、私の虫かごはそんなに大きくない。
小さなプラスチックのバケツに、虫かごっぽい上部(出入り用の蓋つき)が接続されている形状で。
いつもの朝、虫かごの掃除は虫かご上部とバケツを分離させて行っていました。
だけど上部を外すってことは、「パセリ」を盛大に揺らしまくる行為で。
本気で「パセリ」が落下しそうで、ふんわりと恐怖を味わった。
そしてもう一つ、恐れていること。
というか懸念がありました。
それは「セリ」のこと。
脱皮する時は、「セリ」だけが一日遅れだった。
だけど一日の誤差で済んだってことは、成長具合がとても近いと思うから。
近日中に、今は定規で測って六㎝近い「セリ」も蛹になる気がする。
長さでは、「パセリ」。
だけどむっちり具合では「パセリ」に勝る「セリ」。
きっと成長もすぐに追いつくから。
だから、不安だった。
今のところ、毎朝「セリ」は己が丸裸にしたパセリの茎に掴まっている。
……このまま、パセリにくっついた蛹にならないかと不安で仕方ない。
古くなったり、傷み始めたパセリは捨てている。
だけどもしも「セリ」がパセリを支えに蛹になったら……
どうしよう。深刻に心配だ。
どうして私はもっと早めに止まり木を用意しなかったのか。
蛹が蝶になるまで、一週間以上かかると聞く。
その間、パセリの茎が保つとは思えない。
そんな心配を本気でした。
とりあえず、今「セリ」がしがみついている茎を捨てよう。
不安材料は少しでも減らしたい。
だけど朝、いつものことだけど。
「セリ」さん寝てますよねー……?
ぴくりとも動かない、「セリ」。
だけど動かしたいから最終手段に出ました。
さわ……
さわさわさわ……
捨てる予定のパセリの葉っぱで、「セリ」のお尻を止めることなく撫でまくった。
前にも一度、「セリ」のしがみついていた茎を捨てたくてやった手段。
直接触ると、潰してしまわないか心配になるから。
そんなことはやったことないけど、満員電車の痴漢になったつもりで撫で続ける。
なんかお尻つっつけば移動するって、ネットで読んだからー。
「セリ」さんは明確に嫌がった。
お尻をぴこっぴこっと振って、嫌がった。
やがて億劫そうながらも、己の尻を撫で続けるわさわさ葉っぱから逃げるように前進する。
残された後ろの方の足……騎士ガン●ムに出てくる『スライム的な何かの腕』っぽい足を、払う勢いで追い立てる私。
昨日庭から刈ってきた、パセリの一番太いメイン茎(切断)にご移動願って、改めてジャム瓶にパセリを活けていく。
だけど新しいパセリは入れなかった。
昨日入れたパセリはほとんど食べられておらず……それに、「セリ」が近いうちに蛹になるのなら必要ないかもしれないと思った。
ああ、昨日一新したのになぁ。
する必要がなかったかもしれないと、肩を落としつつ。
後から思えば、この時にパセリをほぼ撤去させておけば良かったのに。
今日は出かける予定があり、帰宅の予定はやっぱり夕方。
日中、パセリの茎で蛹の準備を始めないかと不安が募り……
実際に、夕方。
帰宅して一番に虫かごを覗き……
「ブルータス、お前もか……」
「セリ」が、虫かごの蓋のところに張り付いていた。
昨夜の「パセリ」と全く同じポーズ。
違うのは、まだ「セリ」がむちむちみちみち、ぷにっぷにの身体をしているということ。
だけどサイズは縦に縮んでしまい……測るとなんと四㎝。
朝は五㎝超えてたんですけどね……?
こいつもまた「パセリ」と同じく、虫かごの蓋口の淵……
「パセリ」と同じ場所に、己の足でむっちりと張り付いていた。
円形の蓋の淵、「パセリ」の位置を時計の12時に例えた時、7時か8時になるくらいの位置。
その足で、しっかりぎゅぎゅっと虫かごの一部をがっちり掴んで。
身長は縮んだけれど、言ってみれば凝縮されたような姿で。
まだ太さはむっちむちのような……気がする。
「パセリ」は朝と全く変わらない。
やっぱり不安定な、糸で支えられた体。
だけどなんだか幅も縮んだような……
その姿の印象は、鰹節に似ていた。
というかミイラっぽかった。
これが道端に落ちていたら、きっと私は死骸だと思う。
ああ、こんなに早く「セリ」も蛹の準備に入るなんて。
縮まった姿は、どう見ても昨夜の「パセリ」と同じ状態。
……だったら、明日の朝には「パセリ」同様の不安定な姿勢になっちゃうんだろうか?
本気で、どうしようと思った。
ぷらぷら不安定に揺れる芋虫(?)が二匹……落下させることなく、虫かごの中を掃除できる自信がない。
せめて、もうちょっと安定してくれたら。それかもっとしっかり固定されてくれれば。
明日はきっと、あまりに不安で虫かごの中を掃除できない。
何日も放っておくわけにはいかないけど、明日と明後日は開けられる自信がない。
しかしパセリ食った痕跡がほとんどないんだが。
……やはり、朝のうちに撤去するべきだったのかもしれない。
いつも食卓の上に置いていた、虫かご。
だけど食卓の周りは常に誰かが歩き回ったりして振動が伝わるから。
兄の提案で、あまり「パセリ」を揺らさずに済む場所に移すことにした。
和室のテレビの上を考え、慎重に虫かごを持ち上げて移動させる。
私自身が歩く都度、「パセリ」がプラプラ揺れて不安になった。
よく見たら「パセリ」の身体は、尻尾の先も既に虫かごの天井から離れている。
その体を支えているのは尻尾の先っぽと、くびれのところに張られた三~四本の糸のみ。
こわごわ運ぶ、その途中。
いきなり「パセリ」がピコンッと揺れた。
まるでエビのような勢いで、糸に吊るされた体の上半身が横に跳ねた。
驚いた私の口から思わず漏れたのは、「ひぃっ」という悲鳴。
歩いて移動することで伝わる振動に、反応したのか。
まるで鰹節のような「パセリ」はてっきり休眠状態か何かだと思ったのに!
歩く途中で、びくっぴくっと「パセリ」の上半身が揺れる。
というか、跳ねる。
この異変は何の前触れかと、戦々恐々。
和室のテレビの上に安置し、その場を離れた。
だけど少しして様子を見に行くと、ぴくっと揺れたり蠢いたりする「パセリ」がいる。
えっと、起こしちゃいましたかー!?
あまり見ているわけにもいかないので、その場は一時退散。
明日の朝、彼らがどうなっているのか……不安なようであり、楽しみのようでもあった。




