第21話 狡猾な魔物、なのです
その日の夜、野営地内は静けさに包まれていた。
普段なら聞こえてくるその日の戦果を自ら称える冒険者達の陽気な声はない。
娯楽の乏しい魔物討伐中に先輩騎士などから頼まれ、良家出身の騎士が自慢の楽器の腕前を披露することもない。
犠牲者が出たのだ。
魔生の森周辺に点在する開拓村を守るようにして、扇形にして配置された冒険者と騎士の混合されたグループのうち、6つのグループがサイクルサーペントの襲撃を受けた。
森から一定の距離を保ち、警戒して待機にあたるように指示を出していたが、サイクルサーペントの方が一枚上手だった。
魔物がほとんど魔生の森から出てこない状況で、ただ警戒して待機し続ける。
任務に当たった当初の集中力がいつまでも持続するはずもない。
少し気の緩みが生じたところで魔生の森から数体の魔物が飛び出してきた。緊張感が緩んでいたところに飛び出してきた魔物に対し、意識が集中してしまうのはやむを得ないことかもしれない。
だが、それは狡猾な蛇の魔物の罠。飛び出してきた魔物の方へと向かう騎士や冒険者達の背後を数匹のサイクルサーペントが強襲したのだ。
その結果、冒険者から20名、騎士からも5名の死者が出た。怪我人の数ならその倍以上の被害が出ている。
魔生の森周辺で魔物討伐をしている冒険者の数は約1000名、騎士の数は約500名。死者の割合は冒険者で2%、騎士で1%ほどに過ぎない。
だが、魔物討伐で死者が出る場合に、一度に数十名の死者が出たと言うのは近年稀な事だった。
直接の友人でなくとも、一人友人を通せば、知り合いとなりうる死者の数は冒険者に不信感を募らせる。
魔生の森でよく魔物を狩っている冒険者であっても、今まで見かけたことのない単眼の不気味な蛇。
それなのにその魔物の情報は騎士団からまともに与えられていない。
さらにはシルトバニア辺境伯領南西部の出身者であれば、幼き頃に聞いた詩の内容までは思い出せなくとも、単眼の蛇の魔物に靄のかかったような危機感を覚えていた。
「二十名、それに五名か」
死者の数の報告を受けたダルタニアが口にした言葉はそれだけだった。
死者が出るのは覚悟していた。その死は痛いが、それでも最悪の予想よりははるかに少ない犠牲者。
冒険者はもちろん、仲間である騎士の死に哀悼することもなく、ロッソエルと共にじっと地図に目を向け、考えを張り巡らせる。
仲間の死以上にダルタニアとロッソエルが頭を痛めるのは開拓村の避難問題。
今日、騎士達に開拓村に赴かせたが避難に難色を示した村が幾つもある。明日、まだ回れていない村と一度は避難を拒んだ村に再度騎士達を行かせる予定だが、全ての開拓村を避難させることはおそらく無理だろう。
「故郷を捨てることはできない、か……」
騎士の報告を思い出し、ダルタニアはぼそりと呟いた。
長年開拓を続けてきた村ほど、愛着もひとしおなのだろう。避難を拒んでいる村はいずれも開拓を始めてから20年以上が経過している村だ。
「気持ちはわかるが厄介だな」
ロッソエルは唸るように言葉に出した。
拒んでいる村が一つくらいならば、汚名を被ることを覚悟して強硬な手段も取りえたかもしれないが、避難を拒む村全てにそういった手段を取ることはさすがにできない。
「せめてもう少し纏まってくれていればな」
地図に記された避難を拒む村を確認しながらダルタニアはぼやく。
今のままでは多数の眷属を引き連れた単眼の王と対峙する際に戦力の分散は避けられない。
「再度説得に向かわせる者達に期待するしかないな。……ところでやはりまだ公表はできないか」
「……まだ無理だ。今日の報告を聞いただろ」
「他の魔物を追い散らし、我々の意識を逸らして後ろからという話か?」
ダルタニアは頷く。
単眼の王の眷属に過ぎないのに狡猾な手段を使ってくるサイクルサーペント。
獲物が油断するときを見計らい、さらにその油断を誘おうとしてくる相手だ。
開拓村の避難も完了していない状況で単眼の王やその眷属であるサイクルサーペントの情報を公表し、討伐隊が浮足立てば、それを好機とするだろう。
冒険者や騎士には悪いが、幾つもの村が廃墟となり、何百という村人の死が及ぼす影響を考えれば、今はまだ公表すべき時ではない。
「明日も被害が出るぞ?」
「注意喚起だけは行うが、それでも被害が出るなら……仕方のないことだ」
ダルタニアは目を閉じ、ロッソエルにそう答えた。
目を閉じ、耳を澄ませば、魔生の森の方角から木々が倒れるような音が聞こえてくるように感じられた。
今にも単眼の王が魔生の森を抜け、外に出てくるのではないかという不安が胸を襲う。
態勢の整わない今の状況で単眼の王と対峙することになれば、どれほどの犠牲が発生することになるか想像すると少し身震いするような心境にダルタニアは陥った。
そんな中、二人の耳に竪琴の優しい音色が聞こえてきた。
「こんな時にいったい誰だ?」
生真面目なダルタニアだが、その声には音色の主を咎めるような色はない。
「誰だって良いだろう。沈み込んでばかりいる思慮深い者よりは、楽器でも鳴らし明るく振る舞う底向けの馬鹿の方がよっぽど好ましい」
ロッソエルは口元に笑みを浮かべながらそう答えた。
「もう、こんな時に副隊長はどこに行ったのよ」
サイクルサーペントとの戦闘で負傷した冒険者や騎士の治療をようやく終わらせたミーシャはグラスの姿を探す。戦闘狂と目されるグラスだが、なぜか今日の魔物討伐には参加せず、野営地から離れることはなかった。
個人的に魔物討伐に参加しないだけならともかく、グラスは第4騎士団の副隊長という要職についている者である。
今日の第4騎士団の団員の被害や、明日の魔物討伐についての報告を行っておく必要があった。
ようやくミーシャは野営地の中心から外れたひと気の少ないところで静かに胡坐を組んでいるグラスの姿を見つけた。
「副隊長ー、グラス副隊長ー!」
遠くからその名を大きな声で呼んでもまったく無反応なグラスに腹を立てながら、ミーシャはグラスの傍へと近づいていく。
「もう、グラ……」
ミーシャはグラスの名前を呼ぼうとしたが、最後まで呼べなかった。
グラスの身体から青白い魔力が蒸気のように噴き出ている様子に目を奪われた。
濃密な魔力をひたすら研ぎ澄まさせ、肌寒いこの季節であるにも関わらず、額には汗を浮かべながら集中している様子に声をかけるのが躊躇われたのだ。
仕方なく、ミーシャはグラスの前で地に腰を降ろすとグラスが自ら自分に気づいてくれる時を待つ。
30分以上が経過し、おそらく1時間近くが経過した頃、ようやくグラスはミーシャに気づき、声をかけた。
「……ん?ミーシャよ、こんなところで寝ていると風邪を引いてしまうぞ」
「寝ていません。誰のせいだと思っているんですか?」
しばらくはグラスの瞑想している様子を見つめていたミーシャだったが、自らもグラスを真似て、瞑想していたというのに寝ていると思われたことが少々不愉快なようだ。
それでもようやく気づいてくれたことを機にミーシャは手早くグラスに報告を済ませる。
「ところでグラスさん、今日どうして討伐にも参加せず、こんなところに一人でいたんですか?」
ミーシャが入っていたグループは魔物と遭遇することなく、ずっと魔生の森を警戒し続けるという退屈な任務だったが、幾つかの場所では大きな被害が出ている。仮定に過ぎないが、それでもその被害を受けた場所にもしグラスがいればという思いがミーシャの中にはある。
「ああ、不参加を決め込んだのは悪かった。だが、そんな場合ではない。嵐が近づいてきているぞ」
「嵐?」
副隊長であるグラスには当然のことながら単眼の王の情報がもたらされているが、一騎士団員に過ぎないミーシャは単眼の王についての情報は与えられていない。
ミーシャが不思議そうに首を傾げた様子を見たグラスもそれ以上は口にはしない。
「まあ、いずれわかることだが、今は知る必要はない。ミーシャよ、俺は明日もこの場に留まる予定だが、お前たちも注意して任務に当たることだ」
明日もまだ単眼の王が森を出てくることはない。そんな確信めいた予感がグラスにはあった。
それならば、今グラスがやるべきことは単眼の王が森を抜け出た際に少しでも犠牲を減らせるように身体を休め、精神を研ぎ澄ませることだ。
グラスの言葉の真意はわからずとも、25名もの死者が出た翌日だ。油断などするはずがない。
ミーシャはグラスの言葉に深く頷いた。
「シンさん、空気が重いのですよ」
この日の夕食を食べ終わったジルはシンに話しかけた。
今までは夕食時には冒険者の明るい声や誰かが演奏する音楽がよく耳に入っていたが、今日の静まり返ったこの野営地の空気はジルにとって苦手なものだった。
「仕方ないだろ。犠牲者が出たんだし」
顔見知りになった騎士から、今日サイクルサーペントによって犠牲になった人数を聞かされたシンはそう答える。犠牲者が出た以上、こういった雰囲気に陥るのはやむを得ないことだ。知り合いに犠牲が出なかった者でも下手に明るく振る舞えば、不謹慎だと不愉快に思われる可能性もある。
(それにしても今日、魔物討伐に参加できなかったのはちょっと残念だったかな)
傲慢な考えかも知れないが、他の多くの冒険者や騎士と違い、サイクルサーペントや単眼の王の情報を得ているシンが仮に襲撃を受けた魔物討伐のグループにいたのなら、犠牲は減らせたかもしれない。
そして、上手く立ち回れば、それなりに功徳ポイントを稼ぐチャンスがあっただろう。
もっともそれはあくまで仮定の話、シンが参加したグループにサイクルサーペントの襲撃があるとは限らない。
だが、開拓村の住民から感謝されない避難の説得に比べれば、魔物討伐に参加していた方が何らかの成果が得られたのではないかといった思いもシンの中にはあった。
「でもでも、ジルはこんな雰囲気嫌いなのです!」
犠牲者が出て、暗い雰囲気になってしまうのはわかるが、それでもジルにはこの野営地の雰囲気が気に入らない。暗い雰囲気は悪い出来事を呼び込んでしまうような感じもするのだ。犠牲者が出たのなら、そんな時こそ明るく振る舞うべきなのだとジルは鼻息を荒くして、シンに主張する。
「もう、うっせーな。俺だってこんな雰囲気好きじゃねえよ」
そう言って、シンは魔力袋から取り出した人形サイズの竪琴をジルに手渡す。
こんな雰囲気の中で、ジルの愚痴を聞かされるよりはジルの演奏を聴いている方がはるかにマシ。
シンはそう判断した。
「誰だってこんな雰囲気好きじゃねえんだ。馬鹿みたいに騒ぎ立てなきゃ、誰も文句言わないだろ。だからジル、なるべく明るいのを頼むぜ」
シンの要望に対し、ジルは自信ありげに頷いた。
「わかったのです。ジルがシンさんのために作詞作曲してあげた応援歌を特別に聞かせてあげるのです。エンジェも音に合わせるのですよ」
ポロン、ポロンと竪琴を弾き、指を慣らしながら、ジルはシンの座っている近くで丸まっていたエンジェに声をかける。
少しばかりウトウトとしていたのだろう、急に話を振られたエンジェは訳も分からず、首を傾げて、シンとジルの方をキョロキョロと見回している。
「……ジル、演奏は頼んだけど、歌はいらねえよ。演奏の方はそこそこ上手いのは認めるけど、歌の方ははっきり言って騒音だからな」
「ちっちっち、シンさん、それはきっと音楽性の違いなのです。ジルは音痴じゃないのです」
「音楽性の違いとか気取って言ってたんじゃねえよ。音痴は自覚できないから音痴なんだよ」
「もう、シンさんは酷いのです。言っていいことと悪いことがあるのです」
ジルは口をとがらせてシンに抗議をするが、シンの方はジルの相手をせずにそっとエンジェの頭を撫でる。
「はあっ。起こしちまって悪いな。ジルの言うことは無視しといていいぞ。それに今日は疲れただろう、エンジェは目を瞑ってしっかり身体を休めておけ」
だがエンジェの目はしっかりと見開いたままだ。
今日は騎士達の乗る駿馬、レッドホースと長時間並走する形となったがエンジェからすれば、本来6級の魔物に過ぎないレッドホースと走って疲れたと思われるのはエンジェの沽券に関わるのだ。
そして、エンジェはシンから距離を取り、ジルのすぐ傍まで近づいて、まるで準備は万端だと言わんばかりにミャーと一声鳴いた。
「やっぱりエンジェはジルの味方なのです!それじゃあ、エンジェすぐに始めるのですよ」
シンはジルとエンジェを止めようとするが、二人はシンの言うことを聞かずに合唱を始める。
ジルの演奏に合わせて、エンジェは自分はまだまだ元気だとミャアミャアと鳴く。
そして、ジルも演奏を続けながら、音程の外れた歌声をシンに披露する。
当初は言うことを聞かないジルとエンジェに不機嫌そうにしていたシンも繰り返し続くジルの考えた単調な歌詞に声は出さずとも唇を動かし始めた。
明るく、それでいてどこか優しげな竪琴の音色が野営地に静かに響き渡った。
翌朝からシン達は数箇所の開拓村を訪ね、村からの避難を促し、再度昨日避難を断った開拓村に赴いた。
グロウウェルが何とか村長の意思を変えようと熱意を持って説得を試みたが、村長は静かに首を振るだけだった。
だが、ほとんどの村人は村に残る意思を示したものの、十数名のの村人は街へと避難することに決め、わずかばかりの荷物と共に騎士達が用意していた馬車の前へと並んだ。
「村長、あの……」
まだ若者と言える村人が見送りに来てくれた村長に挨拶をしようとするが、言葉が詰まって出ない。多くの村人が村に残る判断を取ったと言うのに、自分たちだけが魔物を恐れ、安全であろう街へと避難するのだ。後ろめたい気持ちもどこかにあったのだろう。
「そんなしけた顔するんじゃない。別にお前らが間違っているわけじゃないんだ」
意地を張っているのはこの若者達ではなく、自分たちの方だと言うのはわかっている。
年を取り、妻や幼い子どもを抱える自分たちとは違い、せいぜい20を過ぎたばかりの若者なら、比較的街でも仕事を探せるかもしれない。きっとやり直しがきく。
避難することを選んだ者の中には夫婦もいるが、まだ子どももいない若い夫婦だ。
避難先でしばらく生活の面倒を見てもらえる間に何とか自分達二人の食い扶持を探すつもりなのだろう。
「仕事探すんだろう?」
「……はい」
申し訳なさそうにしながら村人は村長の言葉に頷いた。
「上手く見つかるといいな」
「ありがとうございます」
「とは言っても、世の中そう甘いわけじゃないからな。だからな、お前らの住んでいたところはしばらくそのままにしてやるよ」
話を聞いていた他の村人達も目を大きく見開いて、村長の顔をまじまじと見ている。
「ここはな、お前らの故郷なんだ。お前らが帰ってきていい場所なんだよ。……まあ、お前らが出て行った後に新しい奴が先に村に来たんなら、お前らの方が新入りと見なすからな。先輩風吹かせるのは俺が許さねえからそれだけはよく理解した上で戻って来るんだな」
「……はい!その時は、また一から」
嗚咽の混じった声だが、村を離れる村人達は口々に村長に挨拶を行う。
「グロウウェル様、お手間を取らせて申し訳ない。そろそろ出発してください」
一通り村人達に声をかけ終わった村長はグロウウェルに一礼してそう口にした。
「本当に考え直してはもらえんのだな」
「はい、危ないかもしれませんが、私たちはこのままこの村で過ごしたいと思います」
グロウウェルは軽くため息をついた後、馬車の御者に目くばせを行う。
ゆっくりと馬車は村の外に向かって進み始め、少しずつ速度を増していく。
村長とシン達はその馬車の姿が小さくなるまで、その行方を見守り続けた。
その後、シン達はまだ日が明るいうちに野営地へ戻り始めた。
「グロウウェルさん、明日も説得に行く予定ですか?」
帰路の途中、シンはグロウウェルに尋ねるとグロウウェルは軽く首を振った。
「わからん。残る決断をした者達の意思は固いようだからな。ダルタニア、ロッソエル両隊長に報告の上、判断を委ねる形となる。明日から、我々もサイクルサーペント、そして単眼の王に備えることになるかもしれん。皆、備えを怠るなよ」
グロウウェルの呼びかけに騎士達は一斉にオウッ!と応じる。
そして、ラインバッハは髪を軽くかき上げて、気障ったらしく答えた。
「我々、栄光あるシルトバニア辺境伯領騎士団にかかれば、単眼の王と言えど、恐れるに値しないはずです」
まだまだ若輩者のラインバッハの発言だが、その発言を茶化す騎士はいない。
皆がそうあってほしいと思っているからだ。
単なる願望かもしれないが、真剣な表情で頷きながら、再度騎士達はオウッ!と答えた。
だが、暗くなる前に野営地へと到着したシン達が目にしたのはサイクルサーペントとの戦闘で負傷し、野営地に担ぎ込まれる多くの冒険者と騎士達。
昨日以上の数のサイクルサーペントが今日も多くの冒険者と騎士達のグループを襲撃したという知らせだった。
幸いにして、死者の数は昨日よりは少ない。
魔物が他の魔物を餌として、奇襲をしかけたということについて、注意が促されていたからだ。
それでも野営地の中は昨日以上に暗い雰囲気に包まれた。
シルトバニア辺境伯領の南西部出身のある冒険者が思いだし、口にした単眼の王という言葉が野営地の様々な場所でひそかに囁かれるようになったからだ。
その言葉を受けて、詩の内容を思い出す者。
その言葉を初めて聞くが、言い知れぬ不安に襲われる者。
多くの冒険者が今回の魔物討伐について何も知らせない第1騎士団と第4騎士団の上層部に不満を抱き始めたその夜、何人もの冒険者が魔生の森の方向から大木が倒れるような音が時折聞こえると口にした。
「……不味いな」
夜も更けた頃、シンは焚火に当たりながら、ぼそりと呟いた。
もし幾人かの冒険者が不名誉や罰則を覚悟で、この魔物討伐から抜けることを決断すれば、他の多くの冒険者も歯止めがきかず、同様の判断をしそうだと感じていた。
命は誰であっても惜しい。
こんなところで未知の魔物に殺されるのは御免だというのは当然のことだ。
恐怖や不安は伝染する。
たとえ、相手が強大であっても、まったく姿かたちを知らされない不安よりかはきっとマシなはず。
「言ってみるべきか」
シンはダルタニア、ロッソエルの両名を訪ねて、単眼の王、その眷属であるサイクルサーペントの情報についてある程度公表するように求めるべきか悩んでいると野営地の東の方から、大きな歓声があがった。
シンが振り返ってみると東の離れた場所から多数の灯りが見えた。
松明を手に持ち、暗闇の中、行軍する騎士の集団だ。
グランズールに予備兵力としていた騎士達が応援にかけつけたのだろう。
それから1刻(2時間)ほどの間に、野営地の北東からも、そして南東からも幾度となく歓声があがった。
シルトバニア辺境伯領北部のアザンドラ山脈、南部のウラヌイ湖で魔物討伐を行っていた第3騎士団、第2騎士団からの応援がその夜続々と駆けつけた。




